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2020年11月の記事一覧
夢見るそれいゆ 101
「ちなっちゃんが闇に…?」
私はゾッとした。あの絶望と虚無の中にちなっちゃんがいたなら、早く助け出さないと。
「可能性は高いです。ひなたさんの場合は私達が邪気を祓えましたけど、千夏さんは時間が経ってしまっているから手遅れになってしまってるかもしれません。」
「そんな!」
闇に飲まれた人間は、最悪命を落としてしまうとクレハが前に言っていた。
「御葉様!何とかちなっちゃんを助けられないのですか?」
夢見るそれいゆ 100
拝殿に向かうと、御葉様が立っていた。
参拝している人はいるものの、彼女は私にしか見えていないようだった。
「ひなた殿、お久しぶりです。話したいことがあるので、私達の周りだけ『空間を別』にしました。」
八幡宮の精霊の中でも、一番格上の御葉様。そんな離れ業も出来るのかと驚いた。
「まずは、八幡神さまにお参りを済ませてください。」
御葉様に促され、私は願いを述べた。
「八幡神さま、どうか千夏さんが
夢見るそれいゆ 99
「ちなっちゃんは、國吉先輩が私のことを好きだって気づいていたんだと思う。
あまりにも私が先輩に関心を持たなかったから、頭にきたんだよ。」
ちなっちゃん本人から直接聞いてはいない。
でも好きな人をずっと見ていたら、きっと気づいてしまう。
「それでも、ひなたを傷つけていい訳ではないわよ。人間のこころは、押し付けられるものではないもの。」
クレハは自分のことのように、私を心配してくれている。
「クレ
夢見るそれいゆ 98
「ふーん、あの男と何かあったわね。まあ、深くは聞かないわ。」
クレハは何か察したらしい。
こないだは夏越クンを名前で呼んでくれたのに、また「あの男」呼ばわりに戻ってしまってる。
「ごめん、クレハ。今日は國吉先輩がいるから此処に長居出来ないの。実は、八幡さまに願いごとがあって来たの。」
私は、本題を切り出した。
「願いごと?」
「ちなっちゃんが行方不明になってしまったの。無事に見つかるようにお願い
夢見るそれいゆ 97
交差点から5分程歩いて、八幡宮の鳥居前に着いた。
ちょうどアイスを食べ終わったので、鞄の中に空の袋をしまおうとしたら、
「ひなたさん、家のゴミ箱に捨ててくるよ。」
と國吉先輩が手を差し出した。
「あ、じゃあお願いします。その間に、私は拝殿で参拝してきます。」
私は先輩にアイスの袋を手渡した。
先輩が家に入ったのを見計らって、私は紫陽花の森に行った。
「クレハ~、いる?」
私は、親友である精霊の
夢見るそれいゆ 96
國吉先輩が私に買ってくれたのは、チョコモナカのアイスだった。
先輩はソーダ味の棒アイスの袋をコンビニ内のゴミ箱に捨てた。
「確かに、小さい頃歩き食べとかしたら親に怒られたよ。」
外に出たら、燃えるような夕空だった。
交差点の信号が赤だし、私は「いただきます。」と言ってアイスを頬張った。
「ひなたさんは、幸せそうに食べるね。」
國吉先輩が私のアイスを食べる姿を見て、微笑んでいる。流石に、ちょっと
夢見るそれいゆ 95
私は八幡宮に寄らない時は、学校前でバスに乗り下校する。
つまり、学校の近くの八幡宮に住んでいる國吉先輩と帰ることは通常無いのだ。
八幡宮に寄る時だって、多忙な先輩と帰宅時間が被ることは今まで無かった。(告白された時は、私が長居し過ぎた。)
だから、クレハや精霊達と気ままに会えるのだが。
今日は八幡宮に行っても、クレハと喋れないな~と思っていたら、急に首に冷たさを感じた。
「ひゃっ!!」
思わず
夢見るそれいゆ 93
私は何故、國吉先輩に想われているのだろうか。
先輩に親切にした覚えもないし、こないだ告白された時には全速力で逃げた。
今、はじめてこの人のことを知りたいと思った。
「心当たりがないなら、もう帰っていい。改めて気づいたことがあったら、ここに連絡するように。」
県警の人が、私達に名刺を差し出した。
「…あの、ちなっ…千夏さんを早く見つけて下さい。絶交されてしまったけど、私にとっては…やっぱり『親友
夢見るそれいゆ 92
放課後、県警の人に中高合同で使われている図書室に呼び出された。
県警の人は50代ぐらいのオジサンである。
そこには、國吉先輩もいた。
「──君と行方不明の子が、この男を巡って言い争っているって証言があったのだが、それは本当のことかい?」
この間ちなっちゃんと揉めてたところを見ていた人がいたらしい。
「本当です。」
私は小さい声で答えた。
「君は彼女の行方に何か心当たりがないか?」
県警の人が
夢見るそれいゆ 91
パパ達の寝室を出る時、ママが私にそっと耳打ちした。
「私ね、ひなちゃんと恋バナするの夢だったの──。」
朝、登校したら教室の中がざわついていた。
「おはよう。ねぇ、どうしたの?」
私はクラスの女子に話しかけた。
「お、おはよう。昨日から千夏さんの行方が分からないって、家族から学校に連絡あったんだって。」
「ちなっちゃんが行方不明?」
私は心臓が締め付けられるような感じがした。
「ひなたさん、友
夢見るそれいゆ 90
それにしても、お酒の強いパパがここまで酔っ払っているのは珍しい。
パパのお酒の嗜みのモットーは、「お酒は楽しく、飲まれない」なのに。
「ひなー。実はな、今日夏越が『変』だったの俺のせいなんだ。」
「え?」
「昨日の夜さ、夏越に言っちまったんだよ。『ゆかりちゃん美人だしモテるだろうから、お前も大変だな』って。」
昨日まで機嫌の良かった夏越クンが、今日妙に自信を無くしていたのは、パパの言葉のせいだっ
夢見るそれいゆ 89
玄関のドアが開く音がした。
「ただいま~。」
酔っ払ったパパが帰ってきた。
パパは玄関マットの上に座り込んだ。
「柊司くん、お帰り。夏越くんは?」
ママが聞くと、
「酔い潰してきたから、夏越ん家に送ってった。」
とパパは親指を立ててニンマリした。
酔い潰して「きた」って言い回し、はじめて聞くんだけど…。
「おぅ、ひな。夕飯作るの忘れてすまなかったな。」
パパが頭を下げた。
「パパ、私自分ではじ
夢見るそれいゆ 88
ママから返ってきた答えは、私にとって意外なものだった。
「ひなちゃんにとって──ゆかりちゃん…精霊の時は『紫陽』だったかしら、彼女を想う夏越くんが彼そのものなのよね。変ではないわよ。」
「ママ、私こんな想い間違ってるって言われると思った。」
「恋をすること自体は悪いことではないわよ。母親としては略奪愛はオススメしないけど。」
何だろう、ママが珍しく頼もしく感じる。
ママがじっと私を見つめた。
夢見るそれいゆ 87
私はママの言葉に顔が熱くなった。
「私が夏越クンの恋人?考えたことがなかったよ。」
夏越クンの恋心に自覚したのも、つい最近なのだ。
「夏越くんの想い人がいるのは私も柊司くんも気づいていたわ。だけど、もう『過去の人』だと思ってたのよ。ひなちゃんだったら夏越くんと仲良しだし、もう少し大きくなったらお似合いだと思ってたの。」
「そうなんだ。」
夏越クンが恋人だったら、どうなんだろう。
私の中で【紫陽