風の季節ほか

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紫陽花の季節、君はいない 28

しばらくすると、明るさに目が慣れてきた。
俺は鳥居の外にいたはずなのに、八幡宮内の随神門に立っていた。

「何か変だ。」
この明るさはまるで昼間ではないか。
それに、此処から見える拝殿の側の桜は花が咲いている。

俺の後ろから、セーラー服を着た女の子が一人で歩いて来た。
「夏越クン──。」
知らない女の子から俺の名前が出てきて、俺はドキッとした。
しかし、彼女は俺を見ていない。
俺と同じ名前の知り

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夢見るそれいゆ 184

「今付き合っているってことは、羊司先輩どうやって挽回したんすか?」
皆が気になってたことを絹人くんが質問した。

「後から教室に来た木綿子から更紗がキレた理由を聞いて、俺は真っ青になったよ。
俺の片想いだと思っていたのに、更紗が告白してくれた。
なのに、『おやつ』って返事して…俺は本当に大馬鹿だった。
俺は急いで更紗を追いかけて、誤解を解いたよ。
そして俺からも告白…って、もうこの話はおしまい!」

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紫陽花の季節、君はいない 27

6月21日。紫陽が消えてしまった日。
眠れずにいた俺は、何かに取り憑かれたように日の出前に家を出た。
雨は降っていないが、じめっとしている。
ふらふらと歩いて辿り着いたのは、八幡宮の鳥居の前だった。

此処までやって来たのに、境内に入るのは躊躇われた。

紫陽花ノ季節、ナノニ君ハイナイ。
分カッテイタノニ、来テシマッタ。

鳥居の柱にもたれ掛かる形で俺は座り込んだ。
ろくに眠らずに歩き続けたからか

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hollyhock ─birthday─ 後編

「柊ちゃん、他の姉妹にはあおいさん会わせたの?」
詩季さんが柊司くんに尋ねた。
「あおい、末っ子の夏耶(かや)には会ったよな?」
「うん、結婚のご挨拶の時にご両親と一緒にいた女の子よね。」
夏耶ちゃんは小柄だけと柊司くんに似て目鼻立ちはっきりした女子高生だった。

「二番目の姉の秋穂(あきほ)と、俺の二つ下の妹の椿綺(つばき)は実家を出てるから、まだ会わせてないんだよな。」
柊司くんが腕を組んでい

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hollyhock ─birthday─ 前編

「夢見るそれいゆ」主人公ひなたの母親、あおいさんのお話です。
ひなたがまだお腹にいる頃の時代です。

2021年7月24日。私は夫の柊司くんの車の運転で久しぶりに遠出しているの。
妊娠してから最低限しかお出掛けしなかったから、とても楽しいわ。

「あおい、今度の誕生日は外食にしようか。」
という柊司くんの提案で、柊司くんのお姉さんの旦那さんのレストランを貸し切りにしてもらったの。

それにしても、

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夢見るそれいゆ 183

「私から告白したのは本当だよ。スルーされたけど。」
更紗先輩が羊司先輩をジロッと見た。
「えー、ひどいですぅ。」
真麻ちゃんが引いている。
羊司先輩が告白をスルーしたなんて、私には信じられなかった。

「あれはタイミングが悪かったんだ…。」
羊司先輩が事の顛末を話し出した。

「中二の冬、俺は放課後一人でスキー宿泊学習のしおりを製本していた。
その時、突然教室に更紗が入ってきて言ったんだ。
『スキ

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紫陽花の季節、君はいない 26

そもそも、俺は自分のことを話すのが得意ではない。
俺には趣味も特技もない。
「つまらない人間ね。」と義母に言われたこともある。
誰も俺に興味など持たないし、俺も誰かに興味がない…はずだった。

『こんにちは!アナタ、毎日見かけるよ。私、アナタと友達になりたいな。』
八幡宮で紫陽から俺に話し掛けてくれた。
彼女を通してなら、つまらなかった世界も意味のある世界に思えた。

紫陽花の精霊である彼女には、

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紫陽花の季節、君はいない 25

俺は社会勉強の為のバイトと就職活動を始めた。
俺はなるべく今住んでいるアパートから遠いところを選んで、面接に行った。
柊司達に災厄を招く前に、此処から離れなければという一心だった。

しかし、自分のコミュニケーションスキルが此処までポンコツだとは思わなかった。

コンビニのバイトでは、仕事内容はすぐに覚えられたものの、女子高校生のバイト仲間に「トロトロやってんじゃねえ」と怒鳴られたり、客にプライベ

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夢見るそれいゆ 182

「着替え、終わったよ~。」
更紗先輩が衝立からひょこっと出てきた。

ウエスト切り替えの白いワンピース。上は綿レース生地、下は無地の綿ローン生地。
ベルトはレースで編まれていて、結び目に花のコサージュが付いている。
裾にもレースが控えめに施されている。

「白一色だけど、素材で変化を付けてみたよ。
ベルトとコサージュと裾のエジングは、羊司が編んだよ。」
更紗先輩が作品の説明をした。

「レース使っ

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紫陽花の季節、君はいない 24

夜明け前、俺はひどい胸の締め付けと吐き気で目を覚ました。
苦しくてもがいたので、シーツがぐしゃぐしゃになってしまっていた。

「…紫陽、紫陽。」
すがるような気持ちで、彼女の名前を繰り返し呼んだ。
頭の中でリフレインする義母の呪いの言葉を打ち消したかった。
しかし、呼べば呼ぶ程呪いが心に刻まれていくようだった。

『貴方ノオ友達ノ奥サンヤ子ドモハ、無事デ済ムカシラネ──』

これは夢だ。義母が実際

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