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夜
2024年7月16日 22:53
今年秋の発表会の曲を何にしよう?ここのところずっと考えていたけれど、今習っているバッハ無伴奏5番を超えるものを見つけられないでいた。チェロ師匠からの提案もいくつかあったが、どうもピンとこない。昔は先生指定の曲をやっていたが、どうしても好きになれない曲を弾いた際、4小節だけ弾いてステージを降りるということをやらかした(もちろんこっ酷く怒られた)。それ以来、先生は私に無理強いをしなくなった
2024年6月24日 22:34
「今日何時に帰ってくる?」仕事から家に帰り、すぐにレッスンの準備をして再度出掛けようとしたとき、ダンナに聞かれた。「んー、たぶん18時?センセの気まぐれで延長することがあるかも。」前回のレッスンは2時間半だった。ダンナ、何か悟ったような顔。「あー、あの人めんどくさいからなぁ。わかった。帰るとき、連絡ちょうだい。パラグライダーの大会でもらったビールでBBQしようよ。」センセ…
2024年6月4日 23:14
「センセ、私また、センセを怒らせるようなこと、しました?」そう言いながら、私はおずおずとレッスン室に入った。先生、キョトンとした。「なんで?」「だって…メールに返事がなかったから。」私は先日の所属オケ定期演奏会の翌日に先生へ『おかげさまで無事終わりました。』と長文メールを送っていた。「ああ…!」先生、思い出したように頷いた。「ゴメン!メールは読んでいたんだけど、返事するタイ
2024年5月25日 23:37
「夜の職場、大丈夫なの?」レッスン室へ入るなり、先生にそう言われた。私の職場の事故?事件?が県内版トップニュースになったのは、今週初めのことだった。その時私は千葉へ短期出向していた。報道の随分前に、私には連絡があった。何せ、当事者の一人だったから。「大丈夫ですよ。だって、事故なんて最初からなかったんですから。」「どういうこと?」と先生が訝しむのは無理もない。ここに具体的
2024年5月16日 23:15
先生には先日会ったばかりだが、レッスンは1か月ぶりだ。私が楽器を準備して椅子に座るなり、先生が話し始めた。内容は、レッスンと関係ないことばかり。仕事のこと、親戚のこと、最近のニュースのこと。先生のお喋りが途切れたタイミングで、私は言った。「今の時間、センセにとっては休憩時間になってるんでしょう?」先生は一人で30分も喋っていた。私の前には4人、後ろには1人、レッスンが入って
2024年4月10日 23:22
レッスンを行うビルのエレベーターが改装工事中だった。仕方がないので、チェロを背負って階段で5階まで上がる。レッスン室に入ると、「階段、大変だったろう。」と先生が労ってくれた。「いいえ。貧血治ったから、楽勝ですよ♪」しまった。口が滑った。案の定、先生の表情が険しくなった。「なに、お前また貧血になってたの?」幼少期からの栄養不足が祟って、私は栄養の吸収が悪い体質である。チ
2024年3月25日 22:54
「夜、久しぶりだなぁ。3週間ぶりか。」レッスン室に入ると、開口一番先生にそう言われた。3週間ってそんなに久しぶりでもないと思うのだが、なんだかんだで先生とは毎週顔を合わせていたからな。「確定申告は終わりましたか?」私が聞くと、「15日には終わったよ。年明けから少しずつ書類揃えるようにしていたからね。」先生、得意げにVサインしてみせる…かわいい。先生の家、物が多いからなぁ。「えら
2024年3月3日 23:14
扉が半開きになったレッスン室から“バッハ無伴奏チェロ組曲3番サラバンド”が聴こえる。この華やかで軽やかな演奏は先生のものだ。すぐにわかる。「なつかし〜。」そう言いながら、私はレッスン室に入った。私が2年前の発表会で弾いた曲。(私のサラバンドは重っ苦しい。低音を効かせたがるからだ。)先生は私に気付かないようで、演奏を続ける。いつものことだ。きっと、どこかの演奏会で弾く予定があるの
2024年2月19日 23:53
自宅練習で時間があれば、オケで演奏するブラームス交響曲第3番のいずれかの楽章を、音源と合わせて通して弾くことにしている。1楽章の最後の部分、弦楽器の嵐が去って、天から光が差し込むようなチェロのソロを弾く時なんか、チェロやってて良かった、オケやってて良かった、生きてて良かった!とさえ思えて泣けてくる。 ★前の生徒さんと入れ替わりにレッスン室へ入った。「先日はお邪魔
2024年2月5日 22:42
私のレッスンは、ほかの生徒さんが入っていなければ、なるべく一番最後にしてもらっている。レッスン室の後片付け(ピアノの埃を払ったり、簡単に床掃除をしたり)を手伝うためだったが、最近は先生の話が長く、レッスン時間が大幅に延びるためだ。今日も、私がチェロを持って椅子に座るなり、先生の話が始まった。内容はレッスンのことではなく、日常のとりとめのないもの。仕事に遅刻しそうになったとか、昨日何を買って
2024年1月22日 22:36
先週に引き続き、今週もレッスン。今回は、私が一番最後だ。「今日はセンセのお父さんの月命日じゃないですか。こんな遅い時間までレッスンしていていいんですか?」楽器をケースから取り出しながら私が聞くと、先生がびっくりした表情をした。「どうしました?」「よく覚えているね。」「…そりゃあ、そうですよ。」先生の返事に私は訝しみながらそう言った。先生はちょっと困ったように私の疑問に答
2024年1月15日 22:52
年明け最初のチェロレッスン。先生のご指名で私がトップバッターだ。昨年末、先生は先生のお父さんを看取った。私と話がしたいんだろうと思い、だいぶ早めに家を出た。音楽教室に入ると、シン、と静かだった。時刻はまだ午前9時を過ぎたばかりだ。一番奥のレッスン室だけ、明かりが灯っていた。教室の入り口の扉が私の背後でパタンッと閉まったと同時に、その明かるい部屋から「お入り。」と先生の声がした。
2023年12月14日 23:06
激務が続いている。この時ばかりは、非日常の時間が過ごせるレッスンの日が楽しみだった。「こんにちはー!」と私がレッスン室に入るなり、先生がポカンとした。「雰囲気が変わった?発表会の時と違う…あ、髪切ったのか。」さすが、おしゃれにこだわる先生。私の家族、職場仲間は誰も気づいていない。ここのところ、人前に立つ仕事(発表とか講師とか議長とか)が多いから、せめて身綺麗にしておこうと、
2023年11月28日 23:02
「センセ、外は雪が舞ってますよ。」言いながら、私はレッスン室に飛び込んだ。室内は暖かい。「うん。急に寒くなったもんなぁ。」と、先生。「風邪に気をつけてくださいね。」と私が言うと、先生「僕は今のところ健康なんだけれどね、」と言って、浮かない表情をする。「何かあったんですか?」「仕事仲間のヴァイオリニストがね。脈が遅いということで病院へ行ったら、あっという間に心臓に付ける電子機器