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24.2月チェロレッスン①:音楽家のスポーツ障害。

私のレッスンは、ほかの生徒さんが入っていなければ、なるべく一番最後にしてもらっている。
レッスン室の後片付け(ピアノの埃を払ったり、簡単に床掃除をしたり)を手伝うためだったが、最近は先生の話が長く、レッスン時間が大幅に延びるためだ。

今日も、私がチェロを持って椅子に座るなり、先生の話が始まった。
内容はレッスンのことではなく、日常のとりとめのないもの。仕事に遅刻しそうになったとか、昨日何を買って何を食べたとか。あと、少しの愚痴。

私はだらしなく背中を丸めてチェロを抱きかかえて、ふんふんと聞き役に徹する。

少し前までは、私ばかりしゃべっていて先生は聞き役だったのに、どうしたことだろう。すっかり逆転してしまった。

先生が満足するまでしゃべったかな、と感じたタイミングで、先生の都合を尋ねた。

「来週の◯日?午後なら空いているよ。」と先生。
「じゃあ、その日にお家へ行きます。その時、存分にお話聞きますから。」
先生は、一人で1時間もしゃべっていた。
「もう、こんな時間か。ゴメンゴメン。レッスン始めよう。」

先生、こういう雑談できる人が近くにいないのだろうか。
先生に彼女でもいればいいのに、再会して3年、その気配はない。
以前、「良い女性ひといないの?」と聞いたことがあったが、返ってきた答えは「その話はしないで。」だった。
何かあったのかもしれないが、それを私が知る機会はない。

           ★

バッハ無伴奏チェロ組曲5番のプレリュード。
前回3、4ページについて指導を受けた。

一通り弾いてみせると、「ああ、良くなったね。」と、前回指摘を受けたところはOKとなった。

166小節目からは、フィナーレへ向かう転換部だ。
「小節最初の16分音符は、書いてないけど、テヌートだ。」
短く区切っていた。
「172小節目からの最初の重音、下のGは鳴らし過ぎないように。重ねるEsが聴こえるなくなる。」
なるほど。確かに。
とてもカッコいい部分なので、ついつい興に乗って鳴らし過ぎてしまう。

ラスト5ページ目も聴いてもらう。

「ああ、大体いいんだけど。204小節の3拍目から205小節の1拍目、音が掠れるようだから、1ポジはやめて、Esから2ポジにしよう。」
はい、はい、出来そうです。

「219小節のドッペル、取りにくそうだなぁ。」
どうしても、モタモタしてしまう。
「開放弦で一気に1ポジから4ポジに上がれるように練習してね。」
拡張型だから難しいけれど、がんばります。

          ★

「左腕、痛むのか?」

レッスン後、左腕を揉んでいたら、先生に言われた。

「痛いと言いますか、常に重いんです。」
と、私。

「それは練習のせい?」
「ブラームス3番の1楽章、4楽章の楽譜半ページ分に及ぶ高速パッセージが弾けなくて。しつこく練習していたら、左腕の調子が悪くなってしまいました。先月(工房の)お兄さんに、そんな練習の仕方はいけないって、注意されたところです。」

先生、ため息をつく。
「そういうの、いざ練習を始めると、あっという間に1時間2時間やってしまうんだろ?わかるよ。」
「…そうですね。でも、今は時間を決めて練習するようにしています。それでも、高速パッセージはキツイかな。ほぼできるようになったのですが、繰り返すのはちょっと大変です。」
「右腕は?痛くないか?」
弓を持つのは右手だ。ドキリとした。
「センセから見ると、演奏中の私の右腕、無駄な力が入っているように見えますか?」
私は苦笑しながら尋ねた。変な癖がついていただろうか?
先生、軽く笑った。
「ハハハ、そうじゃなくて。ブラ3は右腕も結構忙しいだろう?だからだよ。オケやってると身体の故障は起こりやすいね。1曲がやたら長いから。」

そっか。

「ヴァイオリン、ヴィオラのプレイヤーはあの姿勢で弾くから、右腕を結構痛めるらしいね。
夜はそこら辺は問題なかった?」

私は学生時代、ヴィオラを弾いていた。

「若かったから…寝れば回復してました。」
あの頃は、徹夜で弾いていても平気だった。
「センセも腕の故障の経験、ありますか?」

今度は先生が苦笑い。
「あるあるだよ。というか、音楽家やってて悩んでない人っていないんじゃないかな?指、両腕、背中、鎖骨にある腕神経がヤラレる、なんてのもあるよ。チェロ弾きは腰痛にもなりやすいね。」

最近の整形外科はスポーツドクターが主流になってきたが、ミュージックドクターなんていたら、需要がありそうだなぁ。東京に音楽専門外来があるのを聞いたことがある。コチラの県では聞いたことはない。

その後「練習の合間にやるといいよ。」と、上半身の運動を教わった。

「意外といいのが、ラジオ体操。オケで合奏する前にやるようにしてるよ。」
練習スタジオ前の廊下で、先生はぴょんぴょんしているのだろうか?
建築現場のスタッフさん方のように、楽団員全員で合奏前にラジオ体操をしている場面を想像して、一人でおもしろくなってしまった。

あとは、いつものようにレッスン室を片付けて、「では、来週伺いますね。」と言い、挨拶して別れた。

おみやげは何にしようかな。