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24.7月チェロレッスン①:エレジー。

今年秋の発表会の曲を何にしよう?

ここのところずっと考えていたけれど、今習っているバッハ無伴奏5番を超えるものを見つけられないでいた。

チェロ師匠からの提案もいくつかあったが、どうもピンとこない。

昔は先生指定の曲をやっていたが、どうしても好きになれない曲を弾いた際、4小節だけ弾いてステージを降りるということをやらかした(もちろんこっ酷く怒られた)。それ以来、先生は私に無理強いをしなくなった。

アレは若気の至りで、もちろん、今はそんなことをするつもりはない。

           ★

「はい、これが楽譜。」

レッスン室へ入るなり、先生がクリアファイルを私にくれた。

昨晩、寝る前に先生に「フォーレの『エレジー』はどうでしょう?」とLINEしていた。

朝起きると、「楽譜、持っていくよ」とレスがあった。

「エレジー、楽譜1枚だけなんですね。2枚くらいあるのかと思っていました。」

そうだよ、と先生。

「1枚だけなのに、楽譜の2/3が真っ黒ですね…。」

おたまじゃくしがいっぱい…(書き込みは先生のもの)

先生が鼻で笑う。
「真っ黒の楽譜が意味するところは、難曲だってことだ。1ページしかないから簡単、じゃない。」

「難しいのは知っていますよ。だからセンセに真っ向から反対されると思っていました。楽譜くれたってことは、弾いて良いってことですよね?私がLINEしたとき、センセは正直どう思いました?」

「『そう来たか』って思ったね。チェロの上級者は、エレジーは必ず通る道だから。」

「でも、センセからはエレジーを出して来なかった。『お前には背伸びだ』って思っているのではないですか?」

先生は、自身の楽器のエンドピンを出しながら言った。
「いや。レベル的に合ってるよ。ボクから出さなかったのは単に忘れていただけ。しばらく弾いた人がいなかったからね。
もし夜が『ドボコン(ドボルザークのチェロコンチェルト)やりたい』と言っていたら、速攻無理だと言ったよ。」

さすがにドボコンは考えたことはない。

先生は「ただし…」と続ける。

「練習が3か月間では、ボクが求めるレベルに達するのは無理だ。お前、ただでさえ仕事が忙しくて集中練習できないだろう?
やるなら早目に準備を始めて来年演奏する。今年は違う曲にしよう。
夜が最初に提案してきたバッハ『アリオーソ』は?弾いてみた?」

私、ため息混じりに応えた。
「はい。弾いてみましたが、こう、いまいちトキメかないんですよ。無伴奏1番サラバンドも、です。」

先生、苦笑する。

「お前、ホント短調好きだな。」

無伴奏5番もエレジーもC-mollだ。

「じゃあ、仕方がない。5番にするか。」
「…そうなりそうですね。」
「今まで散々練習してきたけれど、やることはたくさんあるよ。人に聴かせるための演奏方法を、3か月で詰めていこう。あと、出来るだけ暗譜で。」
「わかりました。」

           ★

「あ。無伴奏の楽譜、忘れた。」
と、先生。

「センセ、前々回も、その前も忘れてきましたよ。ま、センセは楽譜なくても覚えているから良いんでしょうけれど。」
私は呆れて言った。

先生、後ろ頭を掻く。
「ゴメン。今無伴奏やってるの、夜しかいないからさ。」

皆さん、何の曲をやっているんだろう?

「では5番を最初から弾きなさい。」と言われ、通して弾いた。

弾き終えると、先生は首を傾げた。

「お前、何でmpメゾピアノで弾いてるんだ?」

へ?
先生、何を言ってるんだ?

「ガンガン鳴らしてますよ?音、小さいですか?」
「だよなぁ。ちゃんと弾いてるように見える。
とすると、楽器の機嫌がすこぶる悪いということだ。全然鳴ってない。」

私にはうるさいくらいに聴こえる。

「側鳴りになってる。湿度のせいか。あとは、夜が楽器を弾いていないか。」
「あ…。」

レッスンとオケが休みだった約1か月間、練習できないくらい仕事を詰め込んだ。

「弾いてなかったのか。
古い楽器は放っておくとすぐに機嫌を損ねるんだよ。どこかで時間作って、2時間くらい大音量で弾きなさい。そうすればまた鳴るようになるから。」

明日はオケ練あるから、4時間がっつり音出し出来るだろう。

曲に関しては、序奏の付点四分音符が気持ち短いと指摘される。
悪い癖がついてしまった。

下2本の弦、G線C線をもっと響かせなさい、とも言われる。

GゲーCツェー、僅かにキーキー鳴るから、ちょっと控えめに弾いたんです。」

やっぱり湿度のせいかな?

先生、なるほど、と言う。
「だから低音が弱々しかったのか。
キーキー鳴るって、弦の寿命じゃないの?」

寿命?!まさか。

「GとC張り替えてから、まだ半年しか経ってませんよ?」
「お前、GとCに細いバーサム張ってるだろう。細い弦はあまり寿命が長くないの。
しかも、お前はオケで弾いてるじゃない。オケだと低弦ガシガシ弾くから、余計弦の寿命が短くなるの。」
先生は右手に持った弓で、トレモロを弾く真似をして見せた。

プロのオケマンがそう言うのだから、間違いないだろう。

「そんな…。」私、がっかりした。

弦は輸入ものだから、円安の影響でとっても高くなった。チェロの弦は長いから、ヴァイオリンのものより値が張る。

「バーサムのC弦、細いから押さえ易いし、価格も安くて良かったのに…。」
「太いけれど、スピロコアに戻したら?そのほうが長持ちすると思うよ。」

先生の楽器には、ADG線にバーサム、C線にスピロコアを張っている。
「センセは今はソレがスタンダードですか?」
「んー。何を弾くかによるかなぁ。
今度のアンサンブルでは明るい響きが欲しいから、ラーセンのイル・カノーネのDirect&FocusedをAとDに張るつもり。」

先生、チェロケースから出して見せてくれた。

「あー、コレ、(値段が)高いヤツですよね。私にはこんなに良いのはいらないなぁ。」
「うん。高いね。イル・カノーネは細いから、ボクはGとCには使わない。理由はバーサムと一緒。長持ちしない。」
「半年で弦交換は、懐が痛いです。」
「比較的安く買えるネットショップ、教えてあげるよ。」

サイト検索して、レッスン終了。

松脂も、また落っことして粉々にしてしまったので、買わねばならぬ。
弦楽器、維持費かかるなぁと、ため息をついたのだった。



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