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チェロレッスン記録

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習っているチェロのレッスン記録です。
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24.5月チェロレッスン①:「聴きに行けるかも。」

24.5月チェロレッスン①:「聴きに行けるかも。」

先生には先日会ったばかりだが、レッスンは1か月ぶりだ。

私が楽器を準備して椅子に座るなり、先生が話し始めた。

内容は、レッスンと関係ないことばかり。
仕事のこと、親戚のこと、最近のニュースのこと。

先生のお喋りが途切れたタイミングで、私は言った。
「今の時間、センセにとっては休憩時間になってるんでしょう?」

先生は一人で30分も喋っていた。

私の前には4人、後ろには1人、レッスンが入って

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24.4月チェロレッスン①:ちょっとしんどい時期。

24.4月チェロレッスン①:ちょっとしんどい時期。

レッスンを行うビルのエレベーターが改装工事中だった。
仕方がないので、チェロを背負って階段で5階まで上がる。

レッスン室に入ると、
「階段、大変だったろう。」
と先生が労ってくれた。

「いいえ。貧血治ったから、楽勝ですよ♪」

しまった。口が滑った。
案の定、先生の表情が険しくなった。

「なに、お前また貧血になってたの?」

幼少期からの栄養不足が祟って、私は栄養の吸収が悪い体質である。

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24.3月チェロレッスン②:次のステップへ。

24.3月チェロレッスン②:次のステップへ。

「夜、久しぶりだなぁ。3週間ぶりか。」

レッスン室に入ると、開口一番先生にそう言われた。
3週間ってそんなに久しぶりでもないと思うのだが、なんだかんだで先生とは毎週顔を合わせていたからな。

「確定申告は終わりましたか?」
私が聞くと、
「15日には終わったよ。年明けから少しずつ書類揃えるようにしていたからね。」
先生、得意げにVサインしてみせる…かわいい。
先生の家、物が多いからなぁ。
「えら

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24.3月チェロレッスン①:無伴奏チェロ組曲の楽譜

24.3月チェロレッスン①:無伴奏チェロ組曲の楽譜

扉が半開きになったレッスン室から“バッハ無伴奏チェロ組曲3番サラバンド”が聴こえる。
この華やかで軽やかな演奏は先生のものだ。
すぐにわかる。

「なつかし〜。」
そう言いながら、私はレッスン室に入った。
私が2年前の発表会で弾いた曲。
(私のサラバンドは重っ苦しい。低音を効かせたがるからだ。)

先生は私に気付かないようで、演奏を続ける。
いつものことだ。きっと、どこかの演奏会で弾く予定があるの

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24.2月チェロレッスン②:"絶望先生"からの、復活。

24.2月チェロレッスン②:"絶望先生"からの、復活。

自宅練習で時間があれば、オケで演奏するブラームス交響曲第3番のいずれかの楽章を、音源と合わせて通して弾くことにしている。

1楽章の最後の部分、弦楽器の嵐が去って、天から光が差し込むようなチェロのソロを弾く時なんか、チェロやってて良かった、オケやってて良かった、生きてて良かった!とさえ思えて泣けてくる。

           ★

前の生徒さんと入れ替わりにレッスン室へ入った。

「先日はお邪魔

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24.2月チェロレッスン①:音楽家のスポーツ障害。

24.2月チェロレッスン①:音楽家のスポーツ障害。

私のレッスンは、ほかの生徒さんが入っていなければ、なるべく一番最後にしてもらっている。
レッスン室の後片付け(ピアノの埃を払ったり、簡単に床掃除をしたり)を手伝うためだったが、最近は先生の話が長く、レッスン時間が大幅に延びるためだ。

今日も、私がチェロを持って椅子に座るなり、先生の話が始まった。
内容はレッスンのことではなく、日常のとりとめのないもの。仕事に遅刻しそうになったとか、昨日何を買って

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24.1月チェロレッスン②:あなたが私に未来をくれた。

24.1月チェロレッスン②:あなたが私に未来をくれた。

先週に引き続き、今週もレッスン。
今回は、私が一番最後だ。

「今日はセンセのお父さんの月命日じゃないですか。こんな遅い時間までレッスンしていていいんですか?」

楽器をケースから取り出しながら私が聞くと、先生がびっくりした表情をした。

「どうしました?」

「よく覚えているね。」

「…そりゃあ、そうですよ。」

先生の返事に私は訝しみながらそう言った。
先生はちょっと困ったように私の疑問に答

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24.1月チェロレッスン①:先生の涙。

24.1月チェロレッスン①:先生の涙。

年明け最初のチェロレッスン。
先生のご指名で私がトップバッターだ。

昨年末、先生は先生のお父さんを看取った。
私と話がしたいんだろうと思い、だいぶ早めに家を出た。

音楽教室に入ると、シン、と静かだった。
時刻はまだ午前9時を過ぎたばかりだ。

一番奥のレッスン室だけ、明かりが灯っていた。
教室の入り口の扉が私の背後でパタンッと閉まったと同時に、その明かるい部屋から「お入り。」と先生の声がした。

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12月チェロレッスン①:今日ぐらい、休んだら?

12月チェロレッスン①:今日ぐらい、休んだら?

激務が続いている。

この時ばかりは、非日常の時間が過ごせるレッスンの日が楽しみだった。

「こんにちはー!」

と私がレッスン室に入るなり、先生がポカンとした。

「雰囲気が変わった?発表会の時と違う…あ、髪切ったのか。」

さすが、おしゃれにこだわる先生。
私の家族、職場仲間は誰も気づいていない。
ここのところ、人前に立つ仕事(発表とか講師とか議長とか)が多いから、せめて身綺麗にしておこうと、

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11月チェロレッスン②:歳を重ねると病気の話題が多くなる。

11月チェロレッスン②:歳を重ねると病気の話題が多くなる。

「センセ、外は雪が舞ってますよ。」

言いながら、私はレッスン室に飛び込んだ。
室内は暖かい。

「うん。急に寒くなったもんなぁ。」
と、先生。

「風邪に気をつけてくださいね。」と私が言うと、先生「僕は今のところ健康なんだけれどね、」と言って、浮かない表情をする。

「何かあったんですか?」
「仕事仲間のヴァイオリニストがね。脈が遅いということで病院へ行ったら、あっという間に心臓に付ける電子機器

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7月チェロレッスン①:“happiness”

7月チェロレッスン①:“happiness”

「夜先生は頑張りすぎですよ。」
研究の進捗状況を報告した後、上司にそう言われた。
頑張りすぎ?私はやるべきことをやっているだけなんだけれど。

疲れが溜まっている自覚はある。
仕事に行くのが辛い。何か嫌なことがあるわけではないのだけど。

仕事の帰り道。
車の中でFMを聴いていた。
嵐の“happiness”が流れた。

学生時代、みんなで歌ったなぁ。
先が見えなかった頃、歌詞に励まされた。

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チェロレッスン11月①:心ここに在らず…。

チェロレッスン11月①:心ここに在らず…。

「センセ、遅れてスミマセン!」

私はレッスン室に飛び込んで言った。
10分の遅刻。

先生は、私の知らない曲の練習をやめて「なんかあったか?」と聞いてきた。

「家を出て2kmくらいのところで、車が故障しました。」

トロトロ走って、何とか家へ引き返すことができた。

先生「それは大変だ。」と言った。

「故障が大通りに出る前で良かったな。」
「はい。大通りの真ん中で止まらなくて良かったです。」

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11月弦楽器工房:A線調整

11月弦楽器工房:A線調整

ロビーコンサートに出演してから、私がチェロを弾くということが職場で知れ渡った。

退勤後に工房を予約していたので、チェロを抱えて出勤したら、色んな人から「今日は練習あるの?」とか、「またコンサートしてくれるの?」とか声をかけられるようになった。

今回の工房訪問の目的は、調整。

発表会前から師匠に「A線(一番高い音の出る弦)が響きすぎる」と指摘されていた。

発表会は一人演奏だし、音をまろやかに

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チェロレッスン10月②:発表会後の初レッスン。

チェロレッスン10月②:発表会後の初レッスン。

発表会を終えた後の初レッスン。

発表会後、先生の講評をもらう前に、私はオケ練習へ行ってしまった。

今日、発表会の演奏についてまたネチネチ言われるんだろうなぁと気を重くしたら、お腹を壊した。

家を出ようとしたとき、先生からLINEが入った。
「エレベーターが壊れた。5階まで階段で来て。」

           ★

レッスン室に入るなり、先生が言った。
「エレベーター内に閉じ込められて、参っ

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