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24.6月チェロレッスン②

「今日何時に帰ってくる?」

仕事から家に帰り、すぐにレッスンの準備をして再度出掛けようとしたとき、ダンナに聞かれた。

「んー、たぶん18時?センセの気まぐれで延長することがあるかも。」

前回のレッスンは2時間半だった。

ダンナ、何か悟ったような顔。
「あー、あの人めんどくさいからなぁ。
わかった。帰るとき、連絡ちょうだい。パラグライダーの大会でもらったビールでBBQしようよ。」

センセ…ダンナに酷い言われようしていますよ…否定はできないです。

           ★

「発表会の日なんだけど。10月下旬に決まりそうだよ。」

レッスン前に先生に言われた。

「10月ですか…学会シーズンです。厳しいなぁ。」
「まぁ、考えてみてよ。」

出るとしたら、何の曲にしよう?
昨年のAdagioは良かったなぁ。アレを超える好きな曲はあるだろうか?
それとも、本当に今レッスン中の曲を弾くか?

           ★

まだまだ続く、バッハ無伴奏チェロ組曲5番のプレリュードのレッスン。

先生に最初から最後まで弾いてみるよう指示され、演奏した。
その後、先生からの指導が入る。

「最後の方からいくよ。183小節アウフタクトから。弾いてみて。」

先生、前回のレッスンで「曲の途中から弾くよう指示すると、急に弾けなくなる生徒が多くて困る。」と、誰に言うともなく話していた。途中からだと、フレーズをイメージ出来ないからだと思う。
なので、どこから始めても弾けるよう、練習してきた。

188小節まで弾いたところで止められた。
「そう、そこの部分。ド♭シ♭ラの♭シと♭ラの取り方が甘いんだよ。そして、188のミレドシラのラはナチュラルだよ。♭じゃない。そこ、曖昧にしない。」

左手指を広げるところは広げる、戻すところはちゃんと戻す、という指摘。
後半になるほど疲れるから、音取りが曖昧になってしまってはいけない。


「戻って100小節。♭ラが迷子になりやすい。ちゃんと狙いなさい。」

1拍目のレが解放弦だから、♭ラは先生が言うとおり狙わないと音が大きくズレてしまう。

「同じ意味で、104小節高いドから低いミに跳ぶ部分。ココも正確に狙うこと。」

慎重に弾いてみせると、
「うん、そう。気を付ければできるんだよ。意識して弾きなさい。」
と言われた。

「もっと戻るよ。45小節。1拍目はナチュラルだよ。♭と曖昧にしない。188と同じことだよ。」

…ですね。

「慣れると流して弾いちゃうお前の悪いクセが出てる。流しちゃダメ。」

…ハイ。

           ★

レッスン終了。
今日もいっぱい指摘されちゃったなぁ…。

意気消沈して楽器を置くと、先生がフッと笑んだ。

「でも、全体的に弾けるようになってる。前回よりずっと良くなった。」

ホント?!

「前回センセに『フレーズ感を意識して弾きなさい』と言われたから、引っかかるところを繰り返し弾いて、その後数小節まとめて弾けるようにして、最後はフレーズごとにまとまるよう、練習しました。」

先生、それでいいよ、と頷く。
「特に序奏は格段にいいよ。」

おお〜!パチパチ。

「そのバッハ無伴奏なんですけど。センセ、以前にメネセスを参考にしているって言って、私にCD貸してくれましたよね。」

先生、再度頷く。
「うん。4番5番だけは、メネセスだね。」

「センセ、バロック音楽教えてくれるときは、十六分音符は引っ掛けて弾けって、よく言いますよね。そうじゃなく弾くチェリストもいますけど。」
「現代風だと引っ掛けない人もいるよね。ボクもT先生もバロックにこだわりがあるからね。」

二人とも昔、本場の教会音楽をやっていたらしい。
「ブランデンブルク協奏曲やりたいなぁ。」などと話していた。先生のオケではやらないもんね。

「それで、メネセスのCDなんですけど。
センセ、もしかして2枚アルバム持っていませんか?貸してくれた1993年録音のではなく、2004年録音のアルバム。」

先生、首を傾げる。
「そうだったかな?もう何年もCD出して聴いてないから覚えてないな。それがどうした?」

「最近サブスクで2004年録音のメネセスのアルバムを見つけたんです。聴いてみたら、こっちのほうがセンセが教えてくれている5番と近いなって。
メネセス、93年と4年では、弾き方が若干違います。
前回のレッスンで色々指摘されて迷ったので、試しに4年の5番を参考にして今日弾いたんです。」

先生、ハッとした表情をした。
「わかった。帰ったら探してみるよ。ただ、探すのに時間かかりそうだけど。」

あの、テレビの下のごちゃごちゃの中にあるのか…。

「よろしくお願いします。
あと、次回、7月のレッスンはどうしますか?」

先生、クリアファイルからスケジュール表を取り出して眺めた。

「この日とこの日、14時から入ってくれないか。」
「…何ですか、その半端な時間は。」
「次の生徒が入るのが17時で、時間が空いちゃうんだよ。」
「…私はセンセの暇つぶしですか。」
「悪いね。」
先生は悪びれる様子もなく、言った。

1か月先の話だから、仕事は調整できるだろう。

「自宅レッスンの約束はどうなったんですか。」
「ん〜、10月には出来ると思う。」
「…だいぶ先になりましたね。」
先生、頭を掻く。

レッスン室を片付ける余裕がないのか、そもそも片付ける気がないのか。
来月初めに先生主催の室内楽コンサート(しかも、改装の済んだコンサートホールの柿落とし)を控えているから、忙しいのもあるだろう。

「まぁ、いいです。じゃあ、また来月よろしくお願いします。」
「8月になれば少し余裕が出来るから、そのときまた家に遊びにおいで。」

暑い盛りだから、先生とかき氷でも食べようかな。

           ★


帰宅後は、ダンナの希望どおり、BBQをしてビールを飲んだ。

翌日夜遅くに先生からメールがあった。
やはり、2004年収録のCDが家にあり、参考にしているのはそのCDであるとのことだった。

スッキリした。


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