ただ、「別の人間」であるということ
大好きな上島珈琲店で、カフェインレスアイスミルク珈琲(黒糖)Mサイズを飲んでいた。相変わらず、美味しい。心地よい甘さが、体と心をほぐしていく。優しい気持ちになる。上島珈琲店がある世界に生まれて良かったー!
そんなことを思っていたら、隣の席に親子がやってきた。小学校5年生くらいだろうか。それくらいの年齢の男の子と、お母さん。どうやら、近くにある進学塾の帰りのようだった。そうかー、中学受験生か。
耳を澄ますと、男の子が、模試か何かの結果について意気揚々とお母さんに報告している。
「あのねー、○○中学の順位はねー、31位だったー。つまりね、僕より頭良い子たちが、30人いるってことー!」
へー!すごいじゃん。偉いなぁ。これは、私の心の声。
『へぇ。そうなの。そうかー。うん。』と、考え込んだように、冴えない表情のお母さん。
いまの、褒めるとこやぞ・・・!!!!この男の子、褒めて欲しい感満載だったぞ・・・!と思わず心の声でお母さんにツッコミたくなる私。
お母さんが、全く別のことを話し始めた。
『ねぇ、この野菜ジュース、6種類の野菜が入ってるらしいよ。なんの野菜が入っているか、当ててみようよ』
・・・ほぅ・・・なかなか難しいクイズだな。
肝心の男の子は、野菜ジュースの中身には興味を示さなかったようで、動物の話をし始めた。
「ねぇ、知ってる?アリクイって、すごいんだよ・・・!あのね、・・・」
アリクイの生態について、喋り出す男の子。
お母さんが呆れと苛立ちを隠しきれなくなった空気を感じた。
『ねぇ、一個だけで良いから、当ててみようよ。この野菜ジュース、何入ってる?ねぇ』
宙に浮いた「うん」という返事だけをして、また生き物の話を始めた男の子。
「シロクマってさーぁ、あのね・・・・・」
お母さんは、シロクマの生態の話を途中で遮り、『そろそろ行こっか』と立ち上がった。男の子の「うん」がまた宙に浮いて、どこかへ飛んでいった。
切ない気持ちになる私。
お母さん、必死なんだろうな。どこか、頭の良い学校に行かせたいんだろうな。余裕が、ないんだろうな。私は子育てをしたことがないし、その男の子の親でもないから、何も言えないし、何もできない。お母さんの苦労は、私には計り知れない。
でも、男の子の生き物の話には「へー、すごいね!」「そんなことお姉さん、知らなかったよ!」って言ってあげたかった。私が代わりに話を聞いても良かった。たぶんその男の子は、お母さんにその言葉を言って欲しくて喋っていたのだろうと思うけど。
延々と泣き止まない赤ちゃんをあやしながら、どうしたものかとストレスを募らせてしまうお母さんはたくさんいるだろうけれど、その赤ちゃんに対してイライラせずに「泣いてても可愛いねー、どうしたのー」って笑いながら言い続けられるのは、他人かもしれない。
中学受験でいい学校に行かせるために必死なお母さんお父さんもたくさんいると思うけれど、そういう時に、受験以外の話、勉強以外の話、スポーツやゲームや芸能人や好きな子の話なんかをピュアに聞いてあげられるのは、他人かもしれない。
友人にもちらほらと子育てをしている(ちょうど、乳幼児子育て)人が増えてきて、そんなみんなにどんどんと尊敬の念が膨らみ、自分に子育てができる気がしないわ・・・と思ってしまう日々だけど(笑)、他人という立場でできることがあるのなら、褒め倒すことくらいだなと思ったりする。だから、できるだけ友人・知人の子供は褒め倒す。もちろん、本当に可愛いと思うからなんだけど。
親と子って難しいなと思う。無償の愛ももちろんあるだろうけど、それとは別の、親子ならではの利害関係みたいなものが存在するような気がしてならない。他人だったらなんとも思わないことに、「こうして欲しい」「こうあって欲しい」という願望を持ちすぎてしまう。親と子は血を分け合っていて、いくら自分の分身のように作られていたとしても、「自分とは別の人間」であることには変わりないのにな、と。
さっきのお母さん、必死なんだろうと思う。めちゃくちゃ考えてるんだろうなと思う、息子さんのことを。そう思うけど、例え彼がどの学校に行ったとしても、どんな会社に入ったとしても、そのあとの人生の責任は、彼にしかとれないのが事実だ。
先日観たNetflixドラマ「SEX EDUCATION」で、主人公(高校生・男子)が母親と言い争いをしていた。干渉する母親に対して、母との関係にずっと悩みを抱えていた主人公が、爆発する。
母は、息子に対して"part of me"だと言う。あなたは私の一部だ、と。
そして息子は、"I'm not part of you."と言う。「違う。僕は、あなたの一部じゃない」。
親のせいでもない。子が悪いわけでもない。ただ2人は、「別の人間」であるだけなんだ、と思う。
Sae
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