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彼女と出会って

今回は、のんびり回。

私には、付き合って1年と少しの彼女がいる。
いつ捨てられるかわからないが、彼女と出会って学んだことがいくつもある。その中のひとつを書いていく。

私は都内で生まれ育ち、今は地方都市に住んでいる。
そこで初めて一人暮らしをして、自立という言葉の意味を理解した。

仕事と家事の両立をしていく中でお金の使い方についても考えさせられた。実家暮らしは、お金を自由に使える。もしくは余裕を作るために「時間をお金で買う」ことが当たり前だった。

それがどうだろう。
一人暮らしをしていくと自然とお金の管理を強いられる。
そこまで稼ぎが多くなかったことも理由だろう。
今までの価値観だけでは生きていけない、そう思った。

家賃、光熱費、携帯代、インターネットの回線などなどの生活費は、必要経費としてかならず消費しなくてはならない。
その上で食費、洗剤費があり、そうした諸々の経費を差し引いて、余った金貨が仕事用の服や趣味、貯金になる。やり繰りという言葉を知った。
同時にあぁ、これが「当たり前の感覚」なのかとも……。

27年間生きて、ようやくわかった感覚だった。

家事は元々出来たが、日々の仕事との折り合いを付けるのが難しかった。
デスクワークとはいえ、残業はあるし、マニュアルもなく、その場ですぐに聴いて即座に回さなければならないことはザラだった。部屋も汚れていくので定期的に家の掃除もしなければいけない。

そうした日々の中で自分の中でふたつのことがわかった。
ひとつは、食費と時間を節約するために日曜日におかずを「作り置き」すること。これは余計な疲れを溜めなくても良くなる。
もうひとつは、どうしても疲れたときは「お金でラクを買う」ことだった。
無理しないこと。ご褒美もかねて、たまには自分を労うことは思った以上に大事だった。

大人は、お金で時間だけでなくラクも買うのだ。
時にはメンテナンスに使うこともある。
そういう使い方が悪いことではないと知った。


そんなこんなで異郷の地に来て、数年が経ち、恋人が出来た。
彼女も同じくらいの年齢でこちらに来て、初めての一人暮らしだった。

一人暮らしの苦労はわかる。
何か協力できるものはないか、と思案して「作り置き」を作ってあげることに落ち着いた。
ある程度の家事が出来る人には、この方が良いだろう。

いざ作ってみると気付いたことがある。
今までは自分の口のサイズを基準にして作っていた。それでは大き過ぎる。
他にも時折、食が細くなる。原因は生理だった。
それからは彼女の月経に合わせて、痛みや怠さを緩和する食材や調味料を調べて、リクエストの料理の中に取り入れるようにした。
※その辺については、後日書こうと思う。

概ね好評のようだ。
彼女の日常は穏やかに流れているように見える。

ある日、スーパーに行って「さーーて、今日のおススメは何かしら」と野菜コーナーを眺めていて、ふと母のことを思った。


「母さんもこうして家族の毎日を作っていたのか」


栄養が偏らないように。
好き嫌いをしないように。
時季の食材を切り取って、出来るだけ美味しいと思って貰えるように。

そうして母は、私の日常を。家族の日常を作っていたのだと知った。

―—――麻婆豆腐の素を眺めながら、情けなくも母の味が恋しくなった。

30歳になってようやく母に対して後悔が生まれた。



―—――もっと美味しいと言えばよかった。



30歳にもなって、無性に母親に会いたくなった。

それから数か月経って先日、コロナ禍にも関わらず、こちらに来てくれた。
私が闘病していることと彼女見たさだったようだ。

こちらは冷や冷やだった。今まで母親に恋人を会わせたことなどなかったから。
加えて母は早く結婚して欲しがっていた。
母と彼女の初対面。満身創痍の身体には絶対に良くない薬である。

彼女が来るまでに、と母は煮物を作ってくれた。
帰省する度、リクエストを聴いてくれる。私はいつも煮物とみそ汁と答えていた。母の作る煮物は美味い。そのおかげで今でも嫌いな野菜がない。

食べてみて、と言われて出された煮物は、調味料や砂糖、ダシのパックなど全然違うのに口の中に「あの日の日常」が溢れていた。
親に見せないように目元を隠したけれどバレていただろう。

「やっぱ敵わないなぁ……すっげぇ美味い」と言いながら嚙み締めた。

幸運なことに彼女と母の仲は良好だ。
最近、包丁が切れなくて……と言っていた母に包丁をプレゼントしていた。
おそらく、全世界でも初対面で相手の親に包丁を贈った人は彼女くらいだろう。私にはないのか。私の目の前を通り過ぎたぞ。『関 孫六』。

彼女と出会って、私は別の視点を知ったし、見方を拡げてくれた。
母への感謝も含めて多くのことを学ばせてもらった。
心から尊敬している。ありがとう。

出会いは、人を成長させるという。その通りなんだろう。
友人でも恋人でも仕事仲間でも……色々な人が新しい私を教え、拡げてくれる。
次はどんな景色が見れるだろうか。



最期に
最後まで読んで頂いた方にお願いです。
もしお母さまがご存命であれば、帰省した際は「美味しい」と言ってあげてください。
今の貴方を作った味は、いつか亡くなりますから。


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