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まいにち易経_0819【風が教えるリーダーシップの真髄】賢徳に居りて風俗を善くす。[53䷴風山漸:象伝]

君子以居賢徳。善風俗。

君子以て賢徳にき、風俗をくす。

ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る

まず、「風山漸」という言葉の意味から説明しましょう。「風」は空気の流れ、「山」は動かない大地、そして「漸」はゆっくりと進むことを表しています。この組み合わせが示唆しているのは、風が少しずつ山を侵食していくように、変化は緩やかに、しかし確実に起こるということなんです。

リーダーシップにおいて、これはとても重要な概念です。なぜでしょうか?それは、大きな変革は一夜にして成し遂げられるものではないからです。長い時間をかけて、少しずつ、でも着実に進めていく必要があるのです。

ここで、ちょっとした豆知識をお話ししましょう。自然界を見てみると、この「漸進的な変化」の例がたくさんあります。例えば、グランドキャニオンはコロラド川が何百万年もかけて少しずつ侵食してできた峡谷です。一見すると変化がないように見えても、長い時間をかけると驚くべき結果をもたらすことがあるんです。

さて、本題に戻りましょう。易経の教えでは、リーダーの役割についてこう述べています。「君子以て賢徳に居き、風俗を善くす。」これは何を意味しているのでしょうか?

簡単に言えば、賢明で徳のあるリーダーが、じっくりと腰を据えて政治や経営を行えば、社会全体の雰囲気や文化までも良い方向に変えていくことができる、ということです。

ここで重要なのは「風俗」という言葉です。これは単なる習慣や慣習以上の意味を持っています。風が見えないけれど、どこにでも入り込んでいくように、リーダーの影響力も目に見えない形で広がっていくのです。

例えば、会社の中で考えてみましょう。CEO が毎日早く出社し、熱心に仕事に取り組む姿勢を見せれば、その態度は従業員にも自然と伝わっていきます。直接何か言わなくても、その行動自体が「風」となって会社全体に広がっていくのです。

これは、現代の組織心理学でも「ロールモデリング」として知られている概念です。リーダーの行動が、他の人々の行動の模範となるのです。

では、どうすればこの「風」を良い方向に吹かせることができるのでしょうか?易経は、リーダー自身が「賢徳に居く」ことが重要だと教えています。つまり、知恵と徳を備え、それを日々の行動で示すことが大切なのです。

しかし、注意しなければならないのは、この変化は一朝一夕には起こらないということです。「漸」の字が示すように、ゆっくりと、少しずつ進んでいくものなのです。だからこそ、リーダーには忍耐と継続する力が求められます。

現代社会では、すぐに結果を求める風潮がありますが、本当に大切なことは時間をかけて育つものです。例えば、企業文化を変えるのに何年もかかることがありますし、新しい習慣が定着するのにも時間がかかります。

日本の「もったいない」という概念は、長年にわたる資源の大切さへの認識が積み重なって生まれた文化です。これも、時間をかけて形成された「風俗」の一つと言えるでしょう。

リーダーとしての皆さんに期待されているのは、このような長期的な視点を持ち、日々の行動を通じて周りの人々に良い影響を与えていくことです。それは、直接的な指示や命令ではなく、自らの行動と姿勢を通じて行うものなのです。

ここで重要なのは、自分自身の成長にも常に気を配ることです。「賢徳に居く」というのは、単に知識があるだけでなく、それを適切に使う判断力や、人々の信頼を得られるような品性も含んでいます。つまり、リーダーとしての技能と人格の両方を磨き続けることが大切なのです。

このプロセスは決して楽ではありません。時には挫折を感じることもあるでしょう。しかし、そんな時こそ「漸」の精神を思い出してください。一歩一歩、着実に前進することが大切なのです。

最後に、この教えの現代的な解釈について考えてみましょう。今日のビジネス環境は急速に変化していますが、それでも「風山漸」の智慧は依然として有効です。なぜなら、持続可能な成功は、短期的な利益よりも長期的な価値創造に基づくからです。

環境に配慮した経営方針を徐々に導入していくことで、最終的には企業のブランド価値を高め、持続可能な成長につながることがあります。これも、少しずつ但し確実に変化を起こしていく「風山漸」の原理が働いているのです。

また、多様性と包摂性を重視する組織文化の構築も、一朝一夕にはいきません。リーダーが率先して公平で開かれた態度を示し続けることで、徐々に組織全体にその価値観が浸透していくのです。

結論として、「風山漸」の教えは、リーダーシップの本質を非常によく捉えています。それは、自らの行動と姿勢を通じて周囲に良い影響を与え、少しずつ但し確実に変化を起こしていくことです。

皆さんには、この古代の知恵を現代に活かし、それぞれの立場で「良き風」を起こす存在になってほしいと思います。それは容易なことではありませんが、必ず価値のある挑戦となるはずです。


参考出典

善き風俗を育てる
国のリーダーが賢明に落ち着いた政治を行えば、天下の風俗をも感化して良いものにする。
「風俗」とは、風が姿なく自在にどこへでも吹き入り込むように、知らず知らずに感化され、変わっていくこと。その結果、気風が育っていくことをいう。
リーダーの姿勢も風と同様で、浸透するように伝わる。国や会社を良化しようと思うのなら、まずリーダー自らが姿勢を正すことが大切なのである。

易経一日一言/竹村亞希子

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