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恋する西巣鴨

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フィクションかノンフィクションかはあなたが決めてください。 自分や友人の体験談を元にした、同性愛についてのコラムを書いています。 過激な表現などはありませんが、同性愛描写が苦手な…
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Prologue

Prologue

(※過激な表現は避けてありますが、同性愛についての内容が含まれます。苦手な方はご注意下さい)

某人気占い師いわく、俺の「人生最大のモテ期」だった1年が終わった。
つまり32歳で、独身で、やや低所得なゲイである俺の人生における「モテ」は、今後尻すぼみというわけだ。

なんだそれは。超焦るではないか。知りたくなかった。

20歳の時ゲイになって12年。

干支一周分の俺のゲイライフは、果たしてどの程

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Episode39 『植物のような男』

Episode39 『植物のような男』

週の半分は誰かしら男の家に入り浸って留守にしていたせいか、ベランダで育てていたローズマリーの苗が枯れかけていた。慌てて水をやったが、土はカラカラに乾き、よく見るとところどころ虫に食われているかのような形跡もある。

自分が男とちちくり合うことに夢中だったせいのくせに、動揺した俺はスマホをスライドして1人の男の名前を探した。

この手のことなら、彼に聞けばきっとなんとかなる。

Episode39

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Episode38 『美しい男』

Episode38 『美しい男』

6月。
蒸し暑くて辛気臭い、嫌な天気が続く。
ただでさえ雨男で、俺の行く先行く先しょっちゅう雨が降るというのに。
雨の日は紙タバコがうまい、ということを除けば、梅雨は大嫌いだ。
そしてもうひとつ、俺がこの季節が嫌いな理由がある。
しょぼしょぼと嫌な雨が続くと、あの男の命日が近いことを思い出すからだ。

新宿2丁目、という街では時々人が死んだり、消えたりする。
ま、理由は様々だが、それ自体は別に珍し

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Episode37 『いかがわしい男⑪/見知らぬ男』

Episode37 『いかがわしい男⑪/見知らぬ男』

早朝(俺にとっては)の満員電車。
それは一夜を共にした男の家からの帰り道だった。
一夜を共にした、と言ってもそれは純粋に、文字通り共にしただけで、肉体的接触は何もなかった。
有ってもよかったけど、前夜は共通の趣味である某ジャニーズアイドルグループの聖地巡礼をし、酒を飲み、彼の家に帰ってさらに酒を飲み、そのアイドルのライブDVDを観ながら騒いでいたら、いつの間にか朝だった。だから今回のテーマは彼では

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Episode36 『いかがわしい男⑩』

Episode36 『いかがわしい男⑩』

付き合って8年、同棲5年、という友人ゲイカップルと酒を飲んできた。

さすが、オフィシャルな関係を5年も続けている内縁の夫婦(夫夫?)は、貫禄が違う。
言葉を交わすことなく、絶妙なタイミングでグラスを片付けたり、お互いの食べたいものや飲みたいものを把握して勝手に店員さんにオーダーしたり、「明日税金払わなきゃ」みたいな所帯じみた会話をしている。
この国でも同性婚ができるのできないのという議論がなされ

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Episode35 『いかがわしい男⑨』

Episode35 『いかがわしい男⑨』

「まったく、りょうと旅行に来るといつも雨だな」

これまで何人の男や友人たちにこう言われてきたことだろう。
そう、彼らは正しい。俺は子供の頃からまごう事なき雨男。

そしてそのレッテルは、いつも伏し目がちで、辛気臭い俺のイメージに皮肉なほどピッタリだった。

Episode35 『いかがわしい男⑨』

主要な駅を過ぎ、乗客がごそっと降りて閑散とした電車内。
俺は空いた席に腰を下ろす。いつもと同じ席

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Episode34 『いかがわしい男⑧』

Episode34 『いかがわしい男⑧』

「僕はりょうくんみたいに、人前でそういうことできないから」

付き合いも長く、何度も寝たことある男と珍しく外食してしこたま飲んだ後、酒の勢いに任せて手を繋ごうとしたらこう言って拒絶された。
俺の魅力不足かとも思ったが、そもそも呼び出したのはこの男の方からだし、家に帰ればとてもここには書けないようなことを平気でする男だし、要するに世間様、主にストレートの男女にゲイだとバレたくないのだろう。

そうか

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Episode33 『コンビニ店員』

Episode33 『コンビニ店員』

近所のよく行く中華料理屋の親父が「最近小麦粉が高いから、メニューを値上げせねばならん」というようなことを言っていた。
遠く海の向こうの国でどうやら戦争が始まっているらしいということは、無学で無教養な俺でも知っていたが、どうもそれに起因しているらしい。

戦争か。全く、不愉快な響きだ。
自分を愛国心や道徳心が強い人間だとは思っていないし、別段何ができるわけでもないのだが、どうにもこの話題に関しては、

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Episode32 『コインランドリーの男』

Episode32 『コインランドリーの男』

朝起きたら、ぐしゃぐしゃになったワイシャツを抱きしめていた。
数日前泊まって行った男が厚かましくも「ここに置いとく用にするから、洗っといて〜」と、その日着ていたシャツと靴下と下着を置いていったのを思い出した。

頭が痛い。また飲みすぎた。
当然だ、飲みすぎたのでなければ、俺は男の匂いが染みついたワイシャツを抱きしめて眠るような、ヤワな真似はしない。
鏡を見ると、目が腫れていた。泣いたりしたのかもし

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Episode31 『ヨガインストラクター』

Episode31 『ヨガインストラクター』

「お前は本当に体が硬いなあ」

20代の頃、情事の後の男に、不満げな表情でこれを言われてからというものの、俺は日々の柔軟運動に余念がない。
どういう意味かは察してほしい。

確かに、ふにゃふにゃによくほぐれた股関節は、情熱的な恋愛関係を生み出す、重要なファクターのひとつだ。
だけど、恋愛にはもっと大事なものがたくさんあるだろう。
それはそう、例えば、運命的な邂逅の衝撃、とか。

Episode31

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Episode30 『整体師』

Episode30 『整体師』

全てにおいて、あーあなんかいいもの落ちてねえかなあ、と下向きに生きてきたので、すっかり猫背になってしまった。
そしてそんなもの人生という道端には落ちてない、ということに気がつくのに33年もかかった。

「背中も首も頭の位置も骨盤も足も歪んでますね」

普通男に容姿をおちょくられると、烈火の如く(そんなタイトルの漫画昔あったな)ブチギレる俺だが、この男だけは特例だ。
そして彼の太く筋肉質な腕に、さす

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Episode29 『いかがわしい男⑦/笑う男』

Episode29 『いかがわしい男⑦/笑う男』

笑う男。
ヴィクトル・ユーゴーの小説のタイトルに同じようなものがあったような気がするが、もちろんそんな高尚なお話ではない。

男女問わず、恋愛をするならば、不機嫌な奴よりも自分の機嫌は自分で取れる奴の方がいいだろう。と、思われる。
しかし俺自身は感情のコントロールが超絶に不得手だし、最近俺がズブズブにハマっている男もまた同様である。
飲み過ぎた翌朝や、雨で気圧が低い時、電車で座れなかった時など、二

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Episode28 『いかがわしい男⑥』

Episode28 『いかがわしい男⑥』

人生はドラマチックだけどドラマじゃない。

だからテレビやスクリーンの中の恋物語を真に受けるべきではない。
俺は馬鹿だけど能天気ではないので、それぐらいのことはわかっている。
でもドラマが本当に全て嘘っぱちの、ハリボテだったなら、人々は惹かれたりしないとも思う。
作り物のセットの中に、真実があるから、皆それに熱狂するのだ。

物語は時に現実を越えることもある。そういう力を持った作品はこの世界に確か

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Episode27 『いかがわしい男⑤/派手な下着の男』

Episode27 『いかがわしい男⑤/派手な下着の男』

ある気持ちのいい初夏の朝。
気心の知れた男とふたり、下着一枚で、古いバラエティを観ながらハイネケンを飲んでいた時のこと。

「なあお前さあ、パンツの股のところ、穴空いてるの気がついてる?」
「え、マジで?」

ヨレヨレになった自分の下着を見ると、そこには確かに小さな穴が空いていた。
俺がそこに指を通してくねくね動かして見せると、彼は笑った。なんか楽しかったので俺も笑った。

「お前のパンツだってボ

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