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rjm童話

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童話を集めました。
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#読書

童話ーあの日のセルフタイマーー

童話ーあの日のセルフタイマーー

僕には、おじいちゃんもおばあちゃんもいなかった。
だから、学校の友達が、たまにおじいちゃんやおばあちゃんに会いに行った話を聞くと、少し羨ましかった。

僕が物心つく前に、ずっと昔に亡くなってしまったらしい。

「おじいちゃんとおばあちゃんが欲しいのかい?」

僕が古いアルバムを広げていると、アルバムの間から枯れ葉の体をした虫が、ひょっこりと顔を出した。

丸い顔に可愛い黒目がこちらをにっこりと見て

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童話ー僕の夏をあげた日ー

童話ー僕の夏をあげた日ー

夏の日の暑さが和らいだと思ったら、また暑い日が続いた。

秋の虫が鳴いたと思ったら、まだ蝉が鳴いていた。

冷房もつけるし、扇風機は回すけど、アイスノンで頭を冷やしながら寝るには、もう冷たすぎると感じる。

「氷はいりませんか?」

眠ろうと横になった僕に、尋ねる声が聞こえた。
びっくりして声のする方を振り向くと、小さな妖精がつぶらな瞳でこっちを見ている。
ティッシュのような薄い布をいくつも巻いて

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童話ー隣人は風見どりー

童話ー隣人は風見どりー

私は、この小さな街で一番大事に作られた。

沢山の願いが詰まった温かな身体に生まれた私は、誰に教わるでもなく、人の願いを聞き届ける魔法が使えた。

それは、人の願い事を直接叶えてあげられない代わりに、叶えるために手助けができるものだった。
例えば、失せ物を探している者には、それを思い出すきっかけを与えた。豊作を望む者には、作物の芽に大きく実るよう語りかけた。平和を望む者には、空に穏やかな天気が続く

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童話ー風向きー

童話ー風向きー

まんまるの大きな月が空に浮かぶ頃、僕は屋根の上で真っ直ぐに立っていた。
まるで一直線の黒鉄の棒のように、そして家を守る兵隊のように、真っ直ぐに立って空を見上げていた。
昨日は大きな台風が近づいていて、荒れた空だったのが一転し、今日は穏やかな夜だった。

「こんばんは!今日は風が穏やかですね」
隣の石造りの屋根の上から、その人は僕に向かって挨拶をした。
僕は、顔だけを向けて返事をした。正確には、体を

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童話ー夏の帰り道ー

童話ー夏の帰り道ー

いつもの帰り道だけど、いつもと違う帰り道でした。
もうすぐで夏休みなのです。
男の子はルンルン気分で黒いランドセルを背中に背負い青い手提げ袋を片手に歩いています。
明日は、校庭にある自分の朝顔の鉢を持って帰ります。男の子の朝顔は、毎日お水をあげて大切に育てているので、誰よりも早く花が咲きそうでした。多分、赤色の朝顔です。家に持って帰ったらきっと近いうちに花が咲きます。大切に育てた朝顔をお母さんに見

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童話ーからだの音ー

童話ーからだの音ー

口は喋りたがっているから、モゴモゴする。

耳は聞きたがっているから、ムズムズする。

鼻は嗅ぎたがっているから、ピューピュー言う。

目は見たがっているから、ショボショボする。

お腹が空いているから、キュルキュルする。

足は走りたがっているから、ペタペタする。

手は繋ぎたがっているから、君の手がいる。

今日も明日もその次も、起きて寝てを繰り返す。

今日もキラキラ星とおやすみ、明日もサン

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童話ー窓の中の窓ー

童話ー窓の中の窓ー

男の子の部屋にある窓には、中にさらに窓がありました。
おかしな事に、その奥にはもう一つ窓がありました。
窓は扉のように開いたり、パカっと箱を開けるように開いたり、男の子は次々と窓を開けました。
最後には小さな窓がありました。同じくらい小さなレースのカーテンも付いています。
片目をつむってよく覗き込むと、窓の奥には小さな人間が夜ご飯の食事の支度をしていました。
僕はなるべく静かに呼吸をして、鼻息でカ

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童話ー雨降り坊やー

童話ー雨降り坊やー

いつも空を見上げては、今日こそは今日こそはと何かをブツブツと呟いています。
何を呟いているのかさっぱり分からない、小さな男の子がいました。
「雨が降らないかなぁ。雨が降らないかなぁ」と楽しみにしていました。

ある日、晴れ渡る空から一滴の雨がぽつりと降ってきました。
太陽も出ているピカピカな天気で、どこをどう見ても雨が降る感じではありません。
男の子が不思議そうにしていると「あ!お天気雨だ!」と皆

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童話ー不思議な石ー

童話ー不思議な石ー

その日は、5月なのに真夏の様な気温でした。

夕暮れ時の太陽が、木々の葉の隙間から、こちらに顔を覗かせています。
私は仕事帰りだったので、パソコンを入れた重たいリュックを背負って、駅まで続く一本道を歩いていました。

今日は、どうしてこんなに暑いの?
太陽は、今日そんなに暑くしたかったの?

私は少し暑さにうんざりして、太陽に向かってそう独り言を言いました。
もちろん、太陽はお話なんてしないので、

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童話ーランドセルに夢を詰めるー

童話ーランドセルに夢を詰めるー

今日も僕は、ランドセルに夢を詰めて学校へ行く。
国語、算数、理科、社会。
体育に図工に家庭科に。
知らないものはお気に入りの鉛筆に託して、先生の書く文字や絵を真似してノートに夢を広げる。
授業中に僕は頭の中で夢を膨らませる。
学校は知らない夢をいくつも見せてくれる。

友だちが一人できた。
僕の隣の可愛い子。
友だちは僕の話を不思議そうに聞いて笑った。笑われた僕は少し腹立たしく感じたが、君が笑うの

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童話ーおじいさんの古時計ー

童話ーおじいさんの古時計ー

この屋敷は本当に大きくて広かった。
玄関を入ったら螺旋階段があって、2階にいくつも大きな扉があった。私は遠い親戚だったから、本当にたまにしか行くことがなかったけれど、初めて見た時には息を呑むほどだったことを今でも覚えている。
ここには白くて大きくてふわふわな犬と、杖をついたおじいさんが1人住んでいた。それと、お手伝いさんが何人かいて、料理人が3人ほどいて、さらに庭師が2人いた。
普通の家のサイズに

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童話ーまどろみの中ー

童話ーまどろみの中ー

夢の先生は言いました。

あなたはいつまで起きていて、いつになったら寝るのですか。

眠くなったら寝て、目が覚めたらまた寝るのです。
ただ、繰り返すだけなのです。とても大忙しです。

そうですか。

そうなんです。

それでは、あなたは忙しい中眠っているのですね。

そうなんです。実は、これでも忙しく眠っているんです。

それは、大変なことですよ。心安らかにお眠りなさい。

あははは。
爆笑

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童話ー傘になった毛玉ー

童話ー傘になった毛玉ー

夕暮れ時に道を歩いていると、黒い毛玉が道路の真ん中にあった。
避けて通ろうとすると、横に伸びて道を塞いだ。跨ごうとするとベビの様に足首に巻きついてきた。
どうやら置いていかないでほしいらしい。
僕はこの黒い毛玉がランドセルに入るか試してみたが、割と厚さがある様で教科書や筆箱の隙間には入らなかった。
手に持つと綿の様に軽く、風になびく毛は綿毛の様に飛んで行きそうだった。
試しに撫でてみるが、猫の様に

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童話ー睡蓮の夢現つー

童話ー睡蓮の夢現つー

そこは見渡す限り、全て海の様な水だけが広がってありました。一枚の大きな蓮の葉に一人、小さな子どもが立ってその手には長い蓮の茎を持っています。器用に船を漕ぐようにして浮かんでいる蓮の葉を避けて進んで行きました。まるで舟人のように、上手に漕いで行きました。

透き通った綺麗な水でしたが、浅いのか深いのかは分かりません。夕焼け色の混ざる夜空の星を映しますが、夜空の輝きだけは飲み込んだように、少し怖しくも

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