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童話ー不思議な石ー



その日は、5月なのに真夏の様な気温でした。

夕暮れ時の太陽が、木々の葉の隙間から、こちらに顔を覗かせています。
私は仕事帰りだったので、パソコンを入れた重たいリュックを背負って、駅まで続く一本道を歩いていました。

今日は、どうしてこんなに暑いの?
太陽は、今日そんなに暑くしたかったの?

私は少し暑さにうんざりして、太陽に向かってそう独り言を言いました。
もちろん、太陽はお話なんてしないので、私はただ夕暮れ時の太陽を眺めるだけです。

キラキラと眩しいけれど、少し優しい西陽から、コロンッと一粒、また一粒と小さな石が、空中を歩く様にゆっくりと落ちてきました。

私はハッと驚き、両手を前に出して、落ちてくる石を受け止めました。
その石は小さく、少しゴツゴツしていて、でもキラキラと太陽の様に美しいオレンジ色の石でした。
まるで、天然石のサンストーンの様に、キラキラと輝いています。そして、太陽の光の様に温かだったのです。

なんて不思議なことでしょう。
太陽から石が落ちてくるなんて!

でも、そんな不思議なことが起きても、私は怖くなるどころか、とても嬉しくなりました。その石を大切にハンカチに包んでポケットに入れ、真っ直ぐに帰路に着くのでした。



その日の夜は、丸い月が空のてっぺんに見えました。
満月です。
とても明るく、昼間の暑さが嘘の様に、ひんやりと肌寒いのです。
私はベランダに出て、また独り言を言いました。

昼間は暑かったのに、どうして夜はこんなに肌寒いのだろう?
月は、今日はそんなに涼しくしたかったの?

私は、空を見上げて星に囲まれている月にそう言いました。
すると、どうしたことでしょう。
今度は月の光から、コロンッと一粒、また一粒と小さな石が落ちてきました。今度はスキップを踏む様な、まるで階段を転がる様に落ちてきます。
私は、またハッとして、その石を両手で受け止めました。
小さくて、丸いツヤツヤとした白い石です。まるでムーンストーンのように、傾けると蒼白く光ります。それは、月のように冷たく輝く石でした。


なんと、今日は2度も驚かされてしまいました。それも太陽と月にです。こんな事ってあるんでしょうか?

太陽の石と月の石をテーブルの上に並べると、さっきよりも強く輝きが増しました。
まるで、海賊が財宝の箱を開けたような気持ちです。
すると、石がコロコロと勝手に転がっていきます。
私は慌てて石をかき集めようと両手を広げると、石はまたコロコロと真ん中に集まりました。

どうして動くの?
私が尋ねると、石はまたコロコロと動きます。でも、今度は四方八方には転がりませんでした。
なんと、石がハテナマークを作ったのです。
石は、私の言うことがちっとも理解できないようです。
私は驚きましたが、面白くて笑顔になりました。
すると、石はまたコロコロと転がってにこにこ顔を作ったのです。
なんと、この石は、人と絵で会話ができるようです。

私は、毎日石と会話をして遊びました。何気ない話をしては、石はコロコロと転がって絵になりました。その姿が可愛くて、私は普通ではないこの石をすっかり気に入りました。

ゴツゴツとした太陽の石も、ツヤツヤした月の石も、気がつくと少しずつ削れて小さくなっていきました。
小さくなって、片手に収まるほどに。
小さくなって、虫眼鏡で見るほどに。
小さくなって、ついには無くなってしまいました。

私は、がっくりと両肩を落として落ち込みました。
こんなことは、きっと二度とないかもしれない、そう思うとなんだか悲しくなりました。


そうして、また、空を見上げました。

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