見出し画像

ショートストーリー 「或る夢の人」

ある冬の夜、青年が眠りにつくとリリーという女性と出会った。
根が暗い青年とは違い、リリーはよく笑う人で度々青年の根暗さをからかっては笑った。
本当によく笑うものだから、はじめは少し不機嫌な態度を見せていた青年だったが、いつしかおどけてみせるようになり、リリーを笑わせるのが楽しくて仕方なくなっていた。

そんなある時、身に覚えの無い見知った子ども部屋のベッドの上でリリーと2人きり。
青年は部屋の明かりを消した。
するとたちまち部屋は消え去り、頭上には銀河そのもののような星空が広がった。
そして、その中に1つ小さくて大きな小惑星がぽっかり浮いており、ゆっくりと2人に流れてきた。
青年はまたリリーを笑わせようと、得意な顔をしてその小惑星にピョンと飛び乗った。

「リリーもおいでよ」

青年は地上にいるリリーに手を振った。

「バカね」

そう言って、リリーはただ笑っていた。


桜が散り終わる頃、青年は眠りから覚めた。
薄暗い部屋。遮光カーテンの隙間から日光が差し込んでいた。
青年はただじっと天井を見つめ、あの時の星空を思い出していた。
しかし、リリーの笑った顔を青年は、思い出すことができなかった。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?