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旅にまつわるBGMを聞きながら、記事をお楽しみ下さい♪

昼、でも夜

機内では、食事の時間を過ぎると徐々に照明を落とし、窓も閉められて行った。
時差ぼけ対策のための仮眠時間、つまり「夜状態」というわけだ。
周りの大抵の人はうとうと寝始めていたが、私達はこのアリタリア航空での時間を無駄にしたくなかった。

「いい音楽だったね!次はイタリア映画、行こっか?」
「このラブコメとか、面白そうじゃない?よーし、スタート!」

私達が同時に映画開始ボタンを押し映画を見始めた時、先程食事を運んできてくれたフライトアテンダントが通路を何度も行き来していた。

映画を見ながらイタリアンワインを

「まだ働いて間がなさそう、あの人」
「さすがみゆ、人間観察得意だよね。ねえ、ワイン頼んじゃお!すみません、白ワインを2つお願いします」
「分かりました、お姫様」
私は、最後の英単語に違和感を感じ、みゆに聞いた。

「ねえ、みゆ、今あの人なんて言った?」
「プ……プリンセス……?」
「成人してたの女子にそれ言ったら、セクハラ兄ちゃんじゃない?!」
「確かに!でもイタリア人でしかも新米なら、許されちゃうのかな?!」

そうしてやって来た白ワインを私達はチビチビ飲みながら、イタリア映画に引き込まれて行った。
リアクションが大きい主人公達は、イタリア語がさっぱり分からなくても、自分達で「勝手通訳」をしやすく、展開にも楽しくついて行けた。
ただ、だんだんとワインが効いて来る。
中盤を過ぎた頃から、勝手通訳をしてもみゆの反応はなく、私のまぶたもまた、どんどん重くなって行った。

夢と現実の狭間で

「せっかく盛り上がりのラブシーンなのに……」
ふんわりとした何かが、手に当たる。
どこまで映画で、どこまでが現実なのかよく分からない。
映画では何かをささやき合っているだろうか。

「甘い夢を見てね、お姫様……」
その言葉がイタリア語ではなく英語だったので、私の目は不意に開いた。
「星の王子様?!」
さっきまであくせくと働いていたはずの新米アテンダント兼セクハラ兄ちゃんが、星の王子様のような素ぶりで、超至近距離にいた。
お酒と眠気で特に何の返事もできなかった。
ただ、ふかふかのブランケットがなぜか一枚増えていた。

イタリア語の映画はそのまま続いていたからか、私は夢でもイタリア語の映画を見ていた。
快晴の中、2人乗りのバイクで美しい町を走りながら、主人公達の甘いささやきは続いていたように思う。
揺れるバイクから落ちないように、ヒロインはヒーロの腰をしっかり持ち、なぜかその手をヒーローから包み込まれる。
「あれ、運転してるのにそんなこと出来ないんじゃ……?」
ため息を、耳に感じる。
「なんて可愛いんだ」

英語?!

手に熱い体温を、感じる。
目を開けると、そこにいるのは、ダークブラウンの髪と深く黒い目を持った、星の王子様。

フライトアテンダントが星の王子様に

普通だったら、急いで払いのけるだろ。
いつの間にか、フライトアテンダントに手など握られていたら。
でも、白ワインと眠気と旅の開放感だろうか。
私はゆったりと手を離すことしか出来なかった。
そして、この「ニューシネマパラダイス」に出て来そうな、茶目っ気たっぷりの「星の王子様」と、イタリアについての会話を楽しんだ。
私達が観光するナポリやポンペイは、この王子様にとって故郷だそうだ。
「ナポリは僕の故郷だよ!一緒に降りて、案内できたらいいのに……!」

機内が暗い間、星の王子様は色々な飲み物に食べ物、そして何枚ものブランケット(!)を運んで来てくれた。
その度にした会話で、私はだいぶイタリアの予習ができたように思う。
こうして眠ったり、星の王子様と会話をしている内に、映画も機内の「夜」もあっという間に終わっていた。

慌ただしい朝食

機内が明るくなり、みゆも目も覚まし、私達は日常に戻った。
「理菜ちゃん!あの新米アテンダント、理菜ちゃんの手を握ってたよ。ビビったぁ……。あれっ?どうしたの、そのブランケット?冷えちゃったの?」
私のヒザの上には、いつの間にかブランケットが10枚以上重なっている。
思わず二人とも、吹き出してしまった。

ブランケットの主である星の王子様も新米キャビンアテンダントに戻り、タイミングが悪過ぎる2度目の食事を、激しく揺れる機内でかろうじて運んでいた。
「もうちょっと早く、運んで来てよ!」
「もう、コーヒーがこぼれちゃうし!」

日本人達の苦情とため息が、所々で聞こえる。
まさに「マンマミーア!」なアリタリア航空だった。
ただ私達は、そんなタイミングの悪ささえも愉快に感じた。
それは、ご飯が美味しく、イタリア音楽と映画が面白かったからだろう。

渡された紙切れ

着陸の時は、ウキウキ感と緊張感の入り乱った空気が機内に広がる。
「彼、カッコつけてるね。ナルシストそう」
「まあ、イタリア人だもんね」
機内食を配る服装からフォーマルな制服に着替えた星の王子様は、さすがに夜の時とは違い、キリッとした表情で仕事をしていた。

しかし、着陸に備えてか通路を歩き回っている時に、紙切れを何気なく渡して来た。
「……何?」
「僕の連絡先だよ。絶対連絡してね。日本でステイできる時があるんだ。日本で必ず会おう!」
そこには確かに、星の王子様の名前と連絡先が。
「わお!やるね、彼!」
みゆは星の王子様をだいぶ茶化していただけあり、盛り上がっている。

私達がその後日本で再会したかどうかは、ご想像にお任せしよう。

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