見出し画像

【簡単あらすじ】同姓同名(微ネタバレ)【下村敦史/幻冬舎文庫】

大山正紀は、観衆にスーパープレイを魅せつけ、スタジアムに自分の名が轟く瞬間を夢見る、プロサッカー選手を目指す高校三年生。

冬の選手権で予選落ちしたため部活は引退したが、スポーツ推薦で名門大学へ進学出来る可能性が高い状況にあった。

そんな中、日本中を震撼させた女児惨殺事件の犯人が捕まった。

犯人の名前は「大山正紀」

その時から、大山正紀の日常が少しずつ狂い始める…



ーーー

『はじめに』
酷かった花粉の飛散もようやく収まり、窓を開けると爽やかな風を感じるポカポカ陽気という、絶好の読書シチュエーションを得られる時期が到来しました。
ですので、最近読んで印象に残ったり、買ったまま積んでいたりした本の感想を書こうと思います。
このレビューを読んだことで、その作品や著者に少しでも興味を持って頂ける内容にしたと思いながら書いていますが、登場人物やぼんやりしたあらすじなど、『微ネタバレ要素』を含む記載がありますので、その点にご注意ください。

いつものように書店巡りをしていたところ、帯に、

「登場人物、全員同姓同名」
「大胆不敵、乱歩賞作家からの挑戦状」
「大山正紀が殺された。犯人は―――大山正紀」

という、強烈なインパクトの文庫本を見つけましたので、すぐ購入しました。

その後、ほんタメD企画「内容紹介から小説のタイトルを当てろ!」でも紹介された作品です。

ーーー

ブラック企業を退職した大山正紀は、次の転職先企業から「コロナの影響で内定を取り下げさせていただきます」という通知を受け取る。

企業の人事部にいくら訴えても、内定取り下げは覆らない。

大山正紀は、「罪を犯した大山正紀」のせいで、自分がどれだけ苦しみ不利益を被ったかを思い出し、この苦しみを分かってもらうために

『大山正紀“同姓同名被害者の会”』

を立ち上げた。

その後、この会はオフ会を開催し、

主催者の大山正紀
医学分野研究者の大山正紀
クラスでいじめられている中学一年生の大山正紀
家庭教師の大山正紀
細目の大山正紀

など、計10人の様々な大山正紀が集まった。

そこでは愚痴を言いあったり、これからどうすれば良いかという対策を話し合ったりしていたが、この参加者の中に、大山正紀ではないフリーの記者が紛れ込んだことが発覚する。

その記者から、『罪を犯した本物の大山正紀を探し、皆さんは被害者として世間に訴えましょう』という提案がされたところから、物語が加速します。

ーーー

このようなあらすじを書くと、どうしても「今までに無いくらい多くの同姓同名を登場させる」、といった作者さんの狙いのみに注目してしまうかもしれません。

しかし、この作品では、日常生活で私たち自身が遭遇してしまう可能性のある、

1.少年法問題

未成年であれば、どんな者(犯罪者)でも保護すべきなのか。

2.実名報道問題

報道機関は、読者のニーズが高いからといって、加害者・被害者の本名を公開して良いのか。

3.私刑問題

ある事件の犯人だけでなく、加害者の家族にも連帯して事件の責任を負わせるべきなのか、そしてそれを関係者・第三者が自ら行動し負わせて良いのか。

4.遺族感情問題

被害者の家族は、裁判の判決に異議があった場合・納得が出来ない場合には、どのような行動を取るべきなのか。

5.SNS上での誹謗中傷問題

関係の全くない第三者が自分の正義に従い、SNS内で他人に激しい言葉を投げつけて良いのか。

といった社会問題も絡められており、単純なミステリー作品ではありません。

ーーー

また、登場人物の一人「プロサッカー選手を目指していた大山正紀」の考えや行動にとても共感出来たため、爽やかな読了感を味わえるところも大変おススメです。

また、巻末には「もうひとつの同姓同名」という作品も収録されています。

こちらも同姓同名の人間が絡み合った事件ですが、本編の同姓同名とはまた違った読了感を味わえます。

一冊で二度楽しめる作品です。



★他の小説レビュー★


この記事が参加している募集

読書感想文

休日のすごし方

記事を読んで頂いた方に、何かしらのプラスを届けたいと考えています。