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「さんまって何?」と言った、味音痴な友達の彼氏の話と、最果タヒの食エッセイ「もぐ∞」が最高だった話

最果タヒの食エッセイ「もぐ∞」を読んだ。めっちゃ面白かった。見事に最果フィルターだった。


と同時に「この人こんなにメシのこと考えてるの?!」と思った。というのも、私は過去の最果タヒの本はおそらくほぼ全て読んでるけど、彼女の小説や詩に、そこまで食べ物が頻出するわけではない、別に普通の頻度だったので、意外だったのだ。

「おもしろ食エッセイが書けるほど食のことを考えている人が、メシの出現率を『並』にしながら小説や詩を書いてるってことは、このひとの思考の細かさは、食に特化してるんじゃないんだろうな、他のあらゆることもめちゃめちゃ考えてるんだろうな」と思った。すげえ。そのうちしれっと「衣」エッセイ、「住」エッセイも出すかも。

でもまあ、どっちにしろ、食のことをよく考えてる人なんだと思う。料理ができないのにレシピ本をどっさり買ってしまうほどの人だそうだから。

この本のどこが面白かったかというと、
「小籠包はあの『肉汁ジュワー』のわくわくの期待値でみんな頼んじゃうけど、実質ハンバーグくらいの評価でいいだろ! 勝手に期待して『あ、味は普通』みたいな評価になるの可哀相だからもう皆小籠包に期待すんな!」(大意)
とか
「抹茶飲んだこと無いのに何で抹茶ソフト食べてうまいって言えるの?」(大意)
とか


「そうそう確かに言われたらそうだけど言語化したことなかった」ということが鮮やかに言語化されている点。


でも本当に面白いのは
「(抹茶飲んだこと無いのに抹茶ソフト食べてうまいって言っちゃうみたく)、なんでみんな、本当の愛を知らないのに、愛だの恋だの言ってられるの?」(大意)
という抽象化。ここが最果フィルター炸裂。単なるあるあるにとどまらないから面白い。


■自分のどうしようもない食への欲望を肯定する

さて、思ったのは、「あ、やっぱりこの人は『好き』という感情を大事にしているな」ということだった。

(というか「好き」という単語は最果作品の最重要ワードのひとつで、「好き」という単語について何万字も語ってきた人なんだから当たり前ではあるのだが)

正直こんなに食が好きだったら、食にドライヴされて不本意な行為(原稿うっちゃって甘いもの食べに行っちゃうとか)をとってしまうこともあると思う、というか、私がそうなのだ、「腹減った」とか「チョコ食いたい」にドライヴされて原稿をうっちゃって何か食べに行っちゃったり、よくするのだ。

そういう時私は

「ああ……私は薄汚い食欲という罪を背負った存在……これさえなければ、文学の徒として道を邁進できるのに……」

と思って落ち込んでしまうのだが、最果さんはそのありあまる食への興味を「むしろ食エッセイ書こう」という方向にもってけたんだよね、そこがいいなあ。

(余談だが毎日オナニーする(主に)男性も、「ああ……私は薄汚い性欲という罪を背負った存在……これさえなければ、文学の徒として道を邁進できるのに……」とか、思ったり、するんだろうか)


■味オンチでサイコな、友達の彼氏

ところで、私の女友達の彼氏が、結構な「味オンチ」、というか、食に壊滅的に興味の無い人だった。

・彼女がさんまの話をしたら「さんまって何? 明石家さんましか思い浮かばない」と言い出す。「魚だよ」と言っても「どんな魚? 全然知らない」
・宮崎駿が「食事が面倒なのでお腹に引き出しをつけて済ませたい」と言っていたことに共感
・彼女が公園デートに「スコーン作ってあげようか。スコーン好き?」と言うと、「大きくて喉に詰まる感じが嫌い」と。

私は彼に直接会ったことはなく、彼女と通じてLINEでサイコな食エピソードを知るのみだったので、彼の問題点が舌なのか、人間性なのか、知性なのか何なのかは分からないのだが、とにかくインパクトがすさまじい。

まあ、例えるなら、私はPCに極度に疎くて、ギークな弟に「姉ちゃんはPCの話になると急にIQ30くらいになるよね」と言われるんだけど、私のPCにあたるものが、彼にとっての食なんだろうな、と思う。

どちらかというとグルメな方の彼女は、デートでご飯を食べるたびに「キツいな……」と思っていたそうだが、彼氏も彼氏なりに歩み寄る努力をしたらしく、彼女のために、おいしいお店を調べたり、おいしいケーキを買ってきてあげたりしたそうだ。その頑張りに胸を打たれて「ありがとう!うれしい!」と伝えた彼女だったが、彼氏から「うん。俺、頑張った。俺も歩み寄ったから、君も歩み寄ってね!」的なことを言われガン萎えしてしまったらしい。

それ以外にもいろいろ困難があり、結局ふたりは別れてしまった。

なんというか、彼氏の問題は「味オンチな点」じゃなくて、「味オンチをカバーしようとして無理して頑張り、その頑張りを相手におしつけちゃった点」なんだと思う。

私がパソコン頑張るようなもんでしょ……無駄っしょ…… 
いやいやまだパソコンならいいけどさ、味覚なんて長年の習慣が培ったものでそう簡単に変わらないんだから、むしろ潔く諦めて「味オンチをネタにする」構えが必要だったのでは、彼には。

そんな私は、彼の味オンチネタを「ウケる」「天才サイコパスっぽい」「キャラ濃すぎ」と高評価し、会ったこともない彼を主人公にした小説を構想中である。漁夫の利。


■「むしろネタになるわ」の精神

何が言いたかったかと言うと、「自分の、どうしてもおさえられない性(さが)」は、押さえつけるのではなく、「むしろネタにする」のが良いのでは、ということ。

「もぐ∞」を読んで、わたしは最果さんの食の欲望に値するような、エッセイ書けるレベルにネタに出来るものは無いかな? と考えてみた。

・食 特にお菓子
・Twitter大好き、LINE魔(昔でいう筆まめ)
・彼氏と毎日電話している
・ライフハック厨、効率厨、断捨離魔、段取り魔
・服を見るのがすごく好き

これくらいかなあ。

・お菓子代は月6000円~8000円くらいである。一度、「食べたおやつに二つ名をつけてツイートする」ということを課そうとしたんだけど、挫折した。もうちょっとハードルの低い何かをやりたい(コンビニのお菓子レポってすごくSNSと相性良いしすごくファボられるんだよね)

・SNSは現代性の象徴アイテムでもあるので、考察を深めてLINE小説とか書きたいね(Twitter小説はもう書いた)それか人生相談をやりたいです。LINE文章性格診断とかしたい笑

・彼氏との電話は、もう「ネタ集め」と割り切ってる。(彼氏の話シリーズ参照)ちなみに、小説「ラッキーアイテムはロザリオ」も、小説「ロボットデリヘル」も、彼氏との雑談がもとに生まれている。ネタ提供してくれる彼氏最高~

・ライフハック厨、効率厨、断捨離魔、段取り魔……これが一番カネになりそうな分野だけど先行者も多いんだよね。まあとりあえずnote書き溜めながら検討する。

・服を見るのが好きすぎるけど時間がもったいないから我慢してたけど、服への愛を「アラサーミニスカ延命計画」にぶっこむことが出来たので良かった。



下田美咲さんのこのインタビュー(超参考になる。おすすめ)にもあったけど、自分が趣味で時間やお金を投資しまくってることは、絶対自分の強みなんだよね。自分の趣味を我慢して押さえつけるより、突っ走ってネタに出来るほど推し進めた方がよい。

とりあえず私も自分の食に関する欲望をいじめずに、可愛がって、よく見つめてあげようと思いました。最果さん、ありがとう!

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