Takeru Ishii

かつてバンドの真ん中でギターを弾きながら歌っていた 、今は猫とお酒が好きなサラリーマン

Takeru Ishii

かつてバンドの真ん中でギターを弾きながら歌っていた 、今は猫とお酒が好きなサラリーマン

最近の記事

ようやく君は(境界)

右腕に汗疹ができた。 痒みが多少あるが、できるだけ掻かないように注意している。 傷やその痕をいじりたくなるのは人間の性であり、それは精神的な面でも同じように言えるだろう。 最初から決められていたように、僕は悲しむことをやめ、酩酊することを選んだ。8月になると僕は様々なことを整理しなければならない。それは誰かが僕の行いを待っているからだ。誰かは僕がきちんと整理できるかどうか、正しいものを正しい場所に戻せるかどうかを見ている。(僕は少々散らかしすぎたのだ)どうして8月なのかとい

    • 僕が聞いた2022年

      今年僕はピアノを練習していた。ギターと違う頭の使い方をするから、今まで弾いていたコードが違った聞こえ方するし、コードの運び方も違った見え方がしていた。 景色についてもそうだ。 僕の頭の中にあった景色は、まるで違っていたのだと気づかされたのも今年の出来事だった。景色だけじゃなくて、匂いとかもそう。いろんな意味で今までの僕が持っていたものが覆される一年だったと思う。 でもやっぱり相変わらず音楽はずっと鳴っていた。 今年は初めてフェスに行ったし、そこで見たc.o.s.a、サニーデ

      • 僕たちはきっと後悔をしている

        沢山の花に囲まれて僕たちは寝ている。 時に羽虫や小さな動物、何も知らぬ老人たちが僕たちの周りを行き交い、理解できぬ言語を互いに交わしながらその空間をまるで必要とされた業務のように粛々とこなしている。 ギターを弾いてる、僕。 秋葉馬のハードオフで6万円の中古のfender telecasterを弾いている。歪みとクリーンのチャンネルを分けながら。 そして僕は酩酊する。 海はもう見えない、見たくない。 見たくないんだ。 怒り、憤り、辟易、嘔吐、すなわち僕にまつわる全ての負の感情

        • 完成された不正の事実

          11月に入ってから左脚を大捻挫した。その後に会社から支給されたwifiをどこかへ無くした。翌日左足の小指を角にぶつけ爪を割った。コロナになった。 不運が立ち込めている。 全て自分の不注意ではあるが、にしたってこんな短い期間で僕の注意力が散漫にならなくたっていいじゃないか。 最近は自分が作った過去の曲や文章などを掘り返している。耳を覆いたくなる箇所や恥ずかしい出来のものばかりではあるが、中には自分で作ったのにも関わらず、胸を刺すような作品もある。変な話だが、自分が作ったものを

        ようやく君は(境界)

          その香りに包まれるためには

          遊園地によく置いてあるパンダの乗り物に乗った彼女は僕の方を見て微笑んでいた。無邪気な笑顔が僕の構えているカメラのレンズ越しに見えている。無条件に吹くこの時期の風は、滅びゆく街の鳴き声をかき集めながら何処かへと向かっていく。その時、徐々に僕が悲しくなる香りへと変わっていく。 思えば、僕が生まれ育った地では金木犀の香りを感じることがほとんどなかった。だから「赤黄色の金木犀の香りがして堪らなくなる」感情はようやく最近になって知ることができた。この街には金木犀が至る所に咲いている。

          その香りに包まれるためには

          堕ちる空、回転する窓、消える花

          海にまつわる神は予言の能力を持つという。 それから僕は9年生きた。9年だ、生まれた子供が小学3年生になる年月。とんでもなく時間は経過していた。その間、様々なものが僕の周りと中から離れ、気づけばくだらないものだけが残っていた。 それでも希望を持っている。 僕は愛しているのだ、あの景色を。そしてきっとその景色から愛されているのだ。気まぐれなその天気を、夏の風に揺られるその茶色の髪を。 久しぶり訪れたその街は、かつて見たそれとは違って見えたような気がした。工事中の場所があった

          堕ちる空、回転する窓、消える花

          手と目

          僕はいなかったことにされている。 タクシーの運転手はしきりに咳払いをしていて、一度それが気になりだすと僕は目的地に到着するまで咳払いの回数を数えてしまっていた。新宿に差し掛かったときにかなり渋滞に巻き込まれたのだが、程なくして車は動き出し、予定通りの時間にタクシーを降車した。 雑居ビルの前には野良猫がいた。 こいつには見覚えがある。 お世辞にも綺麗とは言えない雑居ビルの階段を上がり、3階の一番奥の部屋へと足を運ぶ。 「左右が反転してる」

          横目で見るあなたの顔に胸の高鳴りを覚えた

          「肝心なのは愛じゃなくてその愛を伝えるための表現方法なのよ」 彼女は吐き捨てる様にそう言い3杯目のハイボールを注文した。彼女がハイボール以外の飲み物を飲んでいるところを見たことがない。もっとも、彼女と僕が会うときは必ず酒の席というせいでもあるのだが。 街は既に夏の亡骸を鎮めるような冷ややかな風が吹き、街路樹は一斉にに色づき始めていて、寂しい季節だ。 「どれだけ愛を持っていてもそれが相手に伝わらなければなんの意味もない、ゴミ以下なの。たんまり持ってる金を全く使わないバカと同じ、

          横目で見るあなたの顔に胸の高鳴りを覚えた

          夏のバス停

          (下書きの上から2番目) 駅前のロータリーには退屈そうにたばこを吸うタクシードライバーがいて、遠くの駅に来たことを実感した。 —空気 普段と全然違う匂いがした、好きな匂いだった。 「おとぎ話の続きは消波ブロックの向こうで、」 彼女はそう言い残しどこかへ消えてしまった。 コンクリートの香りが立った。 古本屋でヘルマンヘッセの本を買った。

          夏のバス停

          衝突する空

          (下書きの1番上にあったつくりかけ) 夜中の0時ぴったりにインターホンが鳴った。こんな時間にこの音を聞いたのは初めての経験だったので、一瞬何も考えられなくなった。何も考えられなくなった一瞬が過ぎた後、(めっちゃ怖…え、誰…)という恐怖がやってきたのだった。鳴ったのは一回きり。その音の後はさっきよりも静寂が増したような、何か少しでも音がしたら気づく、それなのに何の音もしない空間が訪れた。 この家をこんな時間に訪ねてくる人に心当たりは全くなかった。 恐る恐る玄関の扉を開けると

          衝突する空

          春の団地

          レジャーシートを敷いて、川沿いの芝生の上でお弁当を食べて、その後にシャボン玉で遊んだ。その記憶を僕がふと思い出したのは、東京が開花宣言を迎えたらしいからだった。たしかその記憶の中でも、桜が咲いていて(東京より寒い地域だったからもっとずっと先の時期だった、風も冷たかった)すごく天気が良かった。僕はクライアントへの訪問を終え、会社に帰る前に桜がたくさん咲いている公園で散歩をすることにした。 修学旅行生が誰が先にボートに乗るかで揉めていて、かわいかった。お母さんと手をつないでいる

          春の団地

          不感症の警官

          僕です、はい。 明らかに自分の才能(もともと無い)とポテンシャルが徐々に消えていく感覚、それすらも無くなりそうな日々を過ごしてる。 あれ、僕ってさ、どうやって文章書いてたっけ、どうやって曲作ってたっけ、どうやってギター弾いてたっけ…、 僕はといえば、この大都会東京の中で、 流行りの病がもたらしている危機に、思いっきり肩ぶつけられながら生きています。 生きてる? 僕がちゃんと生きていた日々って16〜21歳くらいの間だったような気がする。 じゃあその5年間って何してたんだ

          不感症の警官

          #1

           便器の中に顔を突っ込む度に波の音が聞こえた気がした。その音が聴きたくて僕は嘔吐していたのかもしれない。目を瞑ると何もかもが平坦に成り果て、頭の中をぐわんぐわんと意思が巡る。そのあとまぶたの奥に海が見えて、それはしかも夜の海で、漣が僕の体を連れ去ろうとしていた。  ここのトイレはほとんど誰も使っていない。この高校の中で1番端の、1番面倒くさい位置にあるトイレだから。昼飯を食べたら決まって僕はここへ嘔吐しにくる。体の中に何も入れたく無い、全てを平坦にするために。その頃からだん

          完全の先

           偽物の街が裏返った。傲慢さを持ち寄って彼らは、とうの昔に干上がった海の終わりを探していた。僕はといえば丘の上に立つこの家のベランダから、沈む夕日にメロディを吐き捨てた。 パキスタンに吹く風はここに吹く風とどう違うのだろう。  岸壁に抱かれたこの街は月の晩に子供を孕む。白い花たちは一斉に泡を吹き出し空に向かって精子を解き放つ。逆に僕はこの景色がもたらす感情を嘘と呼ぶ。そう言って部屋を出た。  ただでさえ気が狂いそうになるのに心地よい風が体をすり抜ける。誰も許可してないの

          まえがき(と称した言い訳)

           出来るだけ脚色しないように書こうと心がけているものの、僕の記憶はそんなに優秀なものではないし、同じ景色を見ていてもその色だったり大きさはきっと異なるものだろうから、事実と違う部分が何個かあると思う。けれどもそれは僕なりに努力した結果だし、これを期にフィクションに逃げていた僕に別れを告げ、自分と自分の記憶に正直になろうとした最終的な答えであると思う。それを受け入れて貰えなくても僕は構わない。何故ならあなたに伝えるべくしてかいた文章ではなく、正真正銘の自分に対しての、いわば遺言

          まえがき(と称した言い訳)

          強くなった

           記憶に依存せずに済みそうだなと去年あたりから考えているんだ。そろそろ馬鹿らしくなってきたし、中指立ててやってもいい頃かなと思ったので。とは言え、僕には僕の、向こうには向こうの言い分があると思うのでこれ以上干渉し合わない方が互いのために懸命だと思うんです。 –––––––  泥濘じゃなくて僕の脱ぎ捨てた表皮でした。完全に向こう側に僕は行ってしまったんだなと悟って、さよならも告げずに街を出ました。けれどやっぱり、線路のそばにある墓のことはずっと気になっていて、出来ることなら

          強くなった