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その香りに包まれるためには

遊園地によく置いてあるパンダの乗り物に乗った彼女は僕の方を見て微笑んでいた。無邪気な笑顔が僕の構えているカメラのレンズ越しに見えている。無条件に吹くこの時期の風は、滅びゆく街の鳴き声をかき集めながら何処かへと向かっていく。その時、徐々に僕が悲しくなる香りへと変わっていく。

思えば、僕が生まれ育った地では金木犀の香りを感じることがほとんどなかった。だから「赤黄色の金木犀の香りがして堪らなくなる」感情はようやく最近になって知ることができた。この街には金木犀が至る所に咲いている。

「金木犀は2回咲くの」

彼女は僕の隣に座り小さな声で話した。
どうして2回も咲くんだろうか、と僕が尋ねると彼女は黙ったままどこか遠くを眺めながら、手に持っていた銃を優しくなでていた。

「2回死ぬためよ」



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