強くなった

 記憶に依存せずに済みそうだなと去年あたりから考えているんだ。そろそろ馬鹿らしくなってきたし、中指立ててやってもいい頃かなと思ったので。とは言え、僕には僕の、向こうには向こうの言い分があると思うのでこれ以上干渉し合わない方が互いのために懸命だと思うんです。

–––––––

 泥濘じゃなくて僕の脱ぎ捨てた表皮でした。完全に向こう側に僕は行ってしまったんだなと悟って、さよならも告げずに街を出ました。けれどやっぱり、線路のそばにある墓のことはずっと気になっていて、出来ることならその前に行きたいと思っていました。僕が墓の前ですることはなんでしょう?手を合わせたり、座って喪に服したり?そんなじゃないと思う。花をそっと手向けて、墓に唾を吐きかけて
「ここでおしまいだよ〇〇〇さん!!!!!」
と叫ぶんだと思うんです。

そしたら僕はきっと産まれてくる。

––––––––

結露した窓に約束を書いた。
まだ春の風の匂いはしない、かと言って冬の匂いもしない。
空から水が落ちてくる。
完全な罪とその罰の間で、2回だけ笑顔を許された。
目標はゴール。
けれどきっと無理だろう。
警笛の残響が街を埋め尽くして、さっきまで外で遊んでいた子どもたちの声もしなくなった。彼女は少し寂しそうな顔を見せていた。
けど僕はそれがどんな種類の寂しさなのかは分からなかったし、聞こうともしなかった。
片目を瞑って息を止めた。
それから数秒だけ血の流れを止めた。
拳銃はどちらの手に握られてるだろう。
君の好きな花の名前はなんだったっけ?
シャボン玉を飛ばしあったあの公園はまだあったっけ?

記憶が徐々に萎んでいく。

「だったらもう、捨てちまえよクソが。」


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?