完全の先

 偽物の街が裏返った。傲慢さを持ち寄って彼らは、とうの昔に干上がった海の終わりを探していた。僕はといえば丘の上に立つこの家のベランダから、沈む夕日にメロディを吐き捨てた。

パキスタンに吹く風はここに吹く風とどう違うのだろう。

 岸壁に抱かれたこの街は月の晩に子供を孕む。白い花たちは一斉に泡を吹き出し空に向かって精子を解き放つ。逆に僕はこの景色がもたらす感情を嘘と呼ぶ。そう言って部屋を出た。

 ただでさえ気が狂いそうになるのに心地よい風が体をすり抜ける。誰も許可してないのに人々は笑い出す。どうも僕を見て笑ってるわけではないようだ。というより、誰も僕なんか見ていないのだ。部屋に溢れ出す赤色のインクは少しずつ現実へ誘う。帰ってくる場所の印を地図につけるように、目を見開いて僕を待っている。教会の鐘が鳴り新婦は散り出す。見たことのあるシーンがスローモーションで流れる。大体は合っている、けれど完全に一致はしない。そういうものの繰り返しを僕は愛している。

 裸の女が浜辺で立っている。

 もう少しだったのに、会えるまで。何遍も聞いたその台詞は僕のアドリブだ。ただしカットされることはなくそのままカメラは回り続けた。録音はどうだっただろう。覚えていられなくなっているのが今1番の問題。排水溝の中に宿る僕の遺伝子。背中から君の温もりを感じて、また嘔吐する。

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