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#65 好かれたいは、好かれない

苦手なことを克服することができた!

そんな経験はあるだろうか。
僕には少ないけれど、そういった経験がある。

僕は数年前まで、女性と話すのがとても苦手だった。
怖かったと言った方がいいかもしれない。

今も完全に克服できたかといえば、自分では頷けない。
しかし、周りの女性に僕の過去のことを話すと、全くそうは見えないと言ってくれる。
確かに今では苦手意識もほとんどない。

そんな苦手意識を克服したのも、僕の大切な場所の一つ――
図書館での出来事だった。

青春時代に生まれた苦手意識

恐怖心を覚えるようになったのは、高校時代だった。

僕は当時、自分の話ばかりをする自己中心的な人間だった。
おまけに人の話もあまり聞かない。
さらに無駄に声がでかく、図体もでかい。

そういった人間だったからかもしれない。
僕は、女子からすこぶる嫌われていたのだ。

友達経由で「苦手なんだよね」と言われたことがあった(それを僕に伝える友達もどうかと思うけれど)。
僕が近づくと、露骨に嫌な顔をされた。
電車の中では、睨みつけてきた。
話し合いの際、僕が発言をすると、「今はそういう話じゃない」と叱責をされた。

当時の僕にも大きな原因がある。
一方、その自覚がない僕は、被害者意識に駆られるようになる。
そして、それが女性に対する苦手意識、恐怖心へと繋がっていった。

女性というのは、僕のことをぞんざいに扱う生き物であるという強い意識が植え付けられてしまったのだった。

苦手な場所に飛び込んでしまった

年齢を重ねるにつれ、女性と話す機会も増えたけれど、依然として女性と話すことへの苦手意識と恐怖心は薄れることはなかった。
話すことができたのは、僕が明るい人を演じていたから。
ピエロを演じていたからに過ぎなかった。

転機となったのは、図書館司書になったときだった。

適応障害に倒れ、人生のどん底で見つけたやりたい仕事。
非正規社員。給料は安いし、休みも少ない。
それでもいい!
これからの僕は、本に囲まれて仕事ができるんだ!

だが、図書館で僕を囲んでくれるのは、本だけではなかった。
図書館業界というのは、もっぱら女性社会なのである。

最初に配属された図書館も15名中12名が女性だった。
しかも、その図書館スタッフの多くは20代。
学生時代のトラウマゆえ、僕にとって若い女性というのが一番苦手で、恐怖の対象だったのである。

これは、終わったかもしれない……。

ピエロを演じた辛い日々

仕事を始めてからの2か月くらいは、不安と恐怖でいっぱいだった。
図書館近くにあるファミリーマートのトイレで心を落ち着かせてから出勤する習慣がついたくらいだ。

そして、職場だというのに、
嫌われないように……白い目で見られないように……
ということを意識していた。

何らかのミスをすると、
「終わった。嫌われた。白い目で見られる」
と、自身の不安感を増幅させ、自己嫌悪に陥った。

当然ながら、懸命にピエロを演じていた。
ゆえに仕事終わりには疲労困憊。帰りの足も重かった。

そのとき、周りの女性が僕のことをどう思っていたかはわからない。
僕の主観で言えば、全くもって馴染んでいなかったと思う。

仕事への熱意が克服の鍵に

しかし司書になってから3か月ほど経ったときから変化が生じた。
仕事に対する気持ちが強くなっていったのだ。

利用してもらうからには、よりよい図書館を作りたい。
そして、自分自身の司書としてのスキルを上げたい。


当然皆が先輩なわけだから、わからないことがあれば積極的に聞く。
自分より効率的な仕事をしていたなら、そのやり方を尋ねてみる。
そうしていくうちに、次第に女性と話せるようになっていった。

振り返ってみて、思う。
僕は女性に苦手意識を持ってから、常に克服しようと思ってはいた。

けれど、そのやり方が間違っていた。
克服するためには、嫌われてはいけないと思っていた。
女性に好かれる必要があると思っていた。

だから、ピエロを演じるしかなかったのだ。

しかしそれで好かれたことなど、一度としてなかった。
そして、苦手意識をずっとずっと克服できず迷走をしていた。
好かれたいは、好かれない、なのである。

意識しないことが苦手克服の近道かも

僕のケースは荒療治だったと言えるかもしれない。
苦手な場所に期せずして飛び込んで、不安と戦いながら克服していったわけだから。

その結果、僕は女性を女性であると意識しなくなった。
一人の人間として自分の中で扱うことができるようになった。

世の中、性別はいくつかあるけれど、中身はそれぞれ全く違う。
あくまで性別は大きな括りに過ぎないし、傾向でしかない。

それなら意識するだけ無駄だ。
そんなある種の諦めを持ったとき、僕はとても楽になったのだった。


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