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雑文ラジオポトフ

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2023年6月の記事一覧

また音がして常連がいなくなる

また音がして常連がいなくなる

シリーズ・現代川柳と短文 162
(写真でラジオポトフ川柳250)

 あれ、きょうはひとりで? 店主は馴れ馴れしく笑顔で言った。いつもとちがうね、というニュアンスがこめられていた。はい、とこたえて、生ビールを注文した。店主はさらに笑顔になって、はい生ひとつ、と元気よく言った。わたしがその店を訪れたのはその日が初めてだった。連れと訪れたこともないし、ひとりで訪れるのももちろん初めてだった。

▼こ

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あのときのことならぜんぶニラにする

あのときのことならぜんぶニラにする

シリーズ・現代川柳と短文 161
(写真でラジオポトフ川柳249)

 歯が16本横並びに生えていたら、歯間は15箇所である。その歯間すべてにニラが詰まってる。ニラとはそういう食べ物であり、歯間とはそういう場所なのだ。つまり、歯間はニラを詰めるためにあって、ニラは歯間に詰まるためにあるのだ。

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場所をかえても猫がいる猫がいる

場所をかえても猫がいる猫がいる

シリーズ・現代川柳と短文 160
(写真でラジオポトフ川柳248)

 アニメに出てくる猫はいろいろだ。デフォルメされたものもいれば、写実的なものもいる。それは動きにも言えることで、猫のあの伸縮自在な動きのさまをどうアニメーション表現に落とし込むか、あるいは落とし込まないのか、選択肢は無限にある。つぎに見る猫はアニメか実在か。

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持ち主のいないお箸が宙に浮く

持ち主のいないお箸が宙に浮く

シリーズ・現代川柳と短文 159
(写真でラジオポトフ川柳247)

 ときどき、箸をクロスさせて使う人がいる。内側に挟み込むのではなく外側に開く。箸はクロスしているからそれが結局内側に挟み込む力になる。トリッキーにも思えるが、慣れてしまえば存外かんたんだ。中学生のころ、その持ち方に慣れることによって、逆にわたしは「クロスさせない」持ち方もかなり整ったという記憶がある。整った、というのは行儀の話で

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ふざけてはいけないところでもふざけ

ふざけてはいけないところでもふざけ

シリーズ・現代川柳と短文 158
(写真でラジオポトフ川柳246)

 テレビの生中継に映りこんだ者がカメラに向かって手を振っている。出演者ではなく、いわゆる素人だ。手を振りながら、もう一方の手では電話をかけている。「見てるー?」と言っているようだ。おどけている。ふざけている。あるいはそこで横断幕を広げ、政治的な主張を始める者もいるだろう。おどけている者と政治的主張を行う者に本質的な差は無いはずだ

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ふざけてもいいならふざけましたのに

ふざけてもいいならふざけましたのに

シリーズ・現代川柳と短文 157
(写真でラジオポトフ川柳245)

 冠婚葬祭のうち、とくにふざけてはいけないシーンは「葬」だろう。祖先の霊をまつるという由来である「祭」も同じだ。ふざけてはいけないし、笑ってはいけない。それがいわゆる「フリ」となり、つい笑ってしまいそうになる。それを活かして、バラエティ番組やコントが作られてきた。「婚」は笑っていい気がする。「冠」は元服、つまり成人の祝いごとらし

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ここからがサイゼリヤだと言い残す

ここからがサイゼリヤだと言い残す

シリーズ・現代川柳と短文 156
(写真でラジオポトフ川柳244)

 ぜひこの機会にサイゼリ「ヤ」であることを覚えてもらいたい。べつに「ア」と書いたからって怒るようなことはしないが、正確な表記は「ヤ」だ。この世は正確であればそれでいい、というシンプルな世界ではない。それでも覚えてもらいたい。ヤヤヤヤヤヤ。いいですね。

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ちらかすな片付けるなとおれが言う

ちらかすな片付けるなとおれが言う

シリーズ・現代川柳と短文 155
(写真でラジオポトフ川柳243)

 広くはない自分の部屋で耳かきがなくなるのはなぜだろう。それはいつも思いもよらないところに置いてあるのだ。解決策として耳かきを2本買ってきた。無理に「なくさないようにする」のはストレスになる。2本あれば片方がなくなっても平気だ。それで2本ともなくした。

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縄文をふくむ2021よ

縄文をふくむ2021よ

シリーズ・現代川柳と短文 154
(写真でラジオポトフ川柳242)

 慣れはおそろしい。われわれは、縄文式土器、弥生式土器、というフレーズになじみすぎて、それ以外の土器へのまなざしが欠けてしまっている。いざ行かん、なんとか式土器の世界へ。

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けいしちょうだけが心のよりどころ

けいしちょうだけが心のよりどころ

シリーズ・現代川柳と短文 153
(写真でラジオポトフ川柳241)

 警視庁は東京のあれ、警察庁はすべての警察組織のあれ、というふうに、両者は異なるものだが、ひらがなで書いてしまえば印象はもはや同じだ。けいしちょう。けいさつちょう。もんしろちょう。

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こちらからバニーと呼んだことはない

こちらからバニーと呼んだことはない

シリーズ・現代川柳と短文 152
(写真でラジオポトフ川柳240)

 バニーなのかラビットなのか、匹で数えるのか羽で数えるのか。うさぎには謎が多い。「バニー」とよびかけて反応がないからといって「ラビット」とよびかけて反応があるわけではない。ただ鼻をひくひくさせているのだ。

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音だけがしているきみのボールペン

音だけがしているきみのボールペン

シリーズ・現代川柳と短文 151
(写真でラジオポトフ川柳239)

 ボールペンの擬音といえばカチカチだ。そうだろうか。先端のボールがまわるコロコロこそがボールペンの醍醐味だという人もいるかもしれない。言われてみればシャープペンシルもノック式で、カチカチだ。ではコロコロがふさわしいのだろうか。ここで現れるのがシュッ派の人間である。シュッ。それは白衣の胸ポケットにボールペンをさす擬音だという。当然

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パンの音だけが家出の理由なの

パンの音だけが家出の理由なの

シリーズ・現代川柳と短文 150
(写真でラジオポトフ川柳238)

 家出の反対語は帰宅になるだろうが、帰宅は毎日するものである反面、家出はごくたまにしか行われない。どうやら外出と家出はちがうらしい。たしかに「娘が家出した」と聞くと一大事だが、「娘が外出した」と聞いても、コンビニでヨーグルト買ってきてほしいな、程度である。

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わたしときみの境界線を撫でつくす

わたしときみの境界線を撫でつくす

シリーズ・現代川柳と短文 149
(写真でラジオポトフ川柳237)

 夜はいつ朝になるの? 少年は純粋な瞳でわたしに尋ねた。夜通し起きてそれを確かめようとしても気がつくといつも眠ってしまっているらしい。わたしは少年に言った。ごめんちょっとあの、知りません……と。

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