PuruPuruPunk Project

🔫架空のアニメ”PuruPuruPunk” 🐙サイバーパンクでシティポップな原作小説と…

PuruPuruPunk Project

🔫架空のアニメ”PuruPuruPunk” 🐙サイバーパンクでシティポップな原作小説と、二次創作によるビジュアルシリーズ 🍕C104-8/12東ト48a 夏のコミケに出展します

最近の記事

ぷるぷるパンク - 第13話❶

●2036/ 06/ 20/ 21:44/ 管理区域内・平泉寺邸 「小舟・・・。」後に続く言葉を失い、ぼくはただ、小舟を見つめた。  がらがらと内側から曇りガラスの引き戸が開くと、そこには小舟が立っていた。当たり前のようにそこにいて、当たり前のように微笑んでいる。  軽やかな夜の虫に時々混じるカエルの声。そしてどこからかうっすらと聞こえる小川のせせらぎ。蚊取り線香の匂いが強くする中で、時折ちかちかと点滅する青白い蛍光灯に照らされて、ばたばたと階段を降りて現れたのは小学生く

    • ぷるぷるパンク - 第12話❸

      ●2036/ 06/ 20/ 21:54/ 管理区域内・勝山駅   夜になって、強くなったり弱くなったりする虫の声を追い越しながら、昨日とはまた別方向に真っ暗な獣道を降りた。平地に近づくと、聴き慣れた川の音が聞こえ始めた。恐竜川だ。  舗装された道に降りると、蔦で覆われたかつての踏切の跡、そしてほど近くには勝山駅の跡があった。ここから100メートルほど先にある勝山橋を渡るとそこが管理居住区だ。ぼくらは装備をもう一度確認するために駅跡のロータリーにある恐竜の親子のモニュメン

      • ぷるぷるパンク - 第12話❷

        ●2036/ 06/ 20/ 10:05/ 管理区域内・高台の野営拠点  蝉の声と直接照りつける日差しが強すぎて目を覚ましたのは10時過ぎだった。  昨晩キャンプにたどり着いたのは既に明け方で、ノースはコットをテントの中に運んで寝ていたけれど、ぼくとサウスはテントの外に置きっぱなしだったコットにそのまま倒れ込んで寝てしまったのだ。  サウスは木陰のコットでまだ眠っていて、テントを覗いてもノースは見当たらなかった。  ぼくはヘルメットバッグの中から小さなポーチをとりだして、コ

        • ぷるぷるパンク - 第12話❶

          ●2036/ 06/ 19/ 19:17/ 管理区域内・高台の野営拠点  AG-0が見えた高台の周りに、大きめの枝を集めて簡易的な低い屋根を作る。その上に葉が茂った枝を掛けて荷物を隠した後、ぼくらは草むらにテントを設置した。周りにそれぞれがコットを広げて横になり、うとうとしたりしながら暗くなるのを待った。  西側にどこまでも重なる山々の青白い稜線の一番向こう側に、外国のキャンディーみたいな甘ったるい太陽が沈んでしまうと、ノースが「ちょっと早いけど、行こうか」と言って立ち上

        ぷるぷるパンク - 第13話❶

          ぷるぷるパンク - 第11話❸

          ●2036 /06 /19 /12:23 /観音ゲート前マーケット・渡小舟  蚊取り線香の匂いで満たされた暗い部屋の冷たい畳の上で気がつくと、すこやか少年がお盆で何かを運んで私の横に歩いてきたところだった。蝉の声がする。ときおり風鈴が鳴る繊細な音が遠くから聞こえる。 「お姉ちゃん、お粥、食べ」すこやか少年は、私の背中を押して私が起き上がるのを手伝ってくれた。  私はだいじょうぶだから、と言ったのだけど、彼はスプーンで掬ったお粥を一口づつ私の口に運んでくれた。ちょっと熱いく

          ぷるぷるパンク - 第11話❸

          ぷるぷるパンク - 第11話❷

          ●2036 /06 /19 /11:53 /福井北ターミナル・渡小舟  新横浜から新幹線に乗り、米原(まいばら)経由で福井駅まではどうにかたどり着いた。  2024年に地殻変動が起こらなかったら、本当は福井にも金沢回りの新幹線が東京から直で通っていたらしい。  福井市は地殻変動の大震災の後、政府が研究施設やテクノロジーのスタートアップ企業を盛んに誘致して、福井大学を中心に学園都市として成長させた新しい復興モデルの都市だから、駅から見えた限りでは、おしゃれなカフェなんかもいっ

          ぷるぷるパンク - 第11話❷

          ぷるぷるパンク - 第11話❶

          ●2036 /06 /19 /19:00 /国道134号由比ヶ浜交差点・九頭竜鳴鹿  九頭竜(くずりゅう)鳴鹿(なるか)は、国道134号を西に向けて運転しながら双子のことを考えていた。  手のひらに残るサウスの柔らかい髪の感触を思い出す。本当に可愛らしい子たちだ。荒鹿や芦原が、双子と一緒にいる理由を詳しく聞いたわけではない。しかし空港の事件とか、関連する何か大変なことに巻き込まれ、そのせいで彼らは世界を救わなければならない羽目になったのだろう。  もちろん世界救うと言うのが

          ぷるぷるパンク - 第11話❶

          ぷるぷるパンク - 第10話❸

          ●2036 /06 /18 /20:00 /管理区域西部・緩衝地帯  袈裟の男は合掌の姿勢を崩さずに頭(こうべ)を垂れ、後退りながら体の向きを横に変えた。そして白い光の中でさらに深く頭を垂れるとすうっと消えた。一連の出来事に呆然としたぼくは、目の前の事象を飲み込もうと努めた。しかし、男が消えた箇所にはまた別の男が現れたので、混乱は一層深まる。黄色い袈裟を着た同じようなトゥルクの僧はしかし西洋人で、消えた男と同じように胸の前で手を合わせていた。  西洋人の僧は流れるよう

          ぷるぷるパンク - 第10話❸

          ぷるぷるパンク - 第10話❷

          ●2036 /06 /18 /11:08/新東名高速道路・静岡付近  振動が心地よい。  目が覚めると、まず、思いっきり体を伸ばした。天井についているファンの隙間からわずかに光が入り込んでいる。夢も見ずに、これだけぐっすり眠ったのはいつ以来だろう。  コンテナの中が少し蒸し始めていたから、ぼくはスウェットのセットアップを脱いだ。かなりの汗をかいていたみたいで、汗を吸って乾いたPFCスースが少しだけひんやりして気持ちいい。  ぼくと双子は武器の詰まった硬いヘルメットバッグを

          ぷるぷるパンク - 第10話❷

          ぷるぷるパンク - 第10話❶

          ●2036 /06 /18 /02:10 /藤沢(芦原邸)  サマージ襲撃大作戦は無事終了した。実際のところ、何を持って無事と言うのか分からないが、ぼくらの側は誰も死なず、かすり傷すらない。ぼくらの側は・・・。  白檀の香りが、辺りに深く染み込んだ芦原邸のリビングルーム。  提灯のような橙色の照明が淡すぎて、表情までを窺うことはできないけれど、双子はずっとなにやらぺちゃくちゃと喋くっていた。コの字ソファにどっぷりと体を投げ出し、おでこを突き合わせるようにして、まるで修学旅

          ぷるぷるパンク - 第10話❶

          ぷるぷるパンク - 第9話❸

          ●2036 /06 /17 /23:42 /川崎・浮島(旧サマージアジト付近) 「ふたさんよんふた(2342)。さっちゃんとクズリュウとあたしの三人は、住み慣れたサマージのアジトを見下ろせるガスタンクのてっぺんに腰をかけている。ここは、よくさっちゃんと二人で来た場所だ。  さっきまでは雨が降っていたけど、今はすっかり止んで、ガソリンの膜みたいな薄い雲が、白く光る月の周りに広がったり重なったりして、その合間にうっすらと地球(そら)の環(わ)も見え始めた。相変わらずの繊細な夜

          ぷるぷるパンク - 第9話❸

          ぷるぷるパンク - 第9話❷

          ●2036 /06 /17 /23:10 /川崎・浮島(旧サマージアジト)  羽田空港からほど近い埋立地の工業地帯。金属とコンクリートが入り組んだ無機的な重い工場群に、光る大小のビーズをピンセットで飾りつけたような繊細な夜景が、降り頻(しき)る雨季の雨のせいで有機的に見える。まるで呼吸をする深海の未知の生物のようだ。 「東亞合成(とうあごうせい)川崎工場」の古い金属のサイネージがあるその工場の入り口ゲートには有刺鉄線が巻かれ、雨の重みでだぶついた「KEEP OUT」のテー

          ぷるぷるパンク - 第9話❷

          ぷるぷるパンク - 第9話❶

          ●2036 /06 /16 /16:20 /鎌倉女学院 ーーにゃんにゃん、にゃんにゃん  「猫犬山(ねこいぬやま)」の可愛くない鳴き声が私たちの脈絡のない会話を遮り、メッセージの着信を知らせる。  猫犬山というのはTikTok303で最近流行っているブルドッグのように獰猛に吠える猫で、「澄(す)まし汁(じる)」というおすましでいじわるな猫とその下品な鳴き声のギャップがバズっているアカウントだ。その猫犬山の吠え声を着信音にするのが女子高生の間で流行っている。遠吠えバージ

          ぷるぷるパンク - 第9話❶

          ぷるぷるパンク - 第8話❸

          ●2036 /06 /17 /12:11 /藤沢(芦原邸)  それから何日間かの間、双子は芦原さんの家に寝泊まりし、ぼくは大船から通うスタイルで、芦原さんによるアートマン合宿が開催された。  午前中はPFCスーツだけを着て芦原さんからアートマンを使いこなすための操作方法や、関連する物理法則、原理となっている擬似調和エネルギーによる反物質の実体化、そして背景となる歴史や主要組織についての詳細や構成なんかの講義を受け、午後はアートマンに変身、サウスと芦原さんが必殺技の研究と練

          ぷるぷるパンク - 第8話❸

          ぷるぷるパンク - 第8話❷

          ●2036 /06 /09 /11:26 /藤沢(芦原邸)  しばらくすると芦原さんはウェットスーツのようなものを着て戻ってきた。芦原さんの子どもみたいな体の線が浮き上がって見えるので、ぼくはなんとなく申し訳ない気持ちになって、彼女から目を逸らした。 「ほら、これがPFCスーツ」と言うと、彼女は手に持っていたスーツをぼくらに渡した。 「やったー!」双子が声合わせる。  芦原さんから受け取った黒いスーツは、しっかりした厚みから想定していたよりもかなり軽く、ほぼ重さを感じなか

          ぷるぷるパンク - 第8話❷

          ぷるぷるパンク - 第8話❶

          ●2036 /06 /09 /10:48 /藤沢(芦原邸) 「ちょっと待ってアワラ!」立ち上がったノースが芦原に詰め寄った。 「何よ、そのPFCスーツっていうのは!」  芦原は肩をすくめた。「話聞いてた? ポイントはそこじゃなかったでしょうが。」 ーーアートマンが精神に及ぼす影響なんて言葉で説明されてもわかりっこない。この子達は、その身をもって知るしかないのだ・・・。 「PFCスーツはアートマンとは別の技術なの。」 「さっちゃん、それ欲しい! 裸にならないってこと

          ぷるぷるパンク - 第8話❶