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夏八木 秋成
2022年3月14日 00:41
「ここまでよく生き延びた!お疲れ!」 日めくりカレンダーの最後の一枚には、自分で自分に書いた労いの言葉が弱々しく書かれていた。このカレンダーを作った日、きっとこの言葉は未来の自分には届かないだろうなと思っていた。感慨深い?安堵?そんな穏やかな気持ちは一切ない。人生で初めての武者震いをしてしまうほど、僕はいま、喜びに満ち溢れていた。 嫌で仕方なかった、細身の僕には少し大きめの学ランを着て、教科
2022年3月2日 16:15
翔吾は決まって13時36分にこの部屋に来る。 部屋の空気が一斉にドアの下の隙間目掛けて走り始めるけど、三歩くらいで直ぐにゆっくりとこちらに戻ってくる。機密性の高いこのマンションは、誰かが玄関を開けるたびに部屋中の空気が同じ行き来を繰り返す。 スニーカーを乱雑に脱ぎ捨てる音が聞こえたあと、横の傘立てに一回ぶつかってから、僕の部屋の前まで四歩。今度は勢いよく開いた扉に押されて、ベッドに横たわる僕