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逆噴射小説大賞参加作品(2018〜2020)

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逆噴射小説大賞への投稿作品です
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記事一覧

センパイ・スクランブル

センパイ・スクランブル

 とにかく驚いた。だって憧れの凪先輩が下校時、遥か上空から垂れる糸を登って帰宅するのを見てしまったのだから。

 えっ、と私の気の抜けた声が、廃ビル裏の空き地に響いた。先輩は掴みどころのない人物で、例え親友でもどこ住みなのかも知らないらしい。それで気になり、帰宅中の先輩をこっそり尾行してしまった。けれど、まさか空の上にあるなんて。

 頭上で銀のロングヘアが風になびいていた。先輩は疲れたそぶりも見

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贄の雨傘

贄の雨傘

 秋雨が翁を打ち据えていた。
 その老人、修はこの日も骨組みだけの傘をさしては、訳もなく庭と畑を徘徊する。そんな修の背をひ孫の水作が叩いた。

「なんだい輝美」
「だからママは死んだってば」
「どうしてえ」

 輝美とは修の孫娘で、水作にとっての母の名前だ。今はもういない。なのにこうして母の名で呼ばれる、そんな修を水作が敬遠するようになったのは無理もないだろう。それでも水作が修に話を切り出したのは

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ケンタウルス調教助手

ケンタウルス調教助手

 ヘロ子は5年前、F1レーサーになってモナコを制する夢を諦めた。なぜなら彼女は体重が495kgもあったからだ。

「オラオラーッ!相変わらず走りに集中が見られませんね!」

 ヘロ子は今、モナコの市街地ではなく栗東トレーニングセンターの坂道を駆け上がっていた。4本の脚に力を滾らせ、敷かれた木片を蹄鉄で蹴り、そして2本の手をメガホンに見立て並走馬に檄を入れ続けていた。何を隠そう、ヘロ子は尋常の人間で

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-VS EATER-

-VS EATER-

 パリ、夜の裏路地。カレーライスと八宝菜が手足をバタつかせ、捕食者に悲痛な抵抗を示していた。

 「アァ、ウマイ、こんなご馳走にありつける日がまた来るなんて……」
 「存分に味わえ、これは本来ヒトに許された当然の権利だからな」
 「頭が無くなる!助けて!」

 哀れな被食者にがぶりつくのは薄汚い男女二名、その後ろで黒服男が一人見守る。哀れな被食者の頭部は今に平らげられようとしていた。

 「肉断ち

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千二百年の墓暴き

千二百年の墓暴き

 それまでイズはエネヴィア団長にこの上ない敬愛を抱いていた。孤児であったイズを拾い育てた親で、己も属する守護団の長。その団長にイズは今、曲剣を突き付けられ床に跪かされている。

 「か、母様?何のご冗談です?」
 「ここでは団長と呼びな。今日はお前に昔話をしに来たのさ、この団にまつわるね」

 初老の女団長は眼前の大扉を見る。ここ『勇者の大墳墓』の最奥に位置する室には、数多の神器と、太古に世を救っ

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野海山宙球

野海山宙球

 遥か昔の事、かつてバットという物は人の頭をブッ潰す為の凶器ではなく、野球なる平和的係争で用いられていたのだと、その爺は俺に語る。

 爺は腰から下の肉体をを失っていた。曰くデッドボールなるものを受けてこうなったらしい。今も夥しい血が流れ、この後楽園クレーターの泥に染みてゆく。それを横目に俺は、釘一本もない黄金色のバットを握り、立ちすくんでいた。今さっきそこの翁から渡されたブツだ。俺は問う。

 

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超密着!世界ランタンロイヤル

超密着!世界ランタンロイヤル

 我が魂は年一度ハロウィーンの夜に甦る その時地上で最も強大なジャック・オ・ランタンを産み出した者の願いを叶えて進ぜよう

 ジョン・バンボギンが死んだ、その暴力と異能を以って世界を牛耳る鬼子は腫瘍で呆気なく逝った。均衡は崩れ、世のアウトロー共は彼の遺言に野心を駆られるのだった。

 それから始まった世界ランタンロイヤルも今年で52回目、今回も我々取材班は独自に注目した選手達に密着取材を試みた。

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アポカリプス・ワーカー

アポカリプス・ワーカー

 ガランゴウン、塔の上で俺は旧時代的な滑車を回し、白色のレンガを地上から運び込み続けている。汗を拭いふと空を仰ぐと、相も変わらず彗星が飛び交い、倉吉平野に林立する白い聖塔達を赤く照らしていた。

 「慈悲ーッ!」「働く意思はありアアーッ!」

 その時、純白の天使が薄汚い求職者2人を攫っていく光景が目に映る。可哀想に、だが俺も他人事じゃない。6時のベルが鳴り響き、俺はこの教会建設現場を解雇された。

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一年後人類滅亡

一年後人類滅亡

 番組名〖予言師NEUの八卦TV ~皆さんの一年後全部当てますSP~〗
 ≪再生≫
 NEU「アハ!氷川サン貴方のうなじに線状のホクロがありますよね?はいカメラさん来る!」
 氷川ジン「痛い痛い!捻らないで下さい首を!」(会場笑い声)
 NEU「えーこのホクロの線は別名ゾンビ線と言いましてぇ!これ貴方死んだらゾンビになって甦りますよ!」
 氷川「ゾンビです!?」(笑い声)
 ≪一時停止≫

 「こ

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虚空太郎

虚空太郎

 昔々ある村に仲の良い老夫婦が暮らしていた、ある朝その二人が妙に騒がしくしていたので村人達が様子を見に行くと、なんと子供が産まれたのだという。

 「ほぅら太郎や、村の者らもお前の事を祝っておるねえ」

 歓喜し高い高いの動きを繰り返す婆、その腕に抱くは虚空、翁が撫で回すのも虚空であった。遂に呆けたか、村人らは冷めた目であしらい、あるいは見向きもしなかった。そうしたある日、翁は村人にこう語る。

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廃都探検日記 vol.001「伝説の焼き芋屋」

僕の姉さんは優しく、まだ幼い僕を冒険に連れて行ってくれる。今日は新宿の廃ビル屋上から、国道20号線を覗いていた。

『いしやぁ~きいもぉ~おいしいよ~』

「おっ早速きたなっ!”伝説の焼き芋屋”!」

ザラついた音声の方向、焼き芋屋台が走るのが見えた。推定時速666km。荷台を屋台に改装しただけの唯の軽トラックにしか見えないそれは、新宿駅跡の方から僕たちの方へ、不自然な静けさで爆走する。それが僕達

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アタック・オブ・ザ・ユグドラシル

アタック・オブ・ザ・ユグドラシル

正に晴天の霹靂だった、その日東京スカイツリーは一瞬にして天を貫く巨木に変身したのである。

日本は大混乱に陥った。地デジ放送は停止し、あらゆる経済活動が減衰。外国人観光客も大幅に減り、終末思想カルトがにわかに流行...

「それももう三年前の事かぁ~」

「あの時は本当祭りだったねっ!」

巨木の根元、人混みの中で三人組の女子高生がフラペチーノ(樹木フレーバー)片手に談笑する。あれからこの巨木は新

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怒りの最終処分場

怒りの最終処分場

「その...三人とも話して、本当にすまないと思っている...だからさ、どうか俺を許」

「四股よっ!四股っ!こんなの絶対離婚しかありえなムググーッ!?...いえ、別れたのなら許すわ...」

奇妙!鬼神の形相で夫に詰め寄っていた妻は、突如口から黄色い物体をムリムリと吐き出し、不気味な程に平静を取り戻した!床にへたり込む彼女を尻目に夫はリビングを後にする...

この男、堺壮馬は半年前、他人の「怒り

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