弱聴

坊主頭の29歳フリーター女。東京から故郷の岩手県まで歩いて旅したエッセイ「弱聴の逃亡日…

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坊主頭の29歳フリーター女。東京から故郷の岩手県まで歩いて旅したエッセイ「弱聴の逃亡日記」を連載中。その他にもいろいろ妄想投稿中。

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  • 弱聴の逃亡日記

    東京から故郷の岩手県まで歩いて旅した経験談を少しコミカルに、ときどき真面目に綴ります。

  • 弱聴のハッシュタグ物語

    短いワードを並べて連想ゲームのような物語に挑戦中! 読者参加型を目指しております。感想、物語の続き、別展開などなど、ぜひハッシュタグコメントしてください!よろしくお願い致します!

  • 弱聴のハッシュタグ日記

    余計な接続詞や煩わしい言い回しを避け、極力短い日記に挑戦中。ハッシュタグから連想される写真や動画を想像しながら読んでいただけると幸いです。

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弱聴の逃亡日記 予告編

――この物語は坊主頭の28歳独身女、弱聴(仮名)が現代社会という荒波から抜け出し、東京から故郷の岩手県まで約430キロの距離を歩いて旅したお話である。 (本編より) 仮タイトル「弱聴の逃亡日記 ~430キロ徒歩の旅~」 ――弱聴は突然むくりと起き上がり、ニット帽を脱いだ。  坊主頭が露わになる。数ミリしか伸びていない髪の毛に、丸い頭の形がはっきりと表れる。さっきまでニット帽に入っていた耳がなんだか寒そうだ。坊主頭から男だと思ってしまうが肌質や体型を見るとやはり女だ。  弱

    • その後の弱聴

       2020年1月6日  逃亡の旅から二年が過ぎた。  旅の後、弱聴は仕事を辞め、一年間は日雇いのバイトで食いつないだが金銭的に厳しくなり、東京を出て実家に戻った。  今はすっかり髪も伸び、元気に働いている。  職場はなんと、リンゴ園だ。  自然の中で仕事をしたい。どうせだったら大好きなリンゴを作りたい。ということで農業の道に飛び込んだものの、右も左も分からない三十路の新人だ。ただひたすら先輩の背中を追って汗水流す日々だ。  それでもリンゴの仕事はすごく楽しい。  自然

      • 最終日!!

        2017年12月5日 13日目 「今日こそゴールしてみせる!」  今までにないほどの強い意志を胸に、弱聴は出発した。  ゴールの岩手県一関市まで約50キロメートル。いつもは一日30~40キロメートルしか歩いていない。50キロを歩いた日も何度かあったが、後半は疲労困憊で、気力だけでなんとか50キロを歩き切るといった具合だ。  しかも今日は宮城—岩手間の県境の山越えが後半に控えている。かなりきつい旅になるだろう。  でも絶対に今日を最終日にしてみせる。何が何でも家の玄関をくぐっ

        • 弱聴、死体と間違えられる

           2017年12月2日 10日目  福島県国見町を抜け、いよいよ宮城県に入った。岩手県の南隣りに位置する宮城県に関しては少しは土地勘があるので旅の計画が立てやすくなるはずだ。  夜通し歩いたせいだろうか、歩いている途中で眠くなってきた弱聴。道路脇の原っぱにレジャーシートを敷いて仮眠することにした。  山で野宿した弱聴だ。昼間の道路脇の原っぱなんて何も臆することない。歩道脇に堂々と寝っ転がる。日差しがまぶしいので顔にスカーフを覆って目を閉じた。 「すいませーん。大丈夫ですか

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        弱聴の逃亡日記 予告編

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          身近にあった儚い存在

          2017年12月1日 9日目  夜中降り続けていた雨は、朝方目覚めると止んでいた。  約束どおり六時前にスイミングスクールを発つ。  最後に防犯カメラに向かって挨拶――ありがとうございました、礼。  例のごとく国道四号線を北上する。 「ああ、ほんとに、なんていい人なんだろう!」  弱聴は昨夜の出来事を思い出し思わず心の声がこぼれた。  あの男性もこんな珍客が現れて驚いたろうに、固いことを言わずに場所を貸してくれて、さらに差し入れまでしてくださった。  頂いた物はどれも強力

          身近にあった儚い存在

          弱聴の逃亡日記「ヘッドライト照射と温かい飲み物」

            2017年11月30日 夜  福島県那須川市を出て、郡山市を通過し、二本松市の町に着く頃には辺りはすっかり暗くなっていた。  夕飯は何にしようなどと考えながら歩いていると、ちょうどよく商業施設が建ち並ぶ賑やかな一角に入り、弱聴はラーメン屋さんの隣にあったたこ焼き屋さんに入った。  簡易テーブルとパイプ椅子のこじんまりとした店内でアツアツのたこ焼きをホフホフと頬張っていると外は雨が降り出してきた。たこ焼き屋さんを出て、慌てて雨宿り兼今日の寝床を探す。  野宿するにはやは

          弱聴の逃亡日記「ヘッドライト照射と温かい飲み物」

          弱聴の逃亡日記「イモムシ姿、目撃される」

            2017年11月29日 7日目後半  国道四号線を北上し福島県白河市から那須川市まで順調に歩みを運ぶ。  山の森林、家々が並ぶ町の景色、風の匂い。見るもの触れるものに不思議と親しみを感じるのは福島県に入ったせいだろうか。  福島県は出身地の岩手県と同じ東北地方に分類される。福島は小さい頃に何度か訪れたことがあるし、同じ東北というだけで自然と親近感が湧く。  東日本大震災後からよく見かけるようになった「がんばろう! 東北」などの励ましののぼりや看板が目に留まり、東北入りした

          弱聴の逃亡日記「イモムシ姿、目撃される」

          弱聴の逃亡日記「坊主頭にした理由」

           2017年11月29日 7日目 朝  朝目覚めると、辺り一面が白い薄膜に覆われていた。雪が降ったのかと思ったが、降りた霜が凍ったらしい。草花も砂利石も白い衣を日の光に反射させキラキラと光っている。自分の荷物や上に羽織っていたレインコートも白くなり凍っている。  見るだけで凍りそうな気分。こんな霜も凍る山の中で自分は眠っていたのか。しかも寝袋無しで、食事も摂らずに。  よく目覚めたな、と感心しつつ、なんてバカなことをしているんだと自嘲の笑いがこみ上げる。  冷え込んだ割には

          弱聴の逃亡日記「坊主頭にした理由」

          弱聴の逃亡日記「山の野宿」

          2017年11月28日 6日目 夜の続き あのコンビニを出てからどのくらい歩いただろうか。 まだ2時間しか経っていないような気もするし、5時間以上歩いてきたような気もする。 興奮の熱に任せて歩いてきたせいで距離と時間の感覚を完全に見失ってしまった。 途中、外灯が一つもない真っ暗な道を懐中電灯の灯りだけを頼りに歩いたり、歩道のない狭い道で車のスレスレを歩いたり、安っぽく灯るラブホテルの看板を見つけて「そこで休むのもいいかも」なんて変な事を考えてみたり、一面が落ち葉の絨毯状態

          弱聴の逃亡日記「山の野宿」

          弱聴の逃亡日記「人生の選択」

          2017年11月28日 6日目 夜 辺りも暗くなってきた午後5時。 そろそろ休む場所を見つけようという頃、来た道を戻って温泉へ行くか、休む場所など当分ありそうにない山道を進み続けるかの選択を迫られ、弱聴は戻って温泉へ行くのではなく、進み続ける道を選択した。 悪い予想は当たった。果てしなく山道が続いたのだ。 日が沈んだ山道はあっという間に暗闇に包まれ、雑木林の中を分け入る国道は、外灯が無く懐中電灯無しでは歩けないほど何も見えない。 そして無謀な選択をした弱聴を嘲笑っているの

          弱聴の逃亡日記「人生の選択」

          弱聴の逃亡日記「国道脇のお昼寝と決意」

          2017年11月28日 6日目 この日の旅路は今までとは一味違った様相だった。 那須塩原の町を過ぎたあたりから建物は姿を消し、山を分け入って敷かれた道幅の広い道路が続く。 途中、珍しい標識に遭遇した。山の峰の絵が描かれた標識だ。 那須山と山名が示されたその向こうに絵と同じ形をした山々がそびえている。 「おぉ、あれが那須岳かぁ」弱聴は標識の絵と実際の那須岳を見比べながら知った風な声を上げる。 川や橋の標識はよく見かけるが山の標識は初めて見た。いつもは素っ気ない標識に絵が添えら

          弱聴の逃亡日記「国道脇のお昼寝と決意」

          弱聴の逃亡日記「5日ぶりの手紙」

          2017年11月27日 5日目 午前 弱聴が目を覚ますとご老人の井戸端会議の輪の中にいた。 えっ? どゆこと? 弱聴自身もポカン…ある。 深夜2時に宇都宮を出発し、夜通し歩き続け、朝方さくら市に到着した弱聴は、コンビニで朝食をとった後、大きな公園に寝心地の良さそうな東屋を発見し、これ幸いと仮眠をとることにした。 東屋の柱と柱を繋ぎ四角い囲いのように設置されたベンチの一つをお借りして横になった。もちろん自家製寝袋をこしらえてイモムシ姿で眠る。 夜通し歩いた疲れと秋晴れのぽ

          弱聴の逃亡日記「5日ぶりの手紙」

          「アーセンの憂鬱」ミュージックストーリー作ってみた

          シンタは黒のスーツに紅のネクタイを締め、怪しげな装置を手足や体の至る所に装着すると、予告状を胸ポケット忍ばせ、アジトを出た。 「予告状  明日午後10時 ガウ・ディーフゥの豪邸で  一番美しいものを頂きに参ります」 そして右下には似顔絵を模した怪盗シンタのサイン。 シンタは世界を股にかける大怪盗。宝石や金品ではなく、AIロボットや宇宙開発などの最新技術を狙い、盗みの手口も奇怪な機器を使う一風変わった怪盗だ。 そんな怪盗シンタが今回、こんな田舎町の最新テクノロジーとは無

          「アーセンの憂鬱」ミュージックストーリー作ってみた

          弱聴の逃亡日記「過食症になった理由」

           周りの目がある時は元気で健康なフリが出来たが、一人になるとそうは行かない。空虚感に襲われ、いつも同じ疑問が何度も何度も繰り返された。  何の為に働いているのだろう?  どうしてこんなに頑張るのだろう?  自分が招いた結果なのに、どうして理不尽だと感じるのだろう?  生きるってこんなに辛いものなのだろうか?  少し前まではあんなに楽しかったのに。  この辛い日々はいつまで続くのだろう。  出口はあるのだろうか?  そんな折、私は尊敬する養老孟子先生の本を読んだ。その本に

          弱聴の逃亡日記「過食症になった理由」

          蜘蛛の糸 こんな御釈迦様いやだ

          ※細字:蜘蛛の糸より抜粋 太字:弱聴オリジナル  或日の事でございます。御釈迦様(おしゃかさま)は極楽の蓮池のふちを、独りでぶらぶら御歩きになっていらっしゃいました。 「あー、暇や。暇すぎる。」  池の中に咲いている蓮の花は、みんな玉のようにまっ白で、そのまん中にある金色の蕊(ずい)からは、何とも云えない好い匂いが、絶え間なくあたりへ溢れております。極楽は丁度朝なのでございましょう。 「今日もいい天気、蓮の花の好い匂い、長閑な極楽…って毎日同じでつまらん!もっとこう楽

          蜘蛛の糸 こんな御釈迦様いやだ

          弱聴の逃亡日記「夜旅の瞑想」

            11月27日 旅5日目  温泉施設で疲れを癒した弱聴は、今夜は野宿せず夜通し歩こうと決めていた。  風呂から上がると、施設内の座敷で食事し、閉店ギリギリまで仮眠をとって温泉施設を出た。  時刻は深夜二時。夜の宇都宮の街へ出る。  夜の宇都宮の街は店のネオンやLEⅮ看板がカラフルで視界は賑やかだが、辺りは静かでそのギャップが幻想的だった。  温泉に入り仮眠もとった後なので、体が軽い。足がスッスッと前に進む。こんなに気持ちよく楽に歩けたのはおそらく出発直後以来だろう。

          弱聴の逃亡日記「夜旅の瞑想」