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「アーセンの憂鬱」ミュージックストーリー作ってみた

シンタは黒のスーツに紅のネクタイを締め、怪しげな装置を手足や体の至る所に装着すると、予告状を胸ポケット忍ばせ、アジトを出た。

「予告状
 明日午後10時 ガウ・ディーフゥの豪邸で
 一番美しいものを頂きに参ります」

そして右下には似顔絵を模した怪盗シンタのサイン。

シンタは世界を股にかける大怪盗。宝石や金品ではなく、AIロボットや宇宙開発などの最新技術を狙い、盗みの手口も奇怪な機器を使う一風変わった怪盗だ。

そんな怪盗シンタが今回、こんな田舎町の最新テクノロジーとは無縁とも言えるガウ・ディーフーの豪邸に予告状を送りつけてくるとは、警察同様、地元住民も大騒ぎだった。
町きっての警備網が城内はもちろん、庭や城の周辺地域にまで敷かれた。


時刻は約束の10時5分前。
警備員が城周辺に5メートル間隔で配置され、城内外で連絡を取り合っているトランシーバーの音が聞こえる。上空には地元テレビ局のヘリまで飛んでいる。
シンタは城の裏の茂みに姿を隠していた。予想以上の警備員の数だが慌てた様子も無くイヤホンの通信ボタンを押す。
「ミニシンタ2体、出動」
するとどこからともなく膝丈くらいしかない小人が「シンシンタ、シンシンタ」という鳴き声と共に現れた。外見はシンタと瓜二つ。ただ髪型だけは旧モデルのアフロヘアだ。
シンタをそのまま小さくしたような小人2匹がシンタの両脇に従える。
「ミニシンタ1号、作戦通り頼んだぞ」
「シンシンタ!」
と、敬礼をするとミニシンタ1号は城の正面へ向かった。

時刻は10時ジャスト。大きな爆発音で城中が騒然とする。
「何事だ!」「警部殿、花火です。城の正面で打ち上げ花火が」「何をやっておる!早く止めろ!」
警備員が慌てて正面に集まる。当然裏手は手薄になる。シンタは警備員がいなくなったのを見計らい建物に近づく。
ミニシンタ2号が壁にクレヨンでドアを描いた。するとクレヨンの絵が本物のドアになり、ミニシンタはそのドアを開けて中に入った。窓によじ登り内側から鍵を開け、本物のシンタを招き入れる。
シンタはヒョイと軽々窓をくぐり抜け、ターゲットが待つ部屋へ急いだ。

シンタは幼少の頃、この町の隣町の月見ヶ丘で暮らしていた。
近所にいたスフィアという女の子とよく遊んでいた。
スフィアは良家のお嬢様で、外で遊んだり、シンタのような貧乏人と遊ぶことを禁じられていた。
しかしスフィアは「そんなの関係ないわ、私はシンタと遊びたいの」といい、裏山の野原で一緒に過ごした。

その後、シンタが引っ越してしまい、それ以来スフィアと会うことはなかった。

世界を飛び回り、ありとあらゆるものを盗んできたシンタは、しばし休息と懐かしい故郷を訪れた。
そこでスフィアが結婚したと聞かされた。嫁ぎ先はガウ・ディーフゥ氏のバカ息子。しかもスフィア家の家計悪化とバカ息子の我がままにより成立した政略結婚。
快活で町の皆から愛されていたスフィアは、今はほとんど外に出してもらえず、城に閉じ込められているように暮らしているらしい。

シンタは居ても立っても居られなくなり、すぐにスフィアを助け出す計画を立てた。
スフィアが助けを望んでいるかは分からない。
しかしあのスフィアが、裏山の野原が大好きだったスフィアが、好きでもない人と軟禁状態で暮しているのがシンタには許せなかった。

スフィアはシンタのことを覚えているだろうか。シンタはずっとスフィアのことが離れなかったのだが…。


スフィアがいるのは最上階の中央の部屋。城の構図もしっかり頭に入っているシンタは迷わずスフィアのもとへ駆ける。

途中、保安官と大勢の警備員とすれ違ったが気付かれずに突破できた。
ジャックサから盗んだ無重力技術を搭載したシューズで、シンタは天井を逆さに駆けていたのだ。
マヌケな保安官と警備員は頭上にシンタがいるのにも気付かず「シンタはどこだー」と叫びながら通り過ぎて行く。

しかし一人だけシンタに気付いた男がいた。この騒動の中、やけにゆったりした足取りで、手にはなぜかギターを持っていた。
天井を歩くシンタとすれ違いざま、天井を見上げ、ばっちり目が合った。
しかし彼は保安官を呼ぶわけでもなく、何の反応も示さずそのまま素通りしてしまった。
奴は一体何者なのだろう?どこかで見たことがあるような…。
まあいい、今はそんなことに構っている暇はない。


螺旋階段の踊り場に出ると大勢の警備員が待ち伏せていた。シンタは壁を利用し警備員の頭上に飛び上がると手を下に向けた。
「掌底!」
手首に装着した機器から空気砲を発射。下にいた警備員が空気砲の威力で一斉に倒れる。空中に居た自分も上に押し上げられた。その勢いを利用して今度は手を上に向け手首の機器から糸を放ち、上手いこと最上階の天井に糸の先端を付着させると巻き上げ式で一気に上まで上がっていく。

最上階の踊り場に着地すると、すぐ横の窓ガラスが盛大な音を立てて砕け散った。隣の建物からスナイパーがシンタを狙っていたようだ。
シンタは即座に近くにあった扉を開け中へ逃げ込んだ。

逃げ込んだ先は大きなパーティーホールだった。
外の騒々しさとは裏腹にここは冷たいほど閑散としていて、ホールの中央にグランドピアノがポツンと1台あるだけだ。
シンタは何かの力に引き付けられるようにピアノに近づく。蓋を開け鍵盤を一つ優しくポンと叩いた。
冷たいパーティーホールに音が反響し、空気が一気に軽やかになった気がした。
シンタの頭の中で流れ出した曲を軽く弾いてみる。
すると呼んでもいないのにミニシンタが出て来てベースやらドラムやらを演奏し始めた。
一気に音に厚みが増し、パーティーホールが賑やかになる。シンタもノッてきた。

どこからやってきたのか、先ほどすれ違ったギターの男が現れ、スタンドマイクを手に歌い出す。

♪愛って言や 救済だ 暗い未来

ミニシンタがコーラスで合わせる
♪は~イヤイヤ

♪愛って言や 救済だ 暗い未来
♪は~イヤイヤ

この可笑しな状況にも構わず、シンタは一心不乱にピアノを弾く。

♪男なら自分の手で掴み取ってやるんだ、くらいのことを言え!言え!言えー!

その時、正面と左右の扉が一斉に開き警備員が怒声を上げ入って来た。
シンタは舌打ちし、ピアノの上へヒョイと飛び乗ると、軽々と空中で一回転し後方の扉へと逃げた。
廊下に出るとシューズを高速モードに切り替え通常の5倍のスピードで走り、追っ手を撒く。

スフィアが閉じ込められている部屋が見えて来た。部屋の前にはガタイのいい用心棒が二人控えている。
シンタは走りながら手首の機器から今度はサッカーボールを出した。
高速モードのシューズにヘビーモードも追加する。用心棒との距離や角度を正確に見極め蹴り放たれたボールは人間離れしたスピードで飛んでいき一人目の用心棒にヒットした後、壁に当たり二人目の用心棒にもヒット。
二人は一発ノックアウト。凄まじい音を立て倒れる。

のされた用心棒を跨ぎ、扉の前に立つ。とうとうスフィアの部屋にたどり着いた。
高速モードのままで扉を蹴り飛ばし、木っ端みじんに破壊する。

部屋の中央にはきれいなドレスを身に纏い、奥のバルコニーから入る月明かりに照らされ優美な影を落とす姫の後ろ姿が。
「姫、お迎えに上がりました」
シンタは姫に近づき手を伸ばす。
姫はゆっくりとこちらを振り向く。
何十年ぶりかの再会。想い続けていた人と待ち望んでいたこの瞬間。
少しずつ姫の顔が見えてくる。
大人びた、けれど見覚えのある顔。

記憶が走馬灯のように蘇る。裏山の野原で遊ぶシンタとスフィア――いや、待てよ。あの時もう一人、男の子がいたはずだ。ギターを弾いて歌を歌う男の子が。
シンタの頭の中で点と点が繋がり、一人の人物が浮かび上がる。
野原で一緒に遊んだ男の子――ホールで歌っていた男――最近世間を騒がせている高額ギターや音楽機材ばかりを狙うキザな怪盗――そして今目の前で不敵な笑みを浮かべているドレス姿の男――タクヤ!
「――しまった!」
気付いた時にはもう遅かった。ドレスの下から強烈な回し蹴りが繰り出され、シンタの頬にクリーンヒット。
スローモーションで倒れ込むシンタ。頭の上でピヨピヨとヒヨコが回る。

タクヤは変装のドレスを大胆にはぎ取ると、部屋の奥にあるクローゼットを開けた。
中にはピンクのドレスを着たスフィア姫が姿を隠していた。
「姫、これでもう邪魔者はいません。さあ、参りましょう」
タクヤは姫の手をとり、バルコニーに出ると、姫を抱きかかえ、飛び降りた!
すぐにハンググライダーの翼を広げ、風に乗り遠ざかっていく。


シンタは月明かりの中に消えていく二人を見届けながらため息をついた。

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長年スキマスイッチのファンである弱聴。
スキマスイッチさんは今年15周年で、11月にアリーナ公演を控えております。それに伴い何やらTwitterでも「15周年お祝いしよう」的な催しがっ!

https://twitter.com/sukima_deluxe/status/1050710086862008325?s=20

公式ではなく非公式でやっている方もいるらしく、こんな募集も…
https://twitter.com/sukimaehanataba/status/1051060820342276097?s=20

私も僭越ながら「アーセンの憂鬱」という曲の
ミュージックビデオならぬミュージックストーリーを書いてみました。

スキマスイッチの「アーセンの憂鬱」を知らない人のために一応動画載せておきます。歌詞も載っているのでぜひ読んでいただけると、さらに面白いかと
https://youtu.be/dM9uqC5m0xM

ちなみにシンタは鍵盤の常田真太郎さんを、タクヤはボーカルの大橋卓弥さんをモデルにしております。

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