弱聴、死体と間違えられる

 2017年12月2日 10日目

 福島県国見町を抜け、いよいよ宮城県に入った。岩手県の南隣りに位置する宮城県に関しては少しは土地勘があるので旅の計画が立てやすくなるはずだ。
 夜通し歩いたせいだろうか、歩いている途中で眠くなってきた弱聴。道路脇の原っぱにレジャーシートを敷いて仮眠することにした。
 山で野宿した弱聴だ。昼間の道路脇の原っぱなんて何も臆することない。歩道脇に堂々と寝っ転がる。日差しがまぶしいので顔にスカーフを覆って目を閉じた。

「すいませーん。大丈夫ですか?」
 どのくらい経ったのだろうか。突然声を掛けられて顔にかけていたスカーフを剥いだ。
 二人の男性がこちらを覗いていた。
「何してるの? こんな道端で」
 突然のことに戸惑う弱聴。
「あの…えっと…寝てました」
「寝てました?」
 呆れたように笑われる。
「実はね、私たち警察官でね」
「警察!」慌てて起き上がって居ずまいを正す。
 警察官の制服を着ていないので言われるまで気付かなかった。
「通報されて来たんですか?」
「いやいや、通報はされてないよ」
 では、どうして見つかったのか?
 話によると、この二人の警察官は今日は非番で、私服と自家用車で見回りをしていたところ道端で横になっている私、弱聴を発見したということらしい。
「いや~、死体だったらどうしようって焦っちゃったよ」
「ははは」笑ってごまかすしかない。
 歩いて旅をしていると事情を説明すると親切にも
「そんなに疲れているなら、警察署に休む場所あるから、そこで休んでいけば? 車で送っていくよ」
と、言われたが、
「いえ! いいです、いいです!大丈夫です!」
と、全力で遠慮した。有難いお言葉だが、それで警察のお世話になるのは何としても避けたい。
「歩いて旅するのは…まあいいとして、頼むから道端で寝るのはやめてね」
「はい、すいませんでした」
弱聴、人生初の警察からの厳重注意。まったく情けない。
「じゃあ、がんばってねー」「はい! ありがとうございますー」
 自家用車に乗ってパトロールを続ける真面目な警察官を最後まで見送る。

 はぁ~。思わずため息。
 けど、死体に間違われるなんて!
 この状況が可笑しくて、気にして声をかけてくれたのがちょっと嬉しくて、笑いが止まらない弱聴であった。

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