見出し画像

IKEAスペインのライブコマースにAI搭載のバーチャルプレゼンターが登場

当noteでは以前、スペインの消費者の82%がAIの導入によるオンライン・ショッピング・プロセスの改善を期待しており、これは英国を含むヨーロッパ各国のどの国よりも高い比率であることをお伝えしました。

消費者の要望や期待に応えるべく、販売者もまたEコマースのためのAI機能強化に熱心なスペイン。

そんなスペインから頭がひとつ抜けた企業があるようです。
今日はIKEAスペインのニュースを紹介します。



IKEAスペイン、AIプレゼンターによる「live shopping」を実施

Laiaは、人工知能によって作られたアバターの固有名詞で、放送中に生身のプレゼンターをサポートし、商品の詳細を紹介する。

AIプレゼンターのLaia。(IKEA ESPAÑA)

IKEAは、スペインのデジタル消費者を喜ばせるために、アジアからライブ・ショッピングを持ち込んだ。過去2年間、スウェーデン発の大手IKEAは、ライブ放送による商品販売に基づくこの種のEコマースに取り組んできた。
そして今。IKEAスペインは、6月4日、人工知能(AI)によって生成されたバーチャル司会者、Laia(ライア)の助けを借りて、初のライブショッピング体験(ショップストリーミングとしても知られている)を開催した。

IKEAのユニフォームを身にまとったこのアバター、Laiaの仕事は、放送中に2人の生身のプレゼンターをサポートし、商品の詳細を伝えることだ。

この多国籍企業が声明で強調しているように、バーチャル・プレゼンターは、人間の才能とテクノロジーツールの統合とコラボレーションの結果である。IKEAのインテリア・デザイナーであるMarta Gorrachateguiは、AdobeのFireflyプラットフォームで顔を生成し、HeyGenでアバターを作成し、Laiaに命を吹き込んだ。この取り組みは、IKEA自身のアバンギャルドな性質と、新しいコミュニケーション方法を試そうという先駆的な意欲を反映しているという。

この「Towards a Sustainable Home」ライブショッピングイベントは、IKEAにとって37回目の放送であり、すでに合計210万ビューを記録している(スペイン時間6月5日時点)。各イベントは毎回平均して58,000回再生されている。

この日、Laiaはキッチン、バスルーム、ベッドルーム向けのサステナブル製品に焦点を当てた。これにより、ユーザーは自分の家にアイテムを取り入れるための新しい使い方やアイデアを学んだり、チャットを通じて疑問を解決したりすることができた。

専門家の視点から見たショップストリーミング

CIO Españaが、高級ファッション企業経営者で小売専門家のCoro Saldaña氏とおこなったインタビューでは、中国や韓国のような国々で最も注目を集めているトレンドがスペイン市場にも浸透しつつあることを察知した上で、Eコマースとライブ配信の融合がその位置を見出した。

そこで専門家は、ライブ放送とリアルタイムでの購入の可能性を組み合わせたこの新しい販売方法について「個人的には、カスタマージャーニーを放送時間に短縮できるこの形式が非常に気に入っています。」と意見を語った。しかし、アジアの一部の国ではこの方式は「爆発的な成功」を収めているが、スペインでは導入が遅れている。同氏によれば、中国とスペインを例にとると、この違いを説明する要因として、次のようなものが考えられるという。

1.消費者行動:
中国の消費者は、多くの欧米諸国よりも速いペースで、日常生活の一部としてモバイル・テクノロジーとEコマースを急速に取り入れている。デジタル・プラットフォームを通じた交流やショッピングへの意欲が、ショップストリーミングの成功への道を開いている。

2.ソーシャルメディアとEコマースの統合:
中国では、WeChatのようなプラットフォームが「ソーシャルメディア、メッセージング、Eコマース機能をシームレスに統合」し、ショップストリーミングを促進するデジタル・エコシステムを構築している。スペインでは、ソーシャルメディアとEコマースのプラットフォームが分離していることが多く、「消費者に摩擦を生む」可能性がある。

3. 決済エコシステム:
中国のデジタル決済エコシステムは高度に発達しており、AlipayとWeChat Payはユビキタスで、生放送中の即時かつシームレスな取引を容易にしている。スペインでは、デジタル決済の利用は拡大しているものの、浸透度と使いやすさはまだ同じレベルに達していない。

4. インフルエンサーとデジタルコンテンツクリエイター文化:
中国では、有名人やインフルエンサーは「猛烈な」影響力を持ち、彼らの推薦が即座に大量販売につながることがある。スペインでもインフルエンサーは重要な存在だが、彼らのフォロワーがどのように交流し、購入を行うかという力学は異なるかもしれない。

5. 規制と信頼:
電子商取引に関する規制や消費者保護の違い、またオンライン・ショッピングや広告に対する消費者の信頼の違いは、ショップストリーミングの認知に影響を与える可能性がある。

6. デジタル市場の成熟度:
中国はモバイルEコマースのリーダーであり、多くの企業がデジタル時代に誕生した。対照的に、スペインの多くの企業はデジタルトランスフォーメーション(DX)の過程にあり、新しい形のEコマースを取り入れるために戦略を適応させている段階であると断りを入れておく。

「スペインでショップストリーミングが普及するためには、文化的・技術的な適応、現地の消費者に合わせたマーケティング戦略、そしておそらくは既存のソーシャルメディアやストリーミングプラットフォームへのEコマース機能のさらなる統合の組み合わせが必要になるでしょう」と同氏は語る。
「時間の経過とともに、また世界的なトレンドの影響を受けて、スペインや他の類似市場でもショップストリーミングの人気が高まるかもしれません。」

Source:Ikea apuesta por el ‘live shopping’ con una presentadora generada por IA(CIO España)

おわりに

Laiaが実際に出演しているライブ配信「IKEA en directo」のYoutubeアーカイブ動画がありますので、ここに貼っておきます。
50分弱の長い動画ですが、Laiaの初登場は2:12頃です。

ソーシャルコマースとライブコマース

ECビジネスをおこなう上で、いかに集客力を高めるか。
その手段として最近注目を集めているのが、ソーシャルコマースライブコマースです。

ソーシャルコマースとは、SNSを利用したECマーケティング方法です。
今こうしてこのnoteを読んでくださっている皆さんも、少なくとも今この瞬間、noteというSNSを見ていますよね。

私は今、WallapopというスペインのC2Cフリマサイトで、我が家の不用品をいくつか出品しています。(いやほんとに。リアルに笑。)もし私がこのnoteやFacebook、Instagram、Xなどで、現在出品中の商品(不用品)を宣伝してURLを貼り付けて投稿したら、それがソーシャルコマースと言えます。
各SNSのインフルエンサーに依頼して、我が家の商品(不用品)を宣伝投稿してもらったら、それもまたソーシャルコマースです。

ライブコマースとは、主にSNSのライブ配信を利用したECマーケティング方法です。

FacebookやTikTok、Instagramなどでライブ配信をしながら、Wallapopで出品中の我が家の商品(不用品)を紹介すると同時に、視聴者からの質問をチャットで受け付け、リアルタイムで答えることができます。

ライブコマースではできるだけ多くの視聴者を集めた方が効果的なので、インフルエンサーに依頼するのが一般的です。

記事にもあったように、中国では特にインフルエンサーによるライブコマースで爆発的な売り上げを叩きだす光景が印象的ですが、日本でもインフルエンサーがライブコマースをしている印象があります。

ではスペインではどうか?
ヨーロッパの他の国ではどうなんでしょう。

例えば、有名ユーチューバーが自身のチャンネルで絶賛していたから、翌日人々がお店に駆け込み、あっという間にその商品が売り切れになる…なんていう光景は、見たことがありません。

ヨーロッパでやっと?広がるソーシャルコマースとライブコマース

中国のように、インフルエンサーによる爆発的な売り上げは見込めないかもしれないヨーロッパですが、ソーシャルコマースとライブコマース自体には大きな可能性があります。

下のグラブは、スペインで最もよく使われているSNSプラットフォームと、各SNSに費やしている時間を表したものです。

出典:Meltwater
出典:Meltwater

スペインでは、TikTok、Youtube、Instagramに費やす時間が上位にきています。
いずれもライブ配信が可能なSNSプラットフォームですから、ライブコマースに期待が持てそうです。

SNSプラットフォームをECに利用するメリットは、元々多くのユーザーを抱えているため、商品に目を留めてもらいやすくなることです。

また、ライブコマースでは、動画内でプレゼンターが実際に手に持ったり触ったりすることで、視聴者はサイズや質感などをよりリアルに知ることができます。
ライブ配信ではチャットでのコミュニケーションが活発ですから、ちょっとした疑問もすぐに投げることができますし、その場で回答を得ることもできます。
プレゼンターとほかの視聴者のコミュニケーションによって、自身では気付けなかった思わぬ情報を知ることもあるでしょう。

ヨーロッパの人々は一般的に自分の考えや意見をしっかり持っていることが多く、誰か1人のレコメンド如きでは、大した影響力は得られないかもしれません。
しかし、例えばスペインでは購入者の商品レビューを見て購入を決めることが多いように、販売者やインフルエンサーの一方通行な情報ではなく、購入者も交えて情報がやり取りできれば、ソーシャルコマースやライブコマースはより良いマーケティングツールだと思います。

◇ ◇ ◇

スペインの大手企業といえばInditex。
そのInditexが運営するアパレルブランドZARAは、昨年11月から中国で、TikTokの中国姉妹サイトであるDouyinを使用して実験的にライブ配信をおこなっていました。

配信時間なんと5時間にもおよぶ放送を毎週配信した結果、ZARAの売り上げに貢献できる結果だったことから、今年8月から10月にかけて米国、英国、EUでのライブ配信を開始する予定です。

ZARAの広報は「ライブストリーミングがあまり普及していない欧米諸国にこのサービスを提供したいと考えています。エンターテインメントの観点からすれば、それは進化のようなもの。」とコメントしています。

Source:After China, Zara expands live shopping experiment to Europe and US(Reuters)

ヨーロッパもやっとこれらのことに注目するようになった、そんな印象を受けます。

AIの台頭

IKEAスペインによると、AIはIKEAの日常業務においてすでに重要な役割を果たしていると言います。

例えば、商品のレコメンデーションやオンライン販売のパーソナライズ、コンテナやトラックの積載量の最適化、顧客が自宅に素晴らしいソリューションを生み出すためのツール「IKEA Kreativ」などでAIが活用されているほか、フードプランニングの分野でも、2,000万食分の廃棄を回避し、3万6,000トンのCO2排出量削減に成功しています。
デジタル部門では、ビッグデータ、機械学習、3Dプリンティング、ブロックチェーン、仮想現実、拡張現実などの先端技術の活用に力を入れており、顧客のニーズに応え、また従業員にとっても新しい働き方や改善された働き方の両方を実現できているとのこと。

また、今回IKEAスペインのライブ配信で登場したAIプレゼンターLaiaは、バーチャルアバターです。
AIにアバターにバーチャルに、IKEAスペインはスペイン、その他ヨーロッパ諸国の企業の何ステップも先を行っているようです。

(余談・超個人的な話)

今日のニュースとはまったく関係ない、IKEAスペインの話をもうひとつ。

私は先日、IKEAスペインのオンラインショップで買い物をしようとしました。
少し前にIKEAから誕生日の割引クーポンをメールでもらっていたので、利用条件をすべて満たし、いざクーポンコードを入力!

ところが、エラーの表示になって会計が進みません。
何度試してもエラーになってしまってクーポンが使えないので、カスタマーサービスに電話をしました。

私のつたないスペイン語にも根気強く付き合ってくれるコールセンターのお姉さんたちは、本当にamable(親切)でした。(これについては本当に感謝です!)

親切だったんですが!!!

お姉さん曰く、なんと、クーポンは私が何度もエラーを繰り返したせいか、システム上では「使用済み」となっていてもう使えないとのこと。

「使用済み」を解除するには、私が実店舗に行って店員に事情を説明し、「使用済み」の解除をしてくれないかとお願いするしかないと言われてしまいました。
しかも、解除してくれるかどうかは私の交渉次第だと…。

そんなことってありますー???

カスタマーセンターでシステム操作ができず、実店舗のシステムで操作しなければならないことにも驚きですが、解除してくれるかどうかは私次第って、どういうこと?

しかも我が家からいちばん近いIKEAに行くには、遠距離バスに乗らなければならず、往復のバス代はクーポンの割引料と大して変わらない金額。

IKEAスペイン様、AIを駆使して私のクーポンの「使用済み」をどうか解除してください。


📣INFORMACIÓN
Sachiがお届けする越境ECコラムは、こちらの📖マガジン📖からまとめて一気に読めます。海外の最新ECニュースをぜひCheck it out!!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?