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人の死が生んでくれたもの②

中等度の認知症のあるおじいちゃん患者さんが転棟してきた
数日後ペースメーカーを埋め込むらしい

歩けるが体が硬く、ベッドでの起き上がりも時間がかかる
手術も控えてるので体力が落ちない程度にリハビリをしていた

ペースメーカーを埋め込んで、翌日か翌々日にか
その患者さんが亡くなられた

それを知ったのはリハビリ室のパソコン上でのこと

あまりにも急だったので私の頭は追い付いていなくて
亡くなっていると知っているのに半信半疑で病室を見に行った


「嘘であってくれ、嘘であってくれ」


そう思って階段を駆け上がっていく



病室は綺麗になっていた

患者さんも何処にもいない


私はまだ受け入れられなくて何処かに移ったのだろうとパソコンでカルテを見てみる

やっぱり亡くなられていた

そりゃそうか


病室のベッドは綺麗で、病棟も看護師さんたちもいつものように仕事をしていた

また異様な雰囲気、、、


私はまた独りぼっち、置いていかれているような気がしていた


病棟を一周して最後にもう一度だけあの患者さんの病室を覗いた


「さぁ、帰ろう」


事実を受け入れてリハビリ室に帰ることにした



階段をゆっくり下りて帰る

前回よりも涙が乾くのに時間が必要だったからだ



何もできない自分が嫌だったし、急に亡くなる命が
その責任の重たさで心がすごく締め付けられた




あー、まただ


あれを思い出す

理学療法士1年目
デイケアに勤めていた頃はじめて1から全部担当させていただいた患者さんがいた

リハビリの書類も、自宅の訪問も、全体の会議も
もっと言えば情報集めから何もかも全部

仕事を覚えるため、慣れるため必死にやった


脳梗塞を2回発症されている患者さんだった

デイケアの利用にも慣れてとてもよい調子だったが、お休みされる日が続いていた

ある日職場に連絡があった

「○○さん亡くなられたらしいよ」


患者さんが亡くなるという経験はこれが初めてだった


脳梗塞を再発して亡くなられたらしい

上司も気に掛けてくれて「一生懸命やってたもんね、ショックだね」って言ってくださった

内心めちゃくちゃショックだった
めちゃくちゃ悲しかった

「もう一生会えないのか、、、」


それでも職場だから平常心を保つように心掛けた

心の悲しみには蓋をした


それからもご高齢の方が多いのでしょうがないのですが
亡くなられる方は何人もいて
内心「亡くなった」と聞くと心は痛んだ

この前まで普通に話していたのに

もうこの先「ない」んだ・・・

私は「死亡者の書類管理」の係もやっていたので
亡くなった方を思い出すことも多かった

「ああ、あの人も亡くなったんだよな」

亡くなるとデータの保存先が変わる

保存先には亡くなった方のリストがズラっと並んでいるので
嫌でも思い出す

その一覧にデータを移すのも
ああ、これでこの人の人生も終わったのかと思い知らされるような感覚を味わうのでデータを移すのにも多少の抵抗があった

なんとなく私がこの方の人生に「。」を付けて終わらせている感覚に陥っていた

あまりいい気持ちではなかったな、、


誰かが亡くなるのにはちょっと敏感になっていたのかもしれない

そんな理学療法士1年目を思い出した____





担当していた患者さんが続いて亡くなったので何日か気持ちがソワソワしていた

私は抱えきれなくなって一番尊敬している上司に相談した

「患者さんが亡くなるとどんな感じですか?」
そんなニュアンスで聞いたと思う

それに対して上司は「もう慣れちゃったからな」と
そう言ってくださった


私はもうそれ以上は聞かなかった

それが答えだと思ったから


納得したのと同時に私には無理だと思った

私は慣れないと思った




そして、現在
理学療法士としては中堅くらいの年齢になってしまった
年齢だけ年を重ねてしまった

仕事をしながら過去を思い出してまたちょっと目が潤んでいる

未だに「死ぬ」ことには敏感であるが、「死」とは大事なものであることを理解している

人生とは有限であるということを忘れないように
その人生を刹那的に美しく生きていきたいと思っている

また、当時の私には出来なかったことが今ではできるようになっていることも多くなった

あの「死」があったお陰で、自分が成長出来てもいますので


だって悲しいだけじゃない


「死」は何かを「生む」ものでもある


時間の経過がその表裏一体を教えてくれた


私は悲しくて仕事中に目が潤んだのではない
私は『わたしがやりたいこと』が近いことを知って
その実感で目が潤んだのに過ぎないのです


ちょっと最近昔を思い出してしまったので綴ってみました
読んでくださりありがとうございました



どうぞよろしくお願いいたします