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ソムニウム~夢~

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夢をモチーフにした詩と短編小説です。
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2020年6月の記事一覧

ソムニウム(33)猫のポサーダ

ソムニウム(33)猫のポサーダ

飼い猫が行方不明
サイドカーで探しに出る
三年探して見つからない
もう死んだかとあきらめる
悲しくて眉を剃り落とす
帰る途中で道に迷う
限界集落にたどり着く
藁葺き屋根の大きな宿
中に千匹の猫がいる
探していたのはどの猫ですか、と
女主人が訊いてくる
すべて死んだ猫だとわかる
すべて自分の猫だと答える
女主人が頷いて微笑む
一緒に宿で暮らし始める
一日一匹猫が消える
毎日眉を剃り続ける
三年たって

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ソムニウム(32)ツバメ

ソムニウム(32)ツバメ

部屋の窓を影がよぎる
速すぎてかたちが分からない
動け、と影が言っている
尾骶骨がむずむずする
オートバイで高速を行く
車の間を縫って走る
パステル調の夜明けの街
東の空で金星が光る

部屋の窓を影がよぎる
少しだけかたちが見えてくる
動け、と影が言っている
背筋にぞくぞく震えが走る
高速エレベーターでビルを上る
曲がります、とアナウンスが入る
エレベーターが傾いて戻る
雲の上まで行くなと思う

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ソムニウム(31)タマフリ

ソムニウム(31)タマフリ

伊勢海老が大漁
大鍋で煮る
ぐつぐつぐつぐつ
真っ赤に染まる
白い剥き身を
食べる食べる
生きたまま捌く
ぴんぷりん
桃色の造りを
食べる食べる
自分と海老が
混ざる混ざる
Uの字に曲がって
泳ぐ泳ぐ
触角ぴきりん
生きている
体をつかまれ
世界の外へ
翼の生えた白い女に
首をもがれて
中身を吸われる
女と自分が
混ざる混ざる
食べられながら食べている
ぐつぐつぴんぴん
ちゅうちゅうちゅう

(終

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ソムニウム(30)十九歳

ソムニウム(30)十九歳

大学の仲間と
映画のロケハン
3台のオートバイで海沿いを走る
丘の上に廃墟が並ぶ
ガラスの破片が
きらきらひかる
撮影が始まる
女優の少女がカメラを見つめる
クランクアップ
一晩で編集
上映会で評価をもらう
大学を出て映画を忘れる
二十年後に思い出す
実家を探すが見つからない
仲間もデータを持っていない
途方に暮れてあきらめる
深夜にチャイム
宅急便が届く
8ミリフィルムと大きな映写機
壁に向かっ

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ソムニウム(29)ベテルギウス

ソムニウム(29)ベテルギウス

朝起きると
おなかの中に星がある
オレンジ色の明るい星で
大きく膨らみ
体からはみ出す
家族と一緒に朝御飯
家族が星の中にいる
出勤する
星が膨らむ
猫や烏や雀や蝉や
道を歩く人たちが
自分の中に入ってくる
満員電車で運ばれる
ビルや車がつぎつぎに
自分の中を通過する
会社に着いて朝の会議
低空を飛ぶ旅客機や
闇を走る地下鉄を感じる
お昼御飯はチキンサンド
海の上をゆくタンカーと
その下をゆく魚群

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ソムニウム(28)向日葵

ソムニウム(28)向日葵

ボクシングの試合をしている
左アッパーをくらってダウン
歓声が弾ける
照明が回る
1、2、3、4
向日葵が揺れる
また起き上がる
ラッシュを受ける
ボディブローを叩き込まれる
足がもつれてふたたびダウン
1、2、3、4
無数の向日葵が風に揺れてる
起き上がる
ゴングが鳴る
目蓋にワセリンを塗り込まれる
メキシコの海辺の丘の上に
母と妻の住む家がある
急な坂道を上って近づく
道の両側は向日葵畑
母と

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ソムニウム(27)バービー

ソムニウム(27)バービー

近所の踏切に幽霊が出る
見たいと思って行ってみる
踏切りの向こうに
自分がいる
お前はそこで何してるんだ?
通勤電車が通るのを待って
窓越しに目があった人間の
生気を吸ってる
すごく美味いぜ
卑しい、と思って
幽霊を殺す
自分が幽霊になってしまう
女の子が見にくる
その子に化ける
あなたはそこで何してるの?
通勤電車が通るのを待って
こら!
と頭上で声がする
半透明で山のように大きな
バービー人形

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ソムニウム(26)山

ソムニウム(26)山

親戚の家で留守番をする
扇風機をつけて
昼寝する
目が醒めると夕方で
部屋が真っ赤に染まっている
窓の外が
燃えるような夕焼け
海と水平線があるはずの場所に
黒々とした山脈がある
ここがどこで
いまがいつで
自分が誰だか
分からなくなる

(終わり)

ソムニウム(25)読めない名前

ソムニウム(25)読めない名前

青い空に
はためく白い旗
黒いベールをつけた女が
ターコイズブルーの瞳で
じっとこっちを見つめている

恋人ができる
鼻が個性的
ショートヘアで手足が長い
ギターを弾くのがとても上手い
名前を書いて見せられる
シュメール文字の塊
読むことができない

ファミレスのバイト
後輩ができる
髪がオレンジの女の子
唇が個性的
バイトをやめる
女の子もやめてついてくる
先輩と一緒に働きたい
名前を書いて見せ

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ソムニウム(24)音喰い魚

ソムニウム(24)音喰い魚

漁に行こうと
バンドのベースに誘われる
海ではなくて地下鉄のホームに
ボートを担いで降りていく
軌道に入れるとボートが浮く
トンネルの闇の中へ入る
千代田線から丸ノ内線方面へ
大きな影が移動してると
レーダーを見ながら友人が言う
歌え、と
マイクを渡される
舳先に立ってアカペラで歌う
思いつくまま次々に
十曲目のサビに入ったとき
出した声が聞こえなくなる
友人が銛を用意する
闇の奥から
車くらいの

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ソムニウム(23)アゲハ

ソムニウム(23)アゲハ

春の山道を歩いている
杉の木立の木漏れ日の中に
女の子が立っている
瑠璃色のワンピースを着ている
しらんぷりして通り過ぎる
道の行く先に立っている
ふんわりにこにこ笑っている
ひらひら後をついてくる
きらきら頭上で太陽が光る
瑠璃色の粉が舞い上がる
あなたのことを待っていた
あなたと一緒に生きたいの
それもいいかな、と考えて
女の子の肩を抱きよせる
肌がとても柔らかい
体がすごく軽そうだ
しなだれ

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ソムニウム(22)国道八号線

ソムニウム(22)国道八号線

真夜中に
チャイムが鳴って目を覚ます
玄関へ行くと
ガラス戸の向こうに
大きな人影が立っている
見てはいけない
開けてはいけない
部屋に戻って布団にもぐる
玄関を開けて入ってくる
部屋の前を通り過ぎ
奥の部屋へ行ってソフソボを殺す
逃げなければと服を着る
チチハハの部屋で悲鳴が上がる
イモウトは気づかず眠っている
助けられないとあきらめ
一人で逃げる
暗い坂道を走ってのぼる
国道八号線の横の
駄菓

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ソムニウム(21)死なない子ども

ソムニウム(21)死なない子ども

春の日に
家の裏の小川をのぞき込む
メダカやザリガニがゆらいで動く
気持ちよさそう
小川に入る
ぷっかり浮かんで流れていく
父親が叫んで走ってくる
あの時子どもは死ななかった

夏の日に
道路の焼けたアスファルト上に
寝転がって太陽を見る
遠くで母親と妹が叫ぶ
車のバンパーが逆さに迫る
あの時子どもは死ななかった

秋の日に
石の植わった土台の上の
ジャングルジムを登りそこねる
頭をごんごんぶつけ

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ソムニウム(20)溶ける自転車

ソムニウム(20)溶ける自転車

実は君は癌なんだよ、と
友人に言われてびっくりする
みんながそれを知ってたらしい
どうして教えてくれなかった、
と問いただしても答えない
仕方がないので旅に出る
自転車で未舗装の山道を走る
ぐるぐる廻って山を降りる
タイヤがどろどろに溶けてしまう
街のショッピングモールの倉庫に入り
自転車を修理しようとする
立てかけてあった蛍光灯にひっかけ
何十本も割ってしまう
モールの職員が飛んでくる
泥棒じゃ

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