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木葉功一
2020年6月30日 14:07
飼い猫が行方不明サイドカーで探しに出る三年探して見つからないもう死んだかとあきらめる悲しくて眉を剃り落とす帰る途中で道に迷う限界集落にたどり着く藁葺き屋根の大きな宿中に千匹の猫がいる探していたのはどの猫ですか、と女主人が訊いてくるすべて死んだ猫だとわかるすべて自分の猫だと答える女主人が頷いて微笑む一緒に宿で暮らし始める一日一匹猫が消える毎日眉を剃り続ける三年たって
2020年6月29日 09:10
部屋の窓を影がよぎる速すぎてかたちが分からない動け、と影が言っている尾骶骨がむずむずするオートバイで高速を行く車の間を縫って走るパステル調の夜明けの街東の空で金星が光る部屋の窓を影がよぎる少しだけかたちが見えてくる動け、と影が言っている背筋にぞくぞく震えが走る高速エレベーターでビルを上る曲がります、とアナウンスが入るエレベーターが傾いて戻る雲の上まで行くなと思う
2020年6月28日 08:59
伊勢海老が大漁大鍋で煮るぐつぐつぐつぐつ真っ赤に染まる白い剥き身を食べる食べる生きたまま捌くぴんぷりん桃色の造りを食べる食べる自分と海老が混ざる混ざるUの字に曲がって泳ぐ泳ぐ触角ぴきりん生きている体をつかまれ世界の外へ翼の生えた白い女に首をもがれて中身を吸われる女と自分が混ざる混ざる食べられながら食べているぐつぐつぴんぴんちゅうちゅうちゅう(終
2020年6月27日 20:22
大学の仲間と映画のロケハン3台のオートバイで海沿いを走る丘の上に廃墟が並ぶガラスの破片がきらきらひかる撮影が始まる女優の少女がカメラを見つめるクランクアップ一晩で編集上映会で評価をもらう大学を出て映画を忘れる二十年後に思い出す実家を探すが見つからない仲間もデータを持っていない途方に暮れてあきらめる深夜にチャイム宅急便が届く8ミリフィルムと大きな映写機壁に向かっ
2020年6月26日 18:26
朝起きるとおなかの中に星があるオレンジ色の明るい星で大きく膨らみ体からはみ出す家族と一緒に朝御飯家族が星の中にいる出勤する星が膨らむ猫や烏や雀や蝉や道を歩く人たちが自分の中に入ってくる満員電車で運ばれるビルや車がつぎつぎに自分の中を通過する会社に着いて朝の会議低空を飛ぶ旅客機や闇を走る地下鉄を感じるお昼御飯はチキンサンド海の上をゆくタンカーとその下をゆく魚群
2020年6月25日 19:07
ボクシングの試合をしている左アッパーをくらってダウン歓声が弾ける照明が回る1、2、3、4向日葵が揺れるまた起き上がるラッシュを受けるボディブローを叩き込まれる足がもつれてふたたびダウン1、2、3、4無数の向日葵が風に揺れてる起き上がるゴングが鳴る目蓋にワセリンを塗り込まれるメキシコの海辺の丘の上に母と妻の住む家がある急な坂道を上って近づく道の両側は向日葵畑母と
2020年6月24日 14:22
近所の踏切に幽霊が出る見たいと思って行ってみる踏切りの向こうに自分がいるお前はそこで何してるんだ?通勤電車が通るのを待って窓越しに目があった人間の生気を吸ってるすごく美味いぜ卑しい、と思って幽霊を殺す自分が幽霊になってしまう女の子が見にくるその子に化けるあなたはそこで何してるの?通勤電車が通るのを待ってこら!と頭上で声がする半透明で山のように大きなバービー人形
2020年6月24日 13:46
親戚の家で留守番をする扇風機をつけて昼寝する目が醒めると夕方で部屋が真っ赤に染まっている窓の外が燃えるような夕焼け海と水平線があるはずの場所に黒々とした山脈があるここがどこでいまがいつで自分が誰だか分からなくなる(終わり)
2020年6月23日 09:07
青い空にはためく白い旗黒いベールをつけた女がターコイズブルーの瞳でじっとこっちを見つめている恋人ができる鼻が個性的ショートヘアで手足が長いギターを弾くのがとても上手い名前を書いて見せられるシュメール文字の塊読むことができないファミレスのバイト後輩ができる髪がオレンジの女の子唇が個性的バイトをやめる女の子もやめてついてくる先輩と一緒に働きたい名前を書いて見せ
2020年6月22日 06:51
漁に行こうとバンドのベースに誘われる海ではなくて地下鉄のホームにボートを担いで降りていく軌道に入れるとボートが浮くトンネルの闇の中へ入る千代田線から丸ノ内線方面へ大きな影が移動してるとレーダーを見ながら友人が言う歌え、とマイクを渡される舳先に立ってアカペラで歌う思いつくまま次々に十曲目のサビに入ったとき出した声が聞こえなくなる友人が銛を用意する闇の奥から車くらいの
2020年6月21日 08:43
春の山道を歩いている杉の木立の木漏れ日の中に女の子が立っている瑠璃色のワンピースを着ているしらんぷりして通り過ぎる道の行く先に立っているふんわりにこにこ笑っているひらひら後をついてくるきらきら頭上で太陽が光る瑠璃色の粉が舞い上がるあなたのことを待っていたあなたと一緒に生きたいのそれもいいかな、と考えて女の子の肩を抱きよせる肌がとても柔らかい体がすごく軽そうだしなだれ
2020年6月20日 11:48
真夜中にチャイムが鳴って目を覚ます玄関へ行くとガラス戸の向こうに大きな人影が立っている見てはいけない開けてはいけない部屋に戻って布団にもぐる玄関を開けて入ってくる部屋の前を通り過ぎ奥の部屋へ行ってソフソボを殺す逃げなければと服を着るチチハハの部屋で悲鳴が上がるイモウトは気づかず眠っている助けられないとあきらめ一人で逃げる暗い坂道を走ってのぼる国道八号線の横の駄菓
2020年6月19日 12:10
春の日に家の裏の小川をのぞき込むメダカやザリガニがゆらいで動く気持ちよさそう小川に入るぷっかり浮かんで流れていく父親が叫んで走ってくるあの時子どもは死ななかった夏の日に道路の焼けたアスファルト上に寝転がって太陽を見る遠くで母親と妹が叫ぶ車のバンパーが逆さに迫るあの時子どもは死ななかった秋の日に石の植わった土台の上のジャングルジムを登りそこねる頭をごんごんぶつけ
2020年6月18日 11:25
実は君は癌なんだよ、と友人に言われてびっくりするみんながそれを知ってたらしいどうして教えてくれなかった、と問いただしても答えない仕方がないので旅に出る自転車で未舗装の山道を走るぐるぐる廻って山を降りるタイヤがどろどろに溶けてしまう街のショッピングモールの倉庫に入り自転車を修理しようとする立てかけてあった蛍光灯にひっかけ何十本も割ってしまうモールの職員が飛んでくる泥棒じゃ