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ソムニウム(21)死なない子ども


春の日に
家の裏の小川をのぞき込む
メダカやザリガニがゆらいで動く
気持ちよさそう
小川に入る
ぷっかり浮かんで流れていく
父親が叫んで走ってくる
あの時子どもは死ななかった

夏の日に
道路の焼けたアスファルト上に
寝転がって太陽を見る
遠くで母親と妹が叫ぶ
車のバンパーが逆さに迫る
あの時子どもは死ななかった

秋の日に
石の植わった土台の上の
ジャングルジムを登りそこねる
頭をごんごんぶつけながら
土台の斜面を転がり落ちる
あの時子どもは死ななかった

冬の日に
学校の坂の脇を流れる
側溝の雪を踏み抜いて遊ぶ
雪と一緒に自分も落ちて
坂の下まで流される
あの時子どもは死ななかった

そうして今
あのときの子どもは
駅のホームや交差点の歩道で
並んでたたずむ大人たちになった
全員が死なない子どもだった
今を生きてる俺たちは
死なない子どもが見ている夢だ


(終わり)


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