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出産の勇気をくれた歌「産むならば世界を産めよ」(こどもと詩⑦)

詩のソムリエが子育てのなかで考えた、詩のはなしをちょこっと。今日は、「出産」の勇気をくれた、ある歌を紹介します。

▼これまでの「こどもと詩」シリーズ
① 詩のソムリエ、母になる (新川和江「赤ちゃんに寄す」)
② 鯉のぼりの、その先(まど・みちお「うさぎ」)
③ 生まれたての君(ウィリアム・ブレイク「行きて愛せ」)
④ 世界に用意された椅子(新川和江「わたしを束ねないで」)
⑤ 淋しいという字(寺山修司「Diamond ダイヤモンド」)
⑥ 詩のソムリエと子守唄(北原白秋「揺籃のうた」)

出産は、こわい

「痛みに強いですね」と言われてきた。10代で腰椎粉砕骨折したときも、男性の先生に処置されながら「やっぱり女のひとはすごいなぁ」と感心(?)されたのを覚えている。そんなわたしでも、さすがに出産は怖かった。「赤ちゃんに会える痛み」とかポジティブにとらえようとしたところで、怖いものは怖い。

出産の流れを描いたイラストはほんわかしているけど、実際、骨盤がひらいて3キロもの赤子がメリメリ進んでいく痛みを想像すると「いや、こんなもんじゃないだろ」とツッコみたくなる。

近畿中央病院HPより。ほんわかしている

帝王切開のほうがいいのでは…と思ったこともあったが、そもそも帝王切開は赤ちゃんが危険なときの医療行為であって妊婦が選べるものではないし、産んだあとが大変なので(そりゃそうだ、お腹と子宮をバックリ切るんだもの)、下から産めるならそうしたほうがいい、と口を揃えて言われた。腰椎骨折しているのもあり不安だ…と医師に伝えてみたところ、真顔で「ヘルニアでも下から産めます」。そして、緊急で帝王切開に切り替える場合は、腰椎骨折ゆえに通常はしない「全身麻酔」となり、気道確保困難などリスクが高いと説明された。

ひい。

ついでにいうと、最初から和痛分娩(※麻酔で陣痛を和らげる分娩、痛みがないわけでは決してない)を望んでいたものの、わたしは「ハイリスク妊婦」のため転院し、最終的に受け入れてくれた総合病院では、和痛分娩不可だった。(※病気が理由じゃない限り)

そういうわけで、やや(?)消極的に、遠回りしながら、自力で産むことを覚悟するに至った。

それでも、納得はいかない

とはいえ。
直径10センチもの赤子の頭が、膣から出てくるってどんな設計してんの。『初めての妊娠・出産新百科』など片っ端から読んでもそこはわからない。ちなみに、カンガルーの赤ちゃんは1〜2センチで生まれるそうだ。身長160センチのわたしが50センチの赤ちゃん産むの、やっぱおかしくない?無理無理、無理なんだけど。

調べてみたところ、二足歩行により身体構造が変わり、脳が発達した結果、人類だけが難産になったという説明が多い。つまり、進化とひきかえに産みの苦しみが残ったというわけだ。(「人類進化の負の遺産」(奈良貴史・新潟医療福祉大学)に筋肉や骨盤の話も詳しい)

産婦人科医・増﨑英明氏×サイエンスライター最相葉月氏の『胎児のはなし』も興味深かった。

人体ってすごいなぁ。しかし、知ったところで、こわさが変わるわけではない。動物の出産シーンをテレビで見ると、これまでは神秘に感動したものだったが、「いいなぁ…」と本気でうらやましくなるのであった。

不安を吹き飛ばす歌

そんな怯えは、水田宗子氏の『詩の領域/詩の魅力』という本のなかでふいに出会った歌にいきなり吹き飛ばされることになった。こんな歌だ。

産むならば世界を産めよものの芽の湧き立つ森のさみどりのなか 

阿木津英(あきつ・えい 1950-)


世界を産め」!三十一文字を口でなぞる。なんとパワフルなことばたちなんだろう。この短いフレーズを読んだ瞬間、自分が創造神になったような、ものすごいエネルギーが細胞に満ちていくのを感じた。

ものの芽の湧き立つ森」には、生命の源がひたひたと満ちている。そこに立つ女性はこれから世界を産もうとしている。イザナミノミコトがさまざまな神をなした「神産み」を思わせるプリミティブな魅力が溢れんばかりにつまったこの歌。

「ガールズパワー」どころじゃない、女のひとのパワーがみなぎるこの歌に、ひれ伏したい気持ちになった。

そして3月、臨月を迎えた。(その頃には、股関節痛や逆流性食道炎がつらすぎるのと、あまり子が大きくなると産むのが大変なので、もはや「早く産んでしまいたい」という気持ちになっていた)桜が満開になる頃、人間の難産をしっかり味わい、呻き苦しみながら、わたしは一人の人間を産み出した。あの日、窓越しに太陽を浴びながら、細胞すべてが生まれ変わったような清々しさを感じたのだった。

さんざん心身ともに苦しんだのに、生まれた子どもは息が止まるほどかわいすぎて、その苦しみはどこかに吹っ飛んでしまった、ということも、付け加えておく。出産の痛みは、人生最大の痛みであるとともに、「忘れられる痛み」でもあるというのは、本当だった。

瞬時に、「許す♡」となった

後書き:お産トラウマということ

わたしは結果的に自然分娩だったが、「下から産めなかった」と自分を責めてしまう「お産トラウマ」で苦しむ母親たちの存在をこの本で知った。

いまだに、「痛みに苦しみながら産んでこそ母親だ」とか、「産道を通るときに幸せホルモンが出る」とか言ってくる外野は、実際に、けっこういて(本当に、やめてね!)追い詰められる人がいるのもおかしくないと思う。だけど、どんな産みかたをしても、産み、そしてボロボロの体で育てているというだけでじゅうぶんすぎるほど女神様だ、と言いたい。

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今日もすてきな一日になりますように。
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