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誰かの「あったらいいな!」「こんなの欲しい!」は、誰かが実現する (エッセイ)

「再勉生活」中に研究室の同僚だった友人が、日本で工業高専の先生に就任し、この先生から2時間×2日がかりの「特別講義」を頼まれました。
これも、かなり前のことです。

学校で講義をするのは初めての経験だったので、なかなかうまく行かず、一方的な知識の伝達は、学生たちを退屈させただけでした。

翌年も頼まれたので、内容を見直し、知識の伝達に使う時間を半減させて、以下ふたつの「KAIZEN」を加えました。

➀ 講義内容の材料を使った電子部品やデバイスを回覧して実演する、という《大道芸》を含める。
➁ 学生が興味を持ち、自分のアタマで考える《宿題》を1日目に出し、2日目に《発表・議論》してもらう。

この《企画》は成功し、講義中に眠る学生はいなくなりました。

今回の主題は、➁にあたります。
宿題の問題は、

(1)あなたが「こんなモノがあったらいいな」という製品を書いてください。できれば、イラストを使って表現してください。

(2)その製品は、どんな《技術上のブレイクスルー》があれば実現するでしょうか?

学生たちが書いてきた《あったらいいな》の半分ほどは、「ドラえもん」で見かけたようなものでしたが(いつか別のところで書きますが、それも教育的意味があります)、あとの半分は、具体的に、
「こんな技術があればできそうだよね」
と真面目に議論できるような《あったらいいな》でした。

その中に、ひとりの女子学生の提案による、とても素晴らしい《装置》がありました。その装置を紹介するには、本来は作者に直接掲載許可をいただかなくてはなりません。しかし、22年も前のことであり、高専に現住所を問い合わせても、個人情報保護の観点から、教えてくれる可能性はないでしょう。また、「特許性」という点では、おそらく「発明」というより「意匠」であり、それも後述のように、既に公知になっています。
むしろ、お叱りは覚悟で「素晴らしいアイディア」として紹介させていただきたいと思います。もし、ご本人やご友人の眼に触れることがあれば、ぜひ、ご連絡いただきたいと思います。

以下は彼女の提案書(1999年)です。

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装置の名称:通訳メガフォン

機能:日本語が話せない外国人と話をするとき、メガフォンを使ってしゃべると、自分は日本語で話しているのに、メガフォンの中で翻訳され、相手には外国語できこえる。逆に、メガフォンを耳にあて、外国人が話しているのをきくと、日本語に翻訳されてきこえる。

この装置があれば、外国に行きやすくなり、また外国との交流が深まる。

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彼女の発表に対して、「超小型のコンピュータと十分なメモリー容量があれば実現可能」というような議論をクラスで行いました。この時は、私も含め誰の頭にも、《クラウド通信》という概念はなく、
「翻訳ソフトは装置内に設けなくてはいけない」
という固定概念がありました。

いずれにせよ、
ドラえもんの「ほんやくコンニャク」より、はるかに実現性が高い!

この講義から16年経った2015年、パナソニックからメガホン型翻訳機「メガホンヤクⓇ」が発表されました。

このニュースを目にした時、「通訳メガフォン」提案を行った女子学生の《想像力》は素晴らしい、と改めて脱帽しました。

また、同時に、

誰かが「あったらいいな!」「こんなの欲しい!」と思うモノは、いずれ誰かが実現する。

とも思いました。
もちろん、エンジニアとしては、自分で実現するのが理想ですが。

下記エッセイに書いたように、ESC社の製品もいずれ次々と世に出て行くのかもしれません。

こんな装置があったら、以下のような苦労はしなくても済んだかも。
でも、苦労があったから苦労話がかけた、とも……。

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