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他人からもらったノートで勉強しても効果がないのはなぜか

今だから言えるヒミツ

昔、小学生か中学生のころ、テストでどうしてもいい点をとりたいと思って、こっそりカンニングペーパーを作った。

四角い付箋ぐらいの大きさの紙に、小さい字でみっちり書き込んだ。

老眼が少し入ってきた今だったら絶対に見えないような字で写経のように書き込んだ。

テスト当日、カンニングペーパーを使うの忘れてしまった。
というより、使わなくてもめちゃくちゃ覚えていて、テストが解けた。

一方、大学のころ、ほぼ授業に出ていなくて遊んでいた時、悪友から

「⚪︎⚪︎くん(慶應では教授のことを「くん」と呼ぶ)は仏だから、楽勝。塾高の友達からもらったノートあるから大丈夫」

と言われ、なぜか安心して受けた試験・・・・質問がまったくわからず、とりあえずノートに書いていることを書き写してなんとか可をゲットしたあの夏。

おそらく、読者の方も試験にまつわる心に秘めた想いがあるだろう。

今回は、この怪現象、人から借りたノートで勉強してもなぜ効果がないのかという点について「自己生成効果」というキーワードから深ぼってみたい。

自己生成効果とは

学習と記憶は密接に関連しています。

学習とは、新しい知識や技能の獲得を指し、記憶はその知識を保持す、そして必要な時にアクセスできることを意味します。

そして、効果的な学習は、情報を効率的に記憶するであり、良い記憶力というのは、学習した内容を長期にわたって保持するのに役立ちます。

つまり、効果的な学習をすれば、あとで思い出しやすくなると理解しておけばOKです。(記憶のencodingという深い話になってくるのでそこらへんは割愛します)

今回紹介する、効果的な学習法の一つである「自己生成」とは何ぞやということなんですけど、ざっくりとこんな感じです。

自分で情報を生成したり、加工したりすることによって、その情報をより効果的に記憶する現象」

古典的な研究では

Jacoby, L. L. (1978). On interpreting the effects of repetition: Solving a problem versus remembering a solution. Journal of Verbal Learning & Verbal Behavior, 17, 649-667.

Slamecka, N. J., & Graf, P. (1978). The generation effect: Delineation of a phenomenon. Journal of Experimental Psychology: Human Learning & Memory, 4, 592-604.

というものがあります。

まあ、難しいことを言わないで簡単に言えば、自分でノートを取る、要約を作成する、あるいは自分なりの言葉で説明するなどですね。

これ、冒頭のカンニングペーパー作成のことですよね。

つまり、自分でつくるってのがポイントです。

なぜ他人のノートで学んでも効果がないのか

さて、なぜ「人が作ったノート」で学んでも効果がないのでしょうか?

いろいろな理由があるのですが、自己生成効果の最大ポイント、「自分で」構築した知ではないからなのですね。

ただ、「自分で〜する」のが自己生成効果というのはわかるのですが、じゃ何すればその効果が最大化されるの?と言われてしまうと、困ってしまうのです。

というのも、自己生成効果についてのメタ分析によると、効果を左右するのはサンプルサイズだけでなく、さまざまな変数(モデレーター)が存在するようなんです。つまり、自己生成効果というのは<たしかに>存在するけど、「自分でやる過程」がいろいろあるってのがポイントです。

例えばノートをとるという流れでは、おそらく以下のようなポイントがあると思います。

主体的にノートやメモを取る

自分でノートを取ることは、聞いたり読んだりした内容をアクティブに処理する過程です。他人からもらったノートを使うとなると、このアクティブな処理がスキップされ、つまり、自分で学んだことになっていないので、結果として情報の深い理解と長期記憶への定着が低下すると考えられます。

ノートを自分色に染める

ノートとかメモは、その作成者の思考プロセスを色濃く反映しています。このため、ノートを見る他の人にとっては、情報が必ずしも意味をなさないんですね。ノートを自分で作ることによっては内容を自分の認知スタイルに合わせてパーソナライズすることができます。自分の既存の知識や経験と新しい情報を結びつけることも大切です。

ノートを作成した状況を考える

学びにおいて状況(文脈)が重要な要素だったりします。これはどういうことかということ、どのような状況で学んだか、ということです。自分でノートを取る過程では、情報がどのような文脈で提示されたか、またどのような議論が行われたかわかりますよね。他人からもらったノートでは、この文脈がしばしば失われ、「はて、このノートはどんな感じで作られたのか」となってしまします。

「人が作ったノート」で学んでも効果がないのは、つまるところ、学びの手垢感がなかったりするからなんですね。

個人的にはAIの時代になっても、この学びの手垢感ってのがポイントだと思っております。これについてはまた別の機会に。

まぁ、あとは直感的に当事者意識の欠如とか、モチベーションの問題とか色々絡んでくると思います。

自己生成効果を最大化する学習方法

では、一般的に自己生成効果を高める学習方法ってどんなのがあるのでしょうか?

たぶん、ほとんどの方の経験・体験からうすうす感じていると思うのですが、自分で考えようよ、という身も蓋も無い話に落ち着いてしまうと思うんですね。でも、それが正解だったりします。

学校とか企業の文脈では

自分の言葉での説明
リフレクション
要約と再構成
グループディスカッション

といったワークを取り入れることもできるでしょう。

つまるところ、ただ教科書や本を読んでないで、

自分で考えようよ、
自分で手を動かそうよ、
自分で体動かそうよ、

そう、みんな自己生成なんですね。

これら全てに共通しているところ、それが「主体性」。

学びはいつでも「自分」からはじまるんですね〜。


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