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今まで書いてきた曲目解説です ぼちぼち増やしたい
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ブーレーズ/《12のノタシオン》

ブーレーズ/《12のノタシオン》

ブーレーズ(1925-2016)はフランスを代表する作曲家で、指揮者、音楽教育者、音楽行政官としても活動していた。

この小品集が書かれた1945年は第二次世界大戦が終結し、音楽界にも大きな変化が起きた年だ。戦時中ナチスによって禁止されていた前衛的な音楽が解放され、各地で現代音楽の演奏会が積極的に開催されるようになった。

一般に現代音楽は難解とされるが、効果音や環境音のような響きは映画や魔法を"

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ブラームス/4つの小品 Op.119

ブラームス/4つの小品 Op.119

ブラームス(1833~1897)の最後のピアノ独奏作品で、彼はこの小品集を「自らの苦悩の子守歌」と呼び、生涯を静かに見つめたものとなっています。

第1曲:間奏曲 ロ短調

人の間でもがく苦しみを受け入れ、抗わず、孤独を引き受けた穏やかな境地が感じられる作品。集が心をつたうような柔らかな憂いに包まれています。彼は敬愛してやまなかったクララ・シューマンに「あなたがきっと喜んでくださると思い、あなたの

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ブラームス/6つの小品 Op.118

ブラームス/6つの小品 Op.118

ヨハネス・ブラームス(1833‐97)によって 60 歳頃に完成された作品。
創作活動の長年の支えとなった恩人のクララ・シューマンへ贈られている。

ブラームスが最も多く作品を残したのは歌曲だった。
この Op.118 には言葉こそないが、やはり様々な歌とドラマがある。

第1曲 間奏曲 イ短調

光のような明るい響きの中で、随所に影を落とす短調の響きがにがい。

第2曲 間奏曲 イ長調

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J.S.バッハ/トッカータ 嬰ヘ短調 BWV910

J.S.バッハ/トッカータ 嬰ヘ短調 BWV910

ワイマール宮廷オルガニスト/楽師長の職を退き、ケーテン宮廷楽長に就任した後の1717年の作品とされる。32歳のバッハは作曲活動も精力的に行ない、多くの曲を書き上げた。

深遠で哲学的な精神世界にあるこの曲は5つの部分で構成される。
愛いをおびた幻想的な導入。
穏やかな悲しみをたたえながら言葉を紡ぐ緩徐部。
エネルギーをもった下降のテーマに現実を突きつけられる第1フーガ。
束の間の夢を見る、救いの推

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エネスク/ピアノ組曲第1番〈古いスタイルで〉 ト短調 Op.3

エネスク/ピアノ組曲第1番〈古いスタイルで〉 ト短調 Op.3

エネスク(1881-1955)はルーマニアで生まれたヴァイオリニストで、その腕前は20世紀前半の三大ヴァイオリニストに数えられるほどであった。
第二次世界大戦によって祖国が共産圏の支配下 に入ったことでフランスに亡命し、その後戻ることはなかった。

《ピアノ組曲第1番》は弱冠16歳で書かれた最初のピアノ曲で、副題〈古いスタイルで〉のとおり、 バロック時代に栄えた組曲形式と音使いを特徴に持つ。

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ヤナーチェク/《1905年10月1日 街頭にて》(ピアノ・ソナタ)

ヤナーチェク/《1905年10月1日 街頭にて》(ピアノ・ソナタ)

ヤナーチェク(1854-1928)はチェコの作曲家。
自国の民族音楽や言葉の抑揚を研究し、語るような旋律語法を築いた。

彼はこの作品に次のような言葉を遺した。

ヤナーチェクの故郷チェコは、当時ドイツとの対立が高まっており、教育や一部の会話がドイツ語に制限されていた。
そのためチェコ語大学の設立を目指してデモが行なわれたのだが、1905年、 デモ隊はドイツ軍と衝突し、とうとう庶民の若者が命を落

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ラヴェル/《クープランの墓》

ラヴェル/《クープランの墓》

モーリス・ラヴェル(1875-1937)はフランスを代表する作曲家で、こちらは40歳頃の作品である。

ラヴェルの時代よりもおよそ200年前、作曲家 F. クープランはフランス鍵盤音楽の礎を築いた。
当時はいくつかの舞曲や小曲を組み合わせて一作品とする「組曲」の形式が栄えており、その古の形式を借りて書き上げられたのが、この『クープランの墓』である。

「墓」という言葉から想像できるように、こ

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フランク=バウアー編/前奏曲、フーガと変奏曲

フランク=バウアー編/前奏曲、フーガと変奏曲

セザール・フランク(1822-1890)はベルギーで生まれ、フランスで活躍した作曲家・オルガニストである。

この作品は『大オルガンのための6曲集』のうちの一曲で、40歳頃に完成した。
それまでの彼の作品は、当時流行した超絶技巧を取り込もうとしたものの、アイデンティティーに欠けると評され ることが多い。
しかしこの作品では、過度な装飾は取り払われ、その代わりにフランクの内的で深遠な世界が十分な魅

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メトネル/6つのおとぎ話 Op.51より 第3曲 イ長調

メトネル/6つのおとぎ話 Op.51より 第3曲 イ長調

メトネル(1880-1951)はロシアの作曲家・ピアニストである。
ラフマニノフと仲が良く、互いを高く評価し、尊敬し合っていた。

当時ロシアは革命によって社会主義国家となり、作曲家たちは次々に他国へ亡命した。
メトネルもその1人で、40歳過ぎにドイツに渡り、その後各地を経てイギリスで成功を収め、そのまま定住した。

余談ではあるが「ニコライ・メトネル」という星があり、これは2003年に彼にちな

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J.S.Bach/パルティータ第6番 ホ短調 BWV830より〈トッカータ〉

J.S.Bach/パルティータ第6番 ホ短調 BWV830より〈トッカータ〉

1725〜31年、J.S.バッハが46歳になる時までおよそ6年にわたって推敲を重ねながら書かれた。

パルティータとは変奏曲の一種であり、舞曲を中心にまとめられた組曲のことを指す。
その中で 各小曲は全て同じ調で書かれ、統一感が図られる。
バッハは鍵盤楽器のために6つのパルティータを書いた。それぞれキャラクターは異なるが、その全てに綿密な構成と展開が用意されており、非常に充実した内容を持つ。

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リムスキー=コルサコフ/ピアノ協奏曲 嬰ハ短調 Op.30

リムスキー=コルサコフ/ピアノ協奏曲 嬰ハ短調 Op.30

19世紀ロシアの情勢とコルサコフについて、そして演奏機会のほとんど無いこの曲について少しばかりお話します。
🔗藝大ミュージックアーカイブ に演奏の記録も残っていますので ご興味があればぜひご覧下さい👀

19世紀ロシア当時ロシア国内では社会不安や民衆の不満が次第に高まっていた。
西欧諸国に後れを取り、なおも続く専制政治と奴隷制度。学生や農民による様々な解放運動が起きても、それらはことごとく弾圧

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J.S.バッハ/トリオ・ソナタ第4番 BWV528 ホ短調

J.S.バッハ/トリオ・ソナタ第4番 BWV528 ホ短調

昨年、地元でのパイプオルガンでのオルガン講座に応募し、半年間レッスンを受けました。

大好きなバッハがイメージした響きやスケール感、音色などを耳と心で体感的に学びたかったのでとても良い経験となりました。

第2楽章

1730年、J.S.バッハ45歳の作品です。
この頃彼はドイツの市や教会で音楽に携わる重要な役職についており、教会音楽を中心に幅広い創作活動を行なっていました。

トリオ・ソナタは通

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プーランク/ナゼルの夜会

プーランク/ナゼルの夜会

性格小品集といえるでしょう。各曲の登場人物の特徴や言動に思いを巡らせるのがとても楽しい作品です。

前奏曲
カデンツ
変奏曲
1. 気品の極み
2. 手の上の心臓
3. 豪放と慎重
4. 思考の一貫性
5. 口車の魅力
6. 自己満足
7. 不幸の味
8. 老いの警報
カデンツ
フィナーレ

1930年に始まったスケッチから6年、37歳の時に完成した作品。
フランスのナゼルに住んでい

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スクリャービン/ワルツ Op.38 変イ長調

スクリャービン/ワルツ Op.38 変イ長調

近代ロシアの作曲家であるスクリャービンは、神秘主義(神秘を直接体験することで神や究極の真理、宇宙の本質などを把握しようとする考え方)に強い影響を受けた人物である。

この曲はロシア国内で社会主義が高揚しつつあった1903年、31歳の時に書かれた。
この年はモスクワ音楽院でのピアノ教授を辞職し作曲に専念することを決意した翌年であるため、非常に多作だ。
そして様々な思想をもつ詩人や批評家たちと交流を深

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