こまちゃん

国文学研究者です。和歌を含む王朝の文学作品を対象に、新しい解釈研究を展開しています。ア…

こまちゃん

国文学研究者です。和歌を含む王朝の文学作品を対象に、新しい解釈研究を展開しています。アイコンは山吹の花びら。中宮定子のメッセージを再現しました。墨で七文字、「いはておもふそ」と書いてあります。

記事一覧

海月には骨があるのか?〜奇跡の象徴〜

▶だからこそ、人が「見たい」と願うもの (今回の記事は、タイトルからしてすでにネタバレ。あらかじめ「謎解き」の、その「答え」を明かして進めます。)  さて「海…

こまちゃん
6か月前
8

どうして春は、「あけぼの」なのか?

▶「春はあけぼの」がいいと訳してはダメなわけ  清少納言は、決して春はあけぼの「がいい」とは言っていないのに、私たちは、ついつい「いい」と補ってしまいます(学…

こまちゃん
6か月前
11

陀羅尼は、暁。

▶なぜ、「暁」と「夕暮」なのか?  『枕草子』には、こんな短い章段があります。   陀羅尼は、暁。読経は、夕暮。  なんとなく、「そんなものか」と、つい読み過…

こまちゃん
7か月前
7

誰も知らない死出の旅路~定子の辞世歌~

▶誤解された定子の辞世歌  定子が残した複数の辞世歌のうち、これは今を生きるすべての人々、つまり「私たち」に宛てられた一首です。千年前、若き定子は、この世の生…

こまちゃん
7か月前
11

「今夜のこの世」は「今夜」です

▶この世を席巻している珍説  さて、言わずと知れた道長自讃歌。   この世をばわが世とぞ思ふ望月の 欠けたることもなしと思へば  そしてウィキペディアを参照す…

こまちゃん
7か月前
14

新刊情報『古代中世文学論考 第50集』(新典社 10月発売予定!)

古代中世文学論考 第50集 株式会社 新典社 (shintensha.co.jp) こちらからでも。 Amazon.co.jp: 古代中世文学論考 第50集 : 古代中世文学論考刊行会: 本 ・この秋に刊行…

こまちゃん
7か月前
10

パロディとしての歌物語~『伊勢物語』の作り方~

▶23段「筒井筒」の場合  高校古典の定番教材『伊勢物語』23段「筒井筒」に出てくる最初の歌です。   筒井つの井筒にかけしまろがたけ 過ぎにけらしな妹見ざるまに …

こまちゃん
7か月前
7

川をめぐる随想~『枕草子』の手法~

▶明日をも知らぬ、飛鳥川  「河」といって、清少納言が真っ先に挙げるのは「飛鳥川」の名。大和の国(奈良)の歌枕です。  河は 飛鳥川。淵瀬定めなく、はかなから…

こまちゃん
7か月前
7

その歌はなぜ「都鳥」を詠むのか?

▶都鳥に「言問ふ」理由  この秋の新しい論文で私が最初に取り上げるのは、あの有名な、在原業平の「都鳥」の歌。『伊勢物語』9段「東下り」のお話では、昔男が「隅田…

こまちゃん
8か月前
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定子の「傘」

▶新しい解釈  その名も〝定子の「傘」〟と題した私の論文では、従来、「お前の傘に隠れて、暁方、部屋から出て行った男は誰だ?」と問いただすものと考えられている「…

こまちゃん
8か月前
27

ご挨拶に代えて

 王朝文学研究者、こまちゃん(仮)です。この note では、私個人の研究情報を中心に、記事の投稿をしてまいります。 【著作権についての注意】  コンテンツまたは研究…

こまちゃん
8か月前
12
海月には骨があるのか?〜奇跡の象徴〜

海月には骨があるのか?〜奇跡の象徴〜


▶だからこそ、人が「見たい」と願うもの

(今回の記事は、タイトルからしてすでにネタバレ。あらかじめ「謎解き」の、その「答え」を明かして進めます。)

 さて「海月の骨」は、「あるはずのないもの」ではなく、だからこそ人が「見たい」と思う、《奇跡》の象徴。
 ところが、従来、これを用いた清少納言の機転はまったく理解されていません。「あるはずのない海月の骨だ」と言って、自らが仕える中宮定子の大切な弟

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どうして春は、「あけぼの」なのか?

どうして春は、「あけぼの」なのか?


▶「春はあけぼの」がいいと訳してはダメなわけ

 清少納言は、決して春はあけぼの「がいい」とは言っていないのに、私たちは、ついつい「いい」と補ってしまいます(学校では、文末に「をかし」が略されていると教わるはずです)。
 でもそれは、私たちが「あけぼの」よりも、「春」が大事と思っているからではないでしょうか。
 つまりはこれも、先入観です。

 「春は、あけぼの」という構文をそのまま解せば、
 

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陀羅尼は、暁。

陀羅尼は、暁。


▶なぜ、「暁」と「夕暮」なのか?

 『枕草子』には、こんな短い章段があります。

  陀羅尼は、暁。読経は、夕暮。

 なんとなく、「そんなものか」と、つい読み過ごしてしまいそうなほど、さりげない文章ですが、よく見ると、清少納言らしい機知(ウイット)が含まれていることに気づきます。
 もちろん、「陀羅尼は暁に唱えるべし」とか、「読経をするなら夕暮に限る」などと決まったものではありません。ですか

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誰も知らない死出の旅路~定子の辞世歌~

誰も知らない死出の旅路~定子の辞世歌~


▶誤解された定子の辞世歌

 定子が残した複数の辞世歌のうち、これは今を生きるすべての人々、つまり「私たち」に宛てられた一首です。千年前、若き定子は、この世の生者が誰も知らない「死出の旅路」に自らが向かう気持ちを詠みました。そうやって彼女は、人々の「生」とその「最期」の瞬間にまで、寄り添おうとしたのです。

  知る人もなき別れ路に今はとて 心細くも急ぎたつかな(藤原定子)

新全訳
(それがど

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「今夜のこの世」は「今夜」です

「今夜のこの世」は「今夜」です


▶この世を席巻している珍説

 さて、言わずと知れた道長自讃歌。

  この世をばわが世とぞ思ふ望月の 欠けたることもなしと思へば

 そしてウィキペディアを参照する際、リテラシーが必要であるのは言うまでもない。事実がそのまま書かれているとは限らないからである。道長自讃歌に付されたこの注記(注釈)は、ことさらひどい。

〈山本淳子は、従来のものとは異なる歌意解釈を提示している。この句は口頭で詠ん

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新刊情報『古代中世文学論考 第50集』(新典社 10月発売予定!)

新刊情報『古代中世文学論考 第50集』(新典社 10月発売予定!)

古代中世文学論考 第50集 株式会社 新典社 (shintensha.co.jp)

こちらからでも。
Amazon.co.jp: 古代中世文学論考 第50集 : 古代中世文学論考刊行会: 本

・この秋に刊行される、私の新しい論文思ふ人」話法》についてご紹介します。

♢拙論のタイトルと、内容の目次

[タイトル]
圷美奈子
「類型」としての「例の思ふ人」話法
~『枕草子』「関白殿の、黒戸より

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パロディとしての歌物語~『伊勢物語』の作り方~

パロディとしての歌物語~『伊勢物語』の作り方~


▶23段「筒井筒」の場合

 高校古典の定番教材『伊勢物語』23段「筒井筒」に出てくる最初の歌です。

  筒井つの井筒にかけしまろがたけ 過ぎにけらしな妹見ざるまに

 「作中歌」として用いられたこの古歌、実は、「井筒」のある、すなわち「井戸端」で遊んだことがあるから詠んだ歌ではありません。

 歌の中の「井筒(ゐつつ)」は、ずっとそのまま「居つつ」ある、《変わらぬ心》の象徴として、はじめてこ

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川をめぐる随想~『枕草子』の手法~

川をめぐる随想~『枕草子』の手法~


▶明日をも知らぬ、飛鳥川

 「河」といって、清少納言が真っ先に挙げるのは「飛鳥川」の名。大和の国(奈良)の歌枕です。

 河は 飛鳥川。淵瀬定めなく、はかなからむと、いとあはれなり。(『枕草子』「能因本」222段)

 飛鳥川の「淵」と「瀬」の定めがなく「変わりやすい」というのは、『古今和歌集』に入る次の歌に拠っています。

 世の中は何か常なるあすか川 昨日の淵ぞ今日は瀬になる(『古今和歌集

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その歌はなぜ「都鳥」を詠むのか?

その歌はなぜ「都鳥」を詠むのか?


▶都鳥に「言問ふ」理由

 この秋の新しい論文で私が最初に取り上げるのは、あの有名な、在原業平の「都鳥」の歌。『伊勢物語』9段「東下り」のお話では、昔男が「隅田川」のほとりで詠んだことになっていますね。
 だがしかし、これはまだ見ぬ「理想の恋人」すなわち「思ふ人」を、「人が多く集まる都」に探し求める詠歌であり、〈誰かを都に置いて来た〉という話ではない。皆さんが信じ込んでいるそれはただ、歌を用いた

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定子の「傘」

定子の「傘」


▶新しい解釈

 その名も〝定子の「傘」〟と題した私の論文では、従来、「お前の傘に隠れて、暁方、部屋から出て行った男は誰だ?」と問いただすものと考えられている「定子の文」の真意について、通説とは異なる、まったく新しい解釈を提示している。
 それは、定子が清少納言に差し出した、「私の傘を貸してあげましょうか?」という「助け舟」だったのである。当該の拙論は、ネット上でも公開されている。初出は、201

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ご挨拶に代えて

ご挨拶に代えて

 王朝文学研究者、こまちゃん(仮)です。この note では、私個人の研究情報を中心に、記事の投稿をしてまいります。

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