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被害者ヅラして「え?」みたいな表情を浮かべたけど、子供ながらに「なぜ、殴られたか」わかってたんだ。

 仕事だ仕事だと、「金」至上主義の父が嫌いだった。もう時効だと思うけど、色々、破茶滅茶な人だった。

 電気スタンドで、思いっきり頭を殴られて、蛍光灯がパンッて割れたとき、殺されるかと思った。ガラスが割れる音、アルゴンの漏れる音、いや、あれは破裂音そのもの。

 怒ると手が付けられなかった。

【 破 天 荒 な 父 の 話 】

 父が会社の友人を呼んで「てっちり」を振る舞ったことがあり、2階でどんちゃん騒ぎをしているとき、僕は、母親と2人、いつもと変わらない夕食を取っていた。

 父の友人が、1階にしかないトイレへ下りてきて、僕は「ボン」とか、そういう名前でないので呼ばれながら、小さな家の決して分かりにくくはない便所に、毎回、酒臭いおじさんらを案内した。

 そのたび、金を握らせてくれた。

 そもそも、その日、ずっと上機嫌で振る舞いを準備する父に、怒りとも嫉妬とも言えないような気持ちを募らせていた僕は、その腹いせに、トイレへの案内料を断りもせず、むしろ、媚を売り、積極的に受け取りまくった。

 そして、「チョロい」と思った。

 しばらくし、それに気付いた父は、友人たちの酔いが覚めるほど、幼い僕を殴り飛ばした。

 言葉の綾でも、誇張でもない。
 僕は、言葉通り、本当に吹っ飛んだ。

 正しいことをするのは難しい。

 少なくとも、人生はチョロくなんかない。

 父はそんなことをしでかした息子とその将来に、とんでもない不安を覚えたんだと思う。

 きれいな人間などいない。
 知らぬ間に、他者を傷付けて生きている。
 そんな兆候を見逃さなかった父。

 あのとき、被害者ヅラした僕は「え?」みたいな表情を浮かべたけど、子供ながらに「なぜ、殴られたか」––––実は、ちゃんと腑に落ちてたんだ。

 今も、僕に、せめて正義にトライする気持ちを与えてくれるのは、そんな破茶滅茶な父だ。

 暴力的で、恐怖の権化みたいな面を持つ父。いまだに父より怖いものはない。

 あとは、葬式のときに話すよ。でも、なるべく話したくないから、長生きしてくれ。あなたが、孫には、あんなに優しくなれるって知ったとき、いや、実は、ずっと優しかったこと、昔から分かってたよ

 仕事だ仕事だと、「金」至上主義の父が嫌いだった。もう時効だと思うけど、色々、破茶滅茶な人だった––––と、思ってた僕が違ってたんだ。

 父は、僕が真っ当に生きる上で、色々、筋を通してくれた人だった––––はずだ。

 また、飲もう。

 酒を飲める年になった。
 そんなことより、
 父を、そう思える年になったんだな。

 僕は、きっと「大人」になった。
 あんなに嫌いだったあの姿形に。

 ––––2015年2月15日


【 マ ガ ジ ン 】




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