マガジンのカバー画像

妻恋う鹿は笛に寄る(自作の詩と散文)

111
瀬戸内海に面する小都市で暮らし、働きながら詩や散文を詠んでいます。情景を言葉として、心で感じたことを情景にして描くことを心がけています。言葉の好きな方と交流できたらいいなと思って…
運営しているクリエイター

#詩

いつか終わりの来る短い命に託して

いつか終わりの来る短い命に託して

空に預けた悲しみは堪えきれなくなって、私の代わりに涙を流してくれた。誰かの歌声の響く街かどにいて、夢を物語にして昇華している。

いつか終わりの来る世界の短い命に託して、欲張りな私は詰め込み過ぎて、悲鳴をあげているのかもしれない。花から見て私には名前がないんだろう。静かに微笑んでくれる。

残酷で優しい世界の掟。幸せも不幸もどう感じるかは自分に託されている。どんなに打ちのめされても詩を詠み、世界に

もっとみる
解放

解放

何でもない風景に美を見出す君は

幸せそうに微笑む

季節の移ろいの中で美しくなる君は

他に代わりのない存在として溶け込む

いつか私たちは全てを手放し

次の世界へ旅立つ

いつか私たちは傷つく事から解放され

人の弱さを認められる

いつか私たちは希望を見出し

絡まった糸から美しい布を紡ぐ

ひと筋の気泡

ひと筋の気泡

深い沼からひと筋の気泡が立ち昇っていた。魚がいるのかな?こんな汚れた沼にでも魚は棲んでいるんだと木こりは横目で通り過ぎようとしたが、気泡からは何かメッセージ性のようなものを感じた。居ても立っても居られなくなって、異臭すら漂う沼に飛び込んで深く潜った。服やズボンや靴やら全て水分を含み邪魔だったが、木こりの持ち込んだ気泡と立ち昇ってくる気泡が混ざらないように、慎重に潜った。かなり深くて息絶え絶えになり

もっとみる
スミレ

スミレ

湖の底に倒木が沈んでいる。透明度が高い澄んだ水に晒されて、幾重にも折り重なり、あらかたの形を留めたまま、静かに眠っている。

それは得も言われない美しい湖で、畔に年中枯れない幻のすみれが咲いていると言う。

イオナの硬いほほ笑みの瞳の奥に、その湖がある。その湖と村の森の奥にある湖と同じであることを知っているものは、風来坊のシェルドのみである。

シェルドはイオナを深く愛し、笑顔にしていた。そして、

もっとみる
井の中の蛙

井の中の蛙

私は井の中の蛙です
大きな世界を知らない蛙です
私は大きな世界を知らないから
大きな世界を羽ばたく鳥たちから
馬鹿にされているかもしれません
でも井の中で慎ましく生きる事を
誇りに思っています

井の水が大好きで
よく知った仲間の蛙が大好きで
井の食べ物が大好きです
遠くにある美味なる食べ物や
美しい景色の中で暮らすことは
一時の幻のような快楽で
追い求めていくと何かを壊しそうな気がします

私は

もっとみる
薔薇色の人生

薔薇色の人生

行き場を失った言葉が転がっている
その一つひとつを拾い上げて
大切に磨いた
そして詩に詠んだ

自信を失い手垢に染まった人生を生きていた
その一つひとつの行いを省みて
大切に昇華した
そして静謐な物語の主人公である自覚を持った

バラ色の人生を描いてみた
そんなものどこにもありゃしない
それでも絵の具にまみれて
描いている私は生き生きとしていた

それでいい

ダイイングメッセージ

ダイイングメッセージ

目覚めると、古い影が貼り付いていた。付箋のようにペロリと簡単にはがれそうに弱々しい。メッセージが書き込まれ、簡単に諦めるな!簡単に手放すな!と殴り書きされていた。それは過去の自分のダイイングメッセージで、破壊神を心に抱えていた彼からの意志のこもった、願いの込められた頼みごとだった。

千年後の未来に

千年後の未来に

今、芽を出した木の若葉も

年を重ねて

千年後、まだ伸び続けている

巨木なのかもしれない

今、生きている私たちの60%を占める水も

年を重ねて

千年間、地球上を幾度となく巡りめぐって

どこかを流れているのかもしれない

空

空は自由だ
様々な姿を見せる
あなたももちろん自由だ
だから様々な姿を見せておくれ

空が空のための器なら
君は君のための器なのだから

星の落ちそうな夜も、青の空も、つむじ風も
そして嵐の朝も、三日月の夕も
あなたのそばで受け入れるから

すぐに感情的になってしまうのは

すぐに感情的になってしまうのは

すぐに感情的になってしまうのは

自分に自信がないから

繊細だから

本当は人が好きだから

過去に辛いことがあったから

普段は優しいから

投げ出してしまう弱さがあるから

それでも受け止めてくれる人がいてほしいから

現実を見つめることが怖いから

想いが強いから

不器用だから

すぐに感情的になってしまうけれど

感情と感情がぶつかることも本当は大切だから

弱い糸

弱い糸

何かしてもらった感じがしないように
そっと手を差し伸ばしたい

愛されていると感じられるように
何げない言葉に祈りを込めたい

怒りや悲しみや寂しさを憎まないように
弱い糸で繋がっていたい

湖

心の中に

濁った湖が横たわっている

澄んでいるといいのに・・・

いつもそう思う

真ん中まで舟で漕ぎ出すと

心もとない気持ちになる

底は浅そうだが

計り知れないものがある

風向きが刻々と変わっている

上空の方・・・

漣は月影を揺らす

しんと冷たい水

bird

bird

『好き』とか 『愛してる』とか
   理性で抑制された
       感情ではなくて     

あなたをほしいという
   理性を飛び越えた
      動物的な欲求に近いように感じた

言葉よりも饒舌に
   肌と肌が語り合う
      抱擁を求めて
  
空を見つけた鳥が
   自然に羽ばたき
      空に向かうように
            
一目見たときからあなたを
   代わりの

もっとみる
あやめ

あやめ

裏面にあやめの花の写真が印刷されたハガキが届きました。宛て名には私の名前が折り目正しく書かれてあり、空欄には言葉がひと言もありません。私はその癖のある文字を見て、誰から届いたハガキなのかすぐに分かりました。友達以上恋人未満の異性の友達からのものでした。あぶり出しかなと思い、火であぶってみても何も浮かび上がってきませんでした。私は花の好きな彼女だから、あやめにまつわる花言葉に秘密があるのではないかと

もっとみる