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ひと筋の気泡

深い沼からひと筋の気泡が立ち昇っていた。魚がいるのかな?こんな汚れた沼にでも魚は棲んでいるんだと木こりは横目で通り過ぎようとしたが、気泡からは何かメッセージ性のようなものを感じた。居ても立っても居られなくなって、異臭すら漂う沼に飛び込んで深く潜った。服やズボンや靴やら全て水分を含み邪魔だったが、木こりの持ち込んだ気泡と立ち昇ってくる気泡が混ざらないように、慎重に潜った。かなり深くて息絶え絶えになりながら、底に着いた。ロープでぐるぐるに巻かれて、人の形をした重たそうな汚れた物体から気泡が出ていた。木こりは担ぎ上げて、汚れた水を飲みながら浮かび上がって、岸まで運んだ。

ナイフで腐りかけたロープを切っていくと、中から悲しみと寂しさをまとった顔のお姫様が出てきた。意識を失っていて、どこの国のお姫様か分からなかったが、私の住処に連れて帰って、丁重に身体を拭き、介抱して寝かせて、食事を作り、口元まで運んだ。ほとんど喋ることができないほどショックを受けていたし、悲痛な顔でしたが、まるまる三年ほどお世話していくうちに、笑顔になり、柔和な顔になって行った。あなたに見つけてもらえて良かった。そう話して、心を寄せてくれた。

三年過ぎしばらくして話を聞きつけて、娘を取り戻しに来た父でもある王様は何度もお礼を言って、お姫様を引き取って行った。お礼の品は受け取らなかった。噂に聞いたことには、美男子で誰からも慕われている隣国の若き王に妃として嫁いだが、幸せにはしてもらえなかったそうな。挙げ句の果てに、沼に沈められたところで、絶命寸前のところを助けたのが、木こりだった。木こりは炭を焼いたり、その日暮らしの貧しい生活でしたが、心は豊かで炭で絵を描いたり、詩を詠んだり過ごしていた。

年齢を重ねて、耳寄りのない故に一人で死んだが、お姫様は木こりを丁重に葬り、何度生まれ変わっても、連れ添い、仲良く暮らせる一生を過ごしているそうだ。


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