大黒

知的に生きたい新社会人です。本が好きです。

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最近の記事

とにかく刺さる一冊。小林秀雄『読書について』

小林秀雄『読書について』中央公論新社、2013年。(1430円) 小林秀雄の読書法 「僕は、高等学校時代、妙な読書法を実行していた。学校の往き還りに、電車の中で読む本、教室で窃に読む本、家で読む本、という具合に区別して、いつも数種の本を平行して読み進んでいる様にあんばいしていた(9頁)  本屋で最初の3行を読んだ時、ああこれは自分がやっている読み方ではないか、と驚きました。とはいえ自分で発明したわけではなく、成毛眞さんの『本は10冊同時に読め』に影響を受けたものですが、そ

    • バッタまみれ昆虫学者の愉快な日常『孤独なバッタが群れる時』

      前野ウルド浩太郎『孤独なバッタが群れるとき』、光文社、2022年 バッタ研究って何するの?この本は、これでもかとバッタが出てきます。虫が苦手な方は閲覧注意です。 バッタの研究は過酷です。バッタを調べるにはまず生きたバッタを大量に飼わなければなりません。また著者の研究の主軸となる相転移について調べるために、さまざまな条件付けをしながら飼育・研究しているのです。  相転移について軽く説明すると、バッタには孤独相と群生相という二つの状態があります。同じ個体がどちらにもなります。

      • 地方創生はナンセンス?『寡欲都市TOKYO』

        原田曜平『寡欲都市TOKYO』、KADOKAWA 、2022年 この本の主張 1 人口減少はヤバい。 2 東京は住みやすい(特に若者にとって)。 3 PRを上手くやれば、若い移民を増やして発展できる。 東京しか生き残れない!日本は人口減に苦しんでいます。 しかし東京圏だけはコロナ禍にあっても人口を増やし続けました。著者は政治家の増田寛也氏の言葉を引用し、人口減のまま地方を壊滅させながら「美しい縮小」の道を取るか、移民を増やすか人口を維持するかの2択しかないのだと言います

        • これは官能本か、いや哲学書か?『娼婦の本棚』

          鈴木涼美『娼婦の本棚』中央公論新社、2022年。 見た目に騙されるな ドギツいピンクの表紙に、刺激的な言葉が並ぶ表紙ですが、この本はそれだけではありません。著者は「痺れる一文が1行でもあれば、(中略)私はその本を読んだ甲斐があったと感じます(14頁)」と言いますが、私はこの本の10ページに一つくらいは痺れるような言葉に出会うことができました。 著者は夜の世界で活躍しながらも、東大で修士まで行った教養人であり、「汚れた」世界で感じたものを、鋭く知性溢れる言葉で語ってくれるの

        とにかく刺さる一冊。小林秀雄『読書について』

        • バッタまみれ昆虫学者の愉快な日常『孤独なバッタが群れる時』

        • 地方創生はナンセンス?『寡欲都市TOKYO』

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          危険で意外な3人の鼎談『脳・戦争・ナショナリズム』

          中野剛志、中野信子・適菜収『脳・戦争・ナショナリズム』、文藝春秋、2016年。 1.鼎談の妙この本はたまたまAmazonを探索中に見つけました。この3人が鼎談(3人で話すこと)だと!と即買いすることになりました。私は3人とも何冊か本を読んだりメディアに出ているのを見たりして知っていたので、まず組み合わせに驚いたのです。 中野剛志さんは東大出で現役経産官僚、マクロ経済から儒学などの古典も語れるエリート系保守論客。適菜収さんは「B層シリーズ」など、鋭い眼で人をバカにする作風の

          危険で意外な3人の鼎談『脳・戦争・ナショナリズム』

          立ちはだかる現実を直視せよ!『言ってはいけない』橘玲シリーズ第1弾

          橘玲『言ってはいけない』、新潮社、2016年 橘玲と私私は橘玲さんの本を10冊は読んでます。ですが一概に好きとも言い切れず、尊敬するところもあれば、間違ってると思うこともあり、時にはなんてもの読ませるんだこの野郎と思ったりします。それは思想的に異なる立場であるし、結論が基本的に暗いからです。 しかし彼の文章には読まねばならないと思わせる魅力があります。到底一回では終わらないので、第1弾としました。 最初に断っておくが、これは不愉快な本だ。だから、気分よく1日を終わりたいひ

          立ちはだかる現実を直視せよ!『言ってはいけない』橘玲シリーズ第1弾

          日本美術が一気に分かる!「日本美術の底力」

          山下裕二『日本美術の底力』NHK出版、2020年。(1200円+税) 日本美術の見方を知る 私は西洋美術はかなり好きで本もたくさん読んでいるのですが、日本美術はどうしても眠くなるというか、ピンとこないなあという印象でした。 正直パッと出てくる日本絵画といえば、北斎の富士山のやつ(富嶽三十六景 神奈川沖浪裏)というくらいの知識でした。しかしこの本を読んで、一つの対立軸を持つことで格段に理解できるようになりました。 それは「縄文」と「弥生」です。 縄文的な美は「動的」「有機的

          日本美術が一気に分かる!「日本美術の底力」

          戦争が起きている今こそ読むべき本『戦争にチャンスを与えよ』

          エドワード・ルトワック『戦争にチャンスを与えよ』、奥山真司訳、文藝春秋、2017年。 今1番「アブナイ」本皆さんご存知の通り、2022年3月4日現在、ウクライナとロシアとの間で「戦争」が起こっています。20代前半の私にとって、今回初めて戦争というものをリアルに体感する出来事となっています。そんな時、数年前に買って衝撃を受け、以後何度も読み返してきたこの本をまた読み直したくなりました。 この本の構成は第1章にまとめ、2章に論文、3章から10章まではもう一人の作者、訳者の奥山

          戦争が起きている今こそ読むべき本『戦争にチャンスを与えよ』

          意外と読むのが難しい『京大というジャングルでゴリラ学者が考えたこと』

          山極寿一『京大というジャングルでゴリラ学者が考えたこと』、朝日新聞出版、2021年。 著者について山極寿一さんは前京都大学総長でゴリラが専門の学者です。私は他にも何冊か読んだことがありますが、専門がゴリラということもあり、語り口は柔らかくて読みやすいです。 この本では山極さんらしいユーモアのある部分と、割と堅めに大学制度の説明をされている部分があります。特に第2・第3章は少し小難しいので読み飛ばしてもいいと思います。逆に政治や経済に強い方は、こちらの方が面白いかもしれません

          意外と読むのが難しい『京大というジャングルでゴリラ学者が考えたこと』

          空き時間に闇の世界へ『人怖』

          村田らむ『人怖』、竹書房、2021年。(1500円+税) 余談 私の読書スタイルは、乱読かつ併読です。1日に大体3冊は手に取ります。このスタイルに至ったきっかけになった本の成毛眞著、『本は10冊同時に読め』も機会があれば紹介しようと思います。 私は本をシチュエーションごとに大きく3種類に分けます。 1.喫茶店などでじっくり読む。 2.家で読む。 3.電車など移動中に読む。 という感じです。 今回取り上げた本は、3の電車内で読む本です。3はとにかく読みやすくて、多少の雑音

          空き時間に闇の世界へ『人怖』

          リアル・ゴールデンカムイ『クマにあったらどうするか』

          姉崎等、片山竜峰『クマにあったらどうするか』、筑摩書房、2014年。 ※原著は2002年、木楽社。 自然の知恵この本は片山さんというアイヌ方々の話を本にする仕事をしている人が、アイヌの猟師である姉崎さんに話を聞いたという構図になっています。 姉崎さんは当時から「幻の人」と言われていました。アイヌの伝統的なクマ猟を本職とする最後の人物です。彼のクマについての知識は学者も頼りにするものでした。 姉崎さんはクマを追いながら山を知り、道を覚えました。そして姉崎さんの歩く道は、他

          リアル・ゴールデンカムイ『クマにあったらどうするか』

          ピリリと辛い、薬味風名作解説『挑発する少女小説』

          斎藤美奈子『挑発する少女小説』、河出書房、2021年。(860円+税) 個人的オススメ度⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ ①少女小説って何?少女小説は、元々少女の教育のために作られた児童文学の一種です。つまりは良妻賢母を育てるために大人が読ませる本です。しかし子供にとっても面白くなければ、読み継がれることはない。この本で取り上げられている作品は生き残った作品なのです。 著者はそれらの特徴を4つ挙げます。 1つは「おてんば」な少女が主人公であること。 2つ目は「みなしご」であること。 3

          ピリリと辛い、薬味風名作解説『挑発する少女小説』

          昨年1番役に立った本『ディズニーランドの秘密』

          有馬哲夫『ディズニーランドの秘密』、新潮社、2011年。(700円+税) 個人的オススメ度⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 星の目安 1.買って損した。 2.読んでも良かったけど内容があまり…。 3.面白かった。読む価値はある。 4.読むべし。 5.人生変わる。読まないと損。 ①この本を読んだ理由 読書が趣味と言っている人間が、ディズニー好きなはずがありません!(偏見) 私の職場にはディズニー好きの人が多く、特に某ウイルスが落ち着いた頃からよく誘われるようになりました。しかし私は全く

          昨年1番役に立った本『ディズニーランドの秘密』

          要注意作品『ルポ コロナ禍で追い詰められる女性たち』

          『ルポ コロナ禍で追い詰められる女性たち』飯島裕子、光文社、2021年。(800円+税) 個人的オススメ度⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 星の目安 1.買って損した。 2.読んでも良かったけど内容があまり…。 3.面白かった。読む価値はある。 4.読むべし。 5.人生変わる。読まないと損。 ①内容 「貧困は問題だ」と思っている人は多いでしょうし、「シングルマザーは大変だ」ということを知らない人の方が少ないでしょう。 しかし、どのように追い詰められ、苦しんでいるのか、その実態を知る人は

          要注意作品『ルポ コロナ禍で追い詰められる女性たち』

          新書紹介『どろどろの聖書』

          『どろどろの聖書』清涼院流水、朝日新聞出版、2021年。(定価790+税) 個人的オススメ度⭐︎⭐︎⭐︎ 星の目安 1.買って損した。 2.勉強にはなったが面白くはなかった。 3.面白かった。読む価値はある。 4.きっと面白いので読むべし。 5.人生変わる。読まないと損。 ①どんな本? この本は『旧約聖書』と『新約聖書』を愛憎劇という視点で書いたものです。著者の清涼院流水氏はキリスト教徒で、それも大人になってから洗礼を受けたパターンです。そのため非キリスト教徒への理解が

          新書紹介『どろどろの聖書』

          外山滋比古『異本論』の感想

          外山さんの本は何冊か読んでいるのですが、文章は平易で読みやすく、内容も凝縮されているので書き手として本当に素晴らしいなと思っています。 しかも文庫はとても安い!(580+税) さて内容は、仮にも大学の文学部で研究をしていた私にとっては耳が痛いというか、よくぞ言ってくれたというものでした。 ごく軽い気持ちで読んだ本が思いがけなくおもしろい。こんなにおもしろいのなら、すこし本格的に調べてみようか、論文でも書いてみるか、と考える。ところが、そういうふうに構えると、とたんに、そ

          外山滋比古『異本論』の感想