意外と読むのが難しい『京大というジャングルでゴリラ学者が考えたこと』

山極寿一『京大というジャングルでゴリラ学者が考えたこと』、朝日新聞出版、2021年。

著者について

山極寿一さんは前京都大学総長でゴリラが専門の学者です。私は他にも何冊か読んだことがありますが、専門がゴリラということもあり、語り口は柔らかくて読みやすいです。
この本では山極さんらしいユーモアのある部分と、割と堅めに大学制度の説明をされている部分があります。特に第2・第3章は少し小難しいので読み飛ばしてもいいと思います。逆に政治や経済に強い方は、こちらの方が面白いかもしれません。

総長になる気などなかった山極さん

京都大学の総長選出制度は細かいので省略しますが、山極さんは全くなる気がないのに最終選考に近い6名に選ばれてしまいました。辞退しようと思っていたのですが、周りの人に推されて渋々、受かるはずがないだろうと思いながら選考のための抱負などを書いたりしていました。

そのうちに「山極を総長にするな」という趣旨のビラが回り始めたそうです。反対派かと思いきや、なんと山極研究室の学生を中心に、先生の教育者としての活動ができなることを憂いたものでした。しかし結果的に話は進み、総長に就任することになってしまいました。

なってしまったら仕方がないので、総長として頑張ることにしました。東大の濱田総長と話して、FOREST(森)構想の話を聞いた時は、ジャングルがホームのゴリラ学者として「やられた」と思ったそうです。そして苦心した挙句、WINDOW構想というものを考えたそうです。

大学を取り巻く問題点

まず問題の根源にあるのは、社会における大学の役割の変化です。最初は人口の1%ほどのエリートを育てる学校であった大学は、次第に誰もが進む場所となり、国はそれを支えきれないと考えるようになりました。大学は自由の名の下に国から切り離され、補助金を得るために膨大な雑務を教員がやらなければならなくなったのです。

大学を国家財政から切り離す動きは世界的に起こっていて、世界大学ランキングは主にイギリスが世界中から学生を集めるためのものだったといいます。英大学は英国民やEU諸国の学生の学費は安くする(留学生増でランキングの評価は上がる)けれども、アジアなどにはそれを適用されず、がっぽり儲かるというわけです。日本はそんな仕組みを理解せずにランキングを上げるために改革だー、と始めてしまったのです。この本はどちらかというとエッセイなので、これの解決へのすっきりした結論は導かれていません。

この本の読み方

この本は7章に分かれていますが、7冊の本を読んでいるような気になりました。それくらい各章で雰囲気や内容が違います。目次を見て読みたいところだけを読むのもよし、山極さんの持つ複合的な視点を体感するのもよしです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?