とにかく刺さる一冊。小林秀雄『読書について』

小林秀雄『読書について』中央公論新社、2013年。(1430円)

小林秀雄の読書法
「僕は、高等学校時代、妙な読書法を実行していた。学校の往き還りに、電車の中で読む本、教室で窃に読む本、家で読む本、という具合に区別して、いつも数種の本を平行して読み進んでいる様にあんばいしていた(9頁)

 本屋で最初の3行を読んだ時、ああこれは自分がやっている読み方ではないか、と驚きました。とはいえ自分で発明したわけではなく、成毛眞さんの『本は10冊同時に読め』に影響を受けたものですが、それで数年読み続けているため、間違っていなかったんだと思いました。その場で、この本は買いだな、と決めてしまいました。
 小林秀雄のことは以前から知っていましたが、ちゃんと本人の文章を読んだことはなかったので、いい機会だと思いました。
 そしていざ読んでみると非常に読みやすかったのです。小林秀雄というと難解なイメージがあったのですが、この文集には初心者向けの作品が集められていたのでしょう。
 そこで私も、書くならちゃんと書かねばならないと思って避けてきた巨匠の作品を、思い切って紹介してみようと思います。

小林秀雄のアドバイス
この本には沢山の刺さるアドバイスが書かれています。『作家志願者への助言』では、助言をどう受け取るべきかという視点を示しています。実は良い助言は平凡なものなのだと言います。助言は実行しなければ本当の価値がわからないものです。小林は、「ことごとく実行とは平凡なものだ。平凡こそ実行の持つ最大の性格なのだ。だからこそ名助言はすべて平凡に見えるのだ」と、これでもかと平凡さを強調しています。
そして一言。
「なぜこんなことをくどくど書くかというと、それは諸君が自ら反省し給え。諸君がどれほど沢山な自ら実行したことのない助言を既に知っているかを反省し給え。聞くだけ読むだけで実行しないから、諸君は既に平凡な助言には飽き飽きしているのではないか。だからこそ何か新しい気の利いたやつが聞き度くて貯まらないのじゃないか(27.28頁)」
これには耳が痛い人が多いのではないでしょうか。
私も学生時代、平凡な助言に助けられたことがあります。大学受験生の頃、点数の上がらない英語に苦しんでいました。そしてさまざまな参考書や動画、本などを読んだ挙句、覚悟を決めて、丸1ヶ月ほど気が狂うほど音読を繰り返しました。音読という、英語の教師ならほとんどの人がいう平凡な助言を、全力で実行したのです。そうすると点数がみるみる跳ね上がり、志望校に合格できました。ふとそんなことを思い出し、やはり小林は正しいと思いました。

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