ピリリと辛い、薬味風名作解説『挑発する少女小説』

斎藤美奈子『挑発する少女小説』、河出書房、2021年。(860円+税)

個人的オススメ度⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

①少女小説って何?

少女小説は、元々少女の教育のために作られた児童文学の一種です。つまりは良妻賢母を育てるために大人が読ませる本です。しかし子供にとっても面白くなければ、読み継がれることはない。この本で取り上げられている作品は生き残った作品なのです。

著者はそれらの特徴を4つ挙げます。
1つは「おてんば」な少女が主人公であること。
2つ目は「みなしご」であること。
3つ目は「友情」>「恋愛」であること。
4つ目は「少女期からの卒業」が描かれること。

これらに共通するのは「自立」という根本テーマでしょう。少女小説は、少女たちの自立を促すものとして機能しているのかもしれません。また本書で扱われる作品の全てが、女性作家の手によるものというのも注目でしょう。

②作品紹介

この本では9作品が紹介されています。
挙げてみると、

1.小公女
2.若草物語
3.ハイジ
4.赤毛のアン
5.あしながおじさん
6.秘密の花園
7.大草原の小さな家
8.ふたりのロッテ
9長くつ下のピッピ

です。
私は3はなんとなくストーリーを知っている程度で、4.5.9は名前だけ、あとは聞いたことがありませんでした。皆さんはどうですか?

この作品紹介が本書のメインですが、非常に面白い。ストーリーの掴み方が上手いので、作品を知らなくても引き込まれます。

『小公女』は、超セレブな小学校低学年の女の子が、親を亡くしてドン底に落ちるも、自力でセレブに返り咲くお話。
『二人のロッテ』は、両親の離婚で引き裂かれていた双子が偶然出会い、入れ替わりをして父の再婚の阻止(若い愛人との女の戦い)と両親の復縁というミッションをするお話。

肩肘を張らずに、名作をざっくりと知ることができます。同時に時代背景や文学史なども知ることができるので、良い勉強になります。

③イデオロギーは薬味として味わってみる

著者の斎藤美奈子さんはフェミニストとしても有名です。私は個人的にフェミニズムは好きではありません。ですが少なくともこの本において、嫌な印象は受けませんでした。むしろ集中力を持続させる効果があるのではと思ったほどです。

『小公女』の解説中に出てくる、「おとぎ話の王子ってものは、親の威光で食ってるくせに女を容姿で判断するような男ばかりです(32ページ)」など、なかなか刺激的でクスリとくるものがあります。

どんな本も著者の政治的立場などは滲み出るものですし、勉強している人であれば感じてしまうものです。しかしそれを一切避けてしまうと読む本が限られてしまい、出会えたはずの知的刺激を受けることが出来なくなってしまいます。

この本はフェミニストの著者だからこそ、そしてそれを隠さないからこそ書けるものであり、魅力的なのです。

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