田中美佳子

シリコンバレー在住。夫一人、子ども二人、猫二匹。下の子の中学進学を機に翻訳を再開します…

田中美佳子

シリコンバレー在住。夫一人、子ども二人、猫二匹。下の子の中学進学を機に翻訳を再開します。 主な出版作: 秘密と嘘と民主主義(チョムスキー)、 現代世界で起こったことーノーム・チョムスキーとの対話、 ジェーン・グドールの健やかな食卓(共訳)

マガジン

  • チョムスキーとの対話

    2008年に行ったノーム・チョムスキーのインタビューのレポート

  • ソジャーナ・トゥルース

    19世紀末にNY州で生まれた奴隷解放運動家の伝記。天啓を受け「旅する真実の子」と名乗ったアメリカのジャンヌ・ダルク、ソジャーナ。

  • 緋色病

    ジャック・ロンドンが1912年に書いたポスト・アポカリプス小説。翻訳者の住むサンフランシスコ・ベイエリアが舞台です。

記事一覧

チョムスキーとの対話 19インタビューを終えて

 今回の機会で一番印象深かったのは、チョムスキーは私と話をするつもりだったのに対し、私はチョムスキーにインタビューをする用意をしていたという、二人の心構えの違い…

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チョムスキーとの対話 18手紙と訃報

2008年4月下旬-キャロルさんからの手紙  インタビューの翌日、チョムスキーからお礼のメールがあった。キャロルさんは喜んで、日中ずっと座っているダイニングのテ…

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チョムスキーとの対話 17バラと水仙

 ICレコーダをオンにして48分たったところで、ベブさんが部屋に入ってきた。「お話中申し訳ありませんが、もうお時間です」。面会時間は一人45分ということにしてお…

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チョムスキーとの対話 16インタビュー全文

C:チョムスキー、T:著者 T:それでは、これから45分お話をさせていただきます。 C:はい。翻訳に関してですが、なにか問題はありませんでしたか? T:脚注に出ていた…

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チョムスキーとの対話 15MITのオフィス

 いよいよアポイントメントの15分前。入館にはバッジかなにかがいるのかと思ったら、受付はなくてノーチェックだった。指定された階にエレベーターで向かう。エレベータ…

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チョムスキーとの対話 14インタビュー当日

 当日前夜まで原稿を作っていて、翌朝プリントアウトしようとしたらなんとプリンターの調子がおかしくて印刷できない。四苦八苦しているところに子守役の夫が仕事から返っ…

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チョムスキーとの対話 13インタビューの準備

2008年4月上旬 一ヶ月半も期日が延びてゆっくり準備を整えられると思いきや、仕事が忙しくなって直前までキリキリ舞いをする羽目に。結局学生時代の試験勉強と同じく…

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チョムスキーとの対話 12リスケジュール

2008年2月 予定日の直前になっても何も連絡がないので、2月27日にベブさんに確認のメールを入れてみた。すると「先生が喉頭炎にかかってしまったので、できれば3…

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チョムスキーとの対話 10ベブさんとのメール

2007年11月-2008年1月  すぐにベブさんにメールすると、11月8日に返信があった。「予定が詰まっているので、できれば1月か2月にしてほしい」。翻訳をで…

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チョムスキーとの対話 11レジストとの連絡

2007年10月下旬  数日待ったが、レジストからはその後支払いについて何も言ってこない。心配になって事務所に電話してみると、クレジットカードか小切手で支払うよ…

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チョムスキーとの対話 10戦いすんで夜は更けて

 会場を出るときに、ビュッフェの食事がまだ残っているのが目に止まった。そういえば夫の食事もろくに用意しないまま家を飛び出してきたんだっけ。残りものは捨てられるか…

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チョムスキーとの対話 9いよいよオークション

 講演の次は自由行動。壇上にスクリーンが張ってあって、レジストの40年の歴史を振り返るスライドが上映される。ケンブリッジを拠点にするというニューオリンズ風のブラ…

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チョムスキーとの対話 8チョムスキーの講演

(録音した音声をもとに書き起こしたもの)  こんにち、「権力に立ち向かう」という考えは十分に実行可能なものです。また、そうすることは理にかなったことでもあります…

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チョムスキーとの対話 7講演

 食事のあとはゲストスピーカーによる講演だ。パンフレットによると、講演者の顔ぶれは次のとおり。 マンディ・カーター:黒人のレズピアン活動家。クエーカー系の「アメ…

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チョムスキーとの対話 6腹ごしらえ

 ビュッフェ形式のケータリングが来ていて、会場の隅にはおいしそうなご馳走が並んでいる。会費が75ドルともなれば食事もそれ相当のものも用意するようだ。大勢集まって…

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チョムスキーとの対話 5チョムスキーと会う値段

 パーティの式次第は、ビュッフェ形式の食事に続いてゲストスピーカーによる講演。講演の前にサイレントオークションとはなんだろうかと思って見に行くと、ホールの外の廊…

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チョムスキーとの対話 19インタビューを終えて

チョムスキーとの対話 19インタビューを終えて

 今回の機会で一番印象深かったのは、チョムスキーは私と話をするつもりだったのに対し、私はチョムスキーにインタビューをする用意をしていたという、二人の心構えの違いだった。

 思えばオークションのタイトルが「チョムスキーと政治か言語学について話す」だったのでチョムスキーのほうが正しいのだが、私はこちらから質問をすることだけに専念していて、すっかり聞き手にまわってしまった。というのも、私からチョムスキ

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チョムスキーとの対話 18手紙と訃報

チョムスキーとの対話 18手紙と訃報

2008年4月下旬-キャロルさんからの手紙

 インタビューの翌日、チョムスキーからお礼のメールがあった。キャロルさんは喜んで、日中ずっと座っているダイニングのテーブルに花を飾っているとのこと。迷惑でなかったようなのでほっとした。さらにベブさんから、キャロルさんが礼状を送りたいと言っているので住所を教えて欲しいという問い合わせがあった。病人にそんな負担をかけるわけにはいかないと一度は断ったが、キャ

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チョムスキーとの対話 17バラと水仙

チョムスキーとの対話 17バラと水仙

 ICレコーダをオンにして48分たったところで、ベブさんが部屋に入ってきた。「お話中申し訳ありませんが、もうお時間です」。面会時間は一人45分ということにしておいて実質50分、その間の10分でチョムスキーは自分の用事をすませるという流れなのだろう。ちょうどリストしてきた質問を聞き終わったところで、私のほうとしてもきりがいい。最後にお礼を言って、Understanding Power を初めて読んだ

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チョムスキーとの対話 16インタビュー全文

チョムスキーとの対話 16インタビュー全文

C:チョムスキー、T:著者

T:それでは、これから45分お話をさせていただきます。
C:はい。翻訳に関してですが、なにか問題はありませんでしたか?
T:脚注に出ていた資料が見つからなくて苦労したことがありました。*1
C:あのウェブサイトはとても良くできていたようですが・・・。
T:はい。でも一つ、コーネル大学にしかないと思われる資料がありました。小さい子供がいるものですから、コーネルまで行くこ

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チョムスキーとの対話 15MITのオフィス

チョムスキーとの対話 15MITのオフィス

 いよいよアポイントメントの15分前。入館にはバッジかなにかがいるのかと思ったら、受付はなくてノーチェックだった。指定された階にエレベーターで向かう。エレベーターを出たところにあるホールは、外観に負けず劣らず都会的なデザインで明るい。真ん中のテーブルには、大胆な色使いの花が生けられている。さて、ここからどうしたものか。人気がないのでロビー奥の廊下をふらふらしていると、東欧系とおぼしききれいなお姉さ

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チョムスキーとの対話 14インタビュー当日

チョムスキーとの対話 14インタビュー当日

 当日前夜まで原稿を作っていて、翌朝プリントアウトしようとしたらなんとプリンターの調子がおかしくて印刷できない。四苦八苦しているところに子守役の夫が仕事から返ってきて、あちこちいじったあげくになんとか印刷してくれた。よりによってなんでまたこんなときに壊れるかなとうらめしく思うが、準備に余裕を持っていなかった私が悪いのだ。刷り上った原稿を見直す暇もなく、あわてて家を飛び出した。

 地下鉄のMITの

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チョムスキーとの対話 13インタビューの準備

チョムスキーとの対話 13インタビューの準備

2008年4月上旬

一ヶ月半も期日が延びてゆっくり準備を整えられると思いきや、仕事が忙しくなって直前までキリキリ舞いをする羽目に。結局学生時代の試験勉強と同じく、当日の3日ほど前からあわてて準備にとりかかった。

『現代社会で起こったこと』の編集担当者にインタビューすると伝えると、表紙に載せるための顔写真を撮影することと、いくつかの質問をすることを依頼された。インタビューの内容は私個人のウェブサ

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チョムスキーとの対話 12リスケジュール

チョムスキーとの対話 12リスケジュール

2008年2月

予定日の直前になっても何も連絡がないので、2月27日にベブさんに確認のメールを入れてみた。すると「先生が喉頭炎にかかってしまったので、できれば3月に延期してほしい」。うわあ、大変だ。すぐに「私のほうは3月でもかまいませんから、ゆっくり休んでもらってください」と返信。

びっしり予定が入っているところで病気になったら、調整がとても大変に違いない。私は近くに住んでいるし会えるのならい

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チョムスキーとの対話 10ベブさんとのメール

チョムスキーとの対話 10ベブさんとのメール

2007年11月-2008年1月

 すぐにベブさんにメールすると、11月8日に返信があった。「予定が詰まっているので、できれば1月か2月にしてほしい」。翻訳をできるだけ先に進めておきたいのと、準備に時間がとれたほうがいいと思い、2月希望と返事をした。すると、年明けにまたメールをするようにとのことだった。よっぽど忙しくて時間を取るのが難しいのだろう。

 次に連絡をしたのが1月3日。今度はいよいよ

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チョムスキーとの対話 11レジストとの連絡

チョムスキーとの対話 11レジストとの連絡

2007年10月下旬

 数日待ったが、レジストからはその後支払いについて何も言ってこない。心配になって事務所に電話してみると、クレジットカードか小切手で支払うようにと言われた。私の名前と入札金額で話が通じたので、落札できたことは間違いないらしい。カード会社の手数料でせっかくの寄付金が目減りするのはいやなので、小切手を郵送した。

 しばらくして小切手は入金されたが、その後の連絡がない。今度はメー

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チョムスキーとの対話 10戦いすんで夜は更けて

チョムスキーとの対話 10戦いすんで夜は更けて

 会場を出るときに、ビュッフェの食事がまだ残っているのが目に止まった。そういえば夫の食事もろくに用意しないまま家を飛び出してきたんだっけ。残りものは捨てられるから、おみやげにちょっと頂いていこう。

 ウェイターの人が片付けを始めているから、急いで紙皿に食べ物を積み上げる。皿が手のひらサイズなので、山盛りにしても大した量ではない。これ以上乗せたらこぼれるというところで別の皿でふたをして、落とさない

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チョムスキーとの対話 9いよいよオークション

チョムスキーとの対話 9いよいよオークション

 講演の次は自由行動。壇上にスクリーンが張ってあって、レジストの40年の歴史を振り返るスライドが上映される。ケンブリッジを拠点にするというニューオリンズ風のブラスバンドが繰り出してきてとてもにぎやかだ。会場の後方のテーブルには「レジスト40周年記念」とデコレーションした長方形のケーキがあって、スタッフによるケーキカットのあと小さく切りわけられたものをめいめいで取って食べた。壁にはレジストの活動内容

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チョムスキーとの対話 8チョムスキーの講演

チョムスキーとの対話 8チョムスキーの講演

(録音した音声をもとに書き起こしたもの)

 こんにち、「権力に立ち向かう」という考えは十分に実行可能なものです。また、そうすることは理にかなったことでもあります。権力はそれが自らの正当性を証明できない限り不当なものですが、証明が可能なことはほとんどありません。

 しかも、以前に比べて状況は大きく変化しています。今「政府による抑圧」というと盗聴くらいのものであって、政治的な暗殺や、警察が大衆運動

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チョムスキーとの対話 7講演

チョムスキーとの対話 7講演

 食事のあとはゲストスピーカーによる講演だ。パンフレットによると、講演者の顔ぶれは次のとおり。

マンディ・カーター:黒人のレズピアン活動家。クエーカー系の「アメリカン・フレンズ・サービス委員会」と「平和主義を奉じる戦争抵抗同盟」の会員。

ノーム・チョムスキー:レジストの創立メンバーの一人。教育者、政治活動家。言語学の権威であるとともに、アメリカの外交政策を厳しく批判する活動家として知られる。

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チョムスキーとの対話 6腹ごしらえ

チョムスキーとの対話 6腹ごしらえ

 ビュッフェ形式のケータリングが来ていて、会場の隅にはおいしそうなご馳走が並んでいる。会費が75ドルともなれば食事もそれ相当のものも用意するようだ。大勢集まってきたゲストで長い行列ができている。オークション参加の腹をくくった私も負けじと並んで、小さい紙皿に山盛りにして食べた。洋食に中近東やアジア風のメニューがとりまぜられていておいしかった。

続く

(写真:iStock by Getty Ima

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チョムスキーとの対話 5チョムスキーと会う値段

チョムスキーとの対話 5チョムスキーと会う値段

 パーティの式次第は、ビュッフェ形式の食事に続いてゲストスピーカーによる講演。講演の前にサイレントオークションとはなんだろうかと思って見に行くと、ホールの外の廊下にオークション品目が展示されている。テーブルにはそれぞれのアイテムに入札価格を書き込む用紙が置かれている。一行に名前とメールアドレスか電話、値段を書くコラムがあるだけの簡単な書式だ。

 係りの人に聞いたところ、締め切りは11時だという。

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