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チョムスキーとの対話 18手紙と訃報

2008年4月下旬-キャロルさんからの手紙

 インタビューの翌日、チョムスキーからお礼のメールがあった。キャロルさんは喜んで、日中ずっと座っているダイニングのテーブルに花を飾っているとのこと。迷惑でなかったようなのでほっとした。さらにベブさんから、キャロルさんが礼状を送りたいと言っているので住所を教えて欲しいという問い合わせがあった。病人にそんな負担をかけるわけにはいかないと一度は断ったが、キャロルさんはリハビリを兼ねてカードを書くことを日課にしているという。ペンをにぎるのも大変なので実際に書けるかどうかわからないけれど、一応教えてほしいということだったので、そういうことならと住所を伝えた。

 数日後、キャロルさんから礼状が届いた。封筒の表書きは看護婦さんが書いたらしい筆記体。カードの文面は、キャロルさんの直筆と思われる、小さなブロック体。メッセージの下にチューリップが数本描き添えてあって、それぞれが違う色に塗られている。とても心のこもった可憐なカードだった。

2008年12月-キャロルさんの訃報

 インタビューから9ヶ月後の2008年12月19日、キャロルさんは自宅で亡くなった。若くして三人の子どもをもうけたあと、夫が政治活動で逮捕されて家族が養えなくなるかもしれないとの恐れから大学院に戻り、ハーバード大学で博士号を取得。子どもの言語獲得の研究や、読み書きに遅れのある児童の学習方法の開発など、同じ言語学でも夫とは違う分野で独自の活躍をした。定年後は夫の講演旅行に広くつきそい、「チョムスキーのゲートキーパー」として興味本位の報道陣から夫を守った。

続く

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