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「マグロの漬け丼」vs「おひたし」!~ツケルとヒタスは、どう違う?

”マグロのけ丼”が好きだ。
しっかりと味が染み込んだマグロは、酢飯に合う。


(photoAC)



一方、”ホウレンソウのおひたし”も好んで食べている。
ほとんどの主菜と相性が良い、名脇役といえる副菜だろう。


(photoAC)




あるとき、「マグロの漬け丼」と「ホウレンソウのおひたし」が同じテーブルに並んだ。

そこで私は思う――


「つける」と「ひたす」って、何が違うんだろう?


どちらも、『液体の中に入れる』という意味だと思うのだが・・・・・・。



というわけで、今回のお題。





★お願い★

この記事の「つける」とは、「漬ける」と漢字を当てる意味の「つける」です。

以下の例文のように、「調味料を食材にちょっと(時間的にも量的にも)接触させる」という意味での「つける」とは違います。そのことをご承知おきください。

例文)焼肉をタレにつけて食べる
例文)刺身にワサビをつける



❶液体量の比較


まず、マグロの漬けについて。

寿司に関する本を片っ端から調べてみる。
すると、マグロの「漬け方」は下記の写真の様子でほぼ一致していた。




全国すし商生活衛生同業組合連合会 (監修)
『現代すし技術教本 江戸前ずし編』p25
旭屋出版/2015年


液体(タレ)は、材料が完全に隠れない程度・・・・・・・・・のようである。



次は、おひたしだ。

『材料別野菜で満足おかず―栄養も満点400品(別冊NHK きょうの料理)』に、「ほうれんそうのおひたし」の作り方が書いてある。


レシピによると、ほうれんそう300グラムに対し、大さじ1のしょうゆで”ひたす”らしい。



せっかくなので作ってみた。



「ほうれんそう」ではなく小松菜・・・・・・。
「ほうれんそう」は高かった😭


小松菜は、根元を切ると150グラムだった。
しょうゆの量も半分の大さじ0.5杯に調整した。


もう少し美しく作りたかった・・・・・・😨


液体量は、どうだろうか。
あくまで主観だが、マグロの漬けに比べかなり少なめである。



左側の画像は、既出の『現代すし技術教本 江戸前ずし編』を再掲したものです。



「漬けマグロ」がプールのように器全体に液体が広がっているのに対し、「おひたし」は器に液体が到達すらしていない。



つまり、液体が多いのが「つける」、少ないのが「ひたす」と言えるのかもしれない。






あ、違う。







”焼きびたし”は、「ひたす」なのに水分量が多い!!


妻が作ってくれた焼きびたし
これと白米があれば、他の物は不要ッ😮



さきほどのマグロの漬けと比較しても、水分量は変わらないような気がする。

と、いうわけでさきほどの表を修正したい。


つまり、

◆つける・・・・・・液体の量が多い
◆ひたす・・・・・・液体の量が少ないこともあるし多いこともある

ということだ。
ただ、「つける」と「ひたす」の違いはこれだけなのだろうか?

他の観点でも考えたい。


❷時間の比較


触れる液体の量についてはわかった。
次は、食材が液体に触れている時間について追究する。

私の感覚では、

◆つける・・・・・・長い時間
◆ひたす・・・・・・短い時間

だと捉えているが、はたして――


【つける】


『調理科学でもっとおいしく定番料理 (1)』に、マグロの漬け丼の作り方が載っている。


抜粋し、以下に引用する。

バットにしょうゆとみりんを合わせる。そぎ切りにしたマグロを並べ入れ、途中で上下を返して2~3分漬ける。

朝日新聞社
『調理科学でもっとおいしく定番料理 (1)』p35
朝日新聞出版/2021年


漬ける時間は、「2~3分」とある。









思ったより短いなΣ(゚ロ゚;)




マグロの漬け以外も調べてみる。


『み〜んな大好き。元気おかず。 から揚げっ! 照り焼きっ! ハンバーグッ!』の9ページに、から揚げの作り方が書かれていた。




そこには、

1 漬け込む

(中略)
ボウルに下味の材料を混ぜ、鶏肉を加えて20回もみ込み(c)、室温に20分ほど置く(d)。

市瀬 悦子
『み〜んな大好き。元気おかず。 から揚げっ! 照り焼きっ! ハンバーグッ!』p9
グラフィック社/2021年



とある。



さらに、

10分と20分とでは味の染み込みが違う!断然20分がおすすめ。

市瀬 悦子
『み〜んな大好き。元気おかず。 から揚げっ! 照り焼きっ! ハンバーグッ!』p9
グラフィック社/2021年



とあり、「20分漬ける」ことが推奨されている。



他のレシピ本で他の料理を見ても、漬ける時間は、「15分~5時間程度」というものが多かった。


ただ、漬物は別格。


◆即席漬け……1日~2日
◆当座漬け……2日~2週間
◆保存漬け……1ヶ月~2ヶ月(場合によっては5年~6年)

など、非常に長い時間をかけるのだ。



【ひたす】


一方、ひたすの方は、明確に時間が書かれているものを見つけることができなかった。(私のリサーチ不足の可能性もあるが)



レシピには、

(調味料を)あえる、かける、ひたす、なじませる

といったことが書かれており、時間については記載されていないのだ。


ただ、どのレシピにも共通しているのが「食材全体に調味料を行き渡らせる」という意識だ。


それもそのはず。
「ホウレンソウのおひたし」を作るとき、味のしない部分(=調味料が行き渡っていない部分)があってはよろしくない。



したがって、”時間”については、次のようにまとめることができるのではないだろうか。



寿司屋で判明!



「つける」と「ひたす」の違いは、液体量の違いや液体に触れさせる時間の違いである。

私はそう結論を出した。


そして、

「漬けマグロ」のこと調べていたら、お寿司屋さんの本格的な「漬けマグロ」が食べたくなっちゃったな😆

と強く思った。
レシピ本で、美しい漬けマグロや漬け丼を見ているうちに、そのような欲求に駆られたのだ。

ケンタッキーのCMを見ると、無性にケンタッキーのフライドチキンが食べたくなるのと同じ現象だろうか――。


そして、普段行く回転寿司とは違う、回らない寿司屋へ・・・・・・。

高級寿司店に不慣れで緊張する私であったが、職人さんは気さくに話しかけてくれた。


(photoAC)



私が来店した経緯(「つける」と「ひたす」の違いを考えることを通してマグロの漬けが食べたくなった)を伝える。

すると、職人さんはマグロに関する話をたくさんしてくれた。


「マグロって、江戸時代は下等な魚・・・・として扱われていたんですよ」


聞いたことのある話だったが、「知ってます」なんて無粋なことは言わない。


「冷蔵技術のない時代でしたから。
鮮度が落ちやすい・・・・・・・・マグロを、おいしい状態で都市部に届けることは難しかったんですよね」


そこまで詳しいことは知らなかった。

「しかし、当時の人のすごいところは、それを技術で何とかしてしまう・・・・・・・・・・・ところ。切り身にしたまぐろを塩気の強い醤油へ漬け、生のまま安全に届ける保存技術が考案されたんです」

エッ!!
そうなの?!

「そうやって生まれたのが、マグロの漬け・・・・・・です。保存ができるだけでなく、味もおいしかったから、人気になったんですよ。はい、どうぞ!」

(このタイミングで、マグロの漬けのお寿司が提供される)


(photoAC)







翌日、私は図書館に走った。


無論、「け」について調べるためである。


(photoAC)


数々の書籍に、「漬けマグロ」ができた経緯が載っていた。


◆漬け(づけ)

魚をヅケ醤油に漬けたもの(中略)。マグロの握り寿司が登場した当時、マグロはヅケで食べるものでした。マグロは縄文時代から食べられていましたが、鮮度が落ちやすく、あまり好んで食べられず、長らく身分の低い人の食べ物とされてきました。

著)新庄綾子 監修)藤原昌高
『すし語辞典』p144
誠文堂新光社/2019


◆づけ

鮨屋の専門用語でマグロの赤身を醤油漬にしたもの、漬け込むことから詰まってづけという。
冷蔵技術もなく、輸送方法も発達していなかった江戸時代後期に、鮨職人はマグロの赤身を醤油に漬け込んでおくことを考えた。これは魚肉の表面の酸化を防ぐ保存方法でもある。

監修)西村元三朗 , 川上行蔵
『日本料理由来事典 中』
同朋舎出版/1990


「漬ける」という行為は、本来、食材を保存する目的があるのだ。


「マグロの漬け」も、当初は保存目的で作られていた。
冷凍技術や輸送手段が発達した現代において、「保存」の意味は薄れたが、名前の由来として残っている。


漬物も、その目的の第一は長期間にわたって保存するためである。
(冷蔵庫のない時代、春夏に収穫した食品を冬まで保存しなければならなかった)




他に「漬け」という言葉がつく料理はなかったか・・・・・・。


あっ!









”魚の南蛮漬け”だ!



アジの南蛮漬け
(photoAC)



南蛮漬けは、酢(甘酢)に漬け込んで作る料理だ。
酢の効果により、通常より長く保存することができる。



「漬ける」と「ひたす」の違いはいくつかあるが、「『漬ける』には長期保存という目的がある」というのが一番わかりやすいのではないだろうか。




というわけで、答え。


自分の考えが100%正しいとは思っていません。
異論・反論・質問があれば、ぜひコメント欄で教えてください😆

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