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建築ビジュアルCG AI活用法① スケッチからイメージ生成 ~実例紹介~

こんにちは。STUDIO55技術統括の入江です。
前回のコラムで、デジタルハードウェアの進化を、AIを知る上でのベースナレッジとしてお伝えしました。

いかに今のデジタル社会でAIがパワーを持ったものかがご理解いただけたかと思います。また、今後のデジタルの進化は、すべてAI抜きで語れないものになります(すでになっています)。

生成AIを牽引するアドビは、4月23日に、Adobe Fireflyの更なる進化版 「Adobe Firefly Image 3 Foundationモデル(ベータ版)」 を発表し、Photoshopのこれまで以上の強力な生成AI機能を統合したベータ版と、Adobe Firefly Web版を公開しました。
Adobe MAX London 2024の発表内容にあるように、“完全なコントロール”が実現され、AIの“コントロール”に関する課題がより解決されつつあります。

Adobe Firefly プレスリリース より

生成AIのカテゴリ分け

現状における画像生成AIは、以下の4つ程に分類されると考えています。

① Sketch to Render
  スケッチや画像からイメージ生成
② AI Retouching
  アップスケール、強化処理、リアルタイム、部分画像生成、背景画像生成
③ AI 3D Modeling
     3Dモデル生成
④ Image to Video 
     画像から映像生成

もっと細かく分類される要素を持った生成AIはたくさんありますが、ここでは 『建築ビジュアルのCG制作で活用できる要素』 に限って分類しています。

この要素の1つである ①Sketch to Render について、今回と次回でお話しをします。


生成AIの使用事例

ここで、実際に仕事で使用した事例をご紹介します。

某企業様からのご依頼で、“未来をイメージした海底から空までのデジタルネットワークを紹介する画像制作” がありました。建築というよりランドスケープ制作のニュアンスですが、いずれにしてもビジュアルへの理解がより必要な制作です。

海外制作でチーム選定し、わたしの方でスーパーバイザーリードを兼務しました。

実際に入稿したデザイン構成イメージの絵コンテが次の画像です。

実際の画の構成内容の指示書

それを基に、チームから上がってきたCG構成の確認用キャプチャ画像がこちらです。

クライアントの構成イメージに沿ってアセット配置はされています。しかし、たとえレンダリング前とはいえ、画に迫力がなく、とても広大なスペースに見えません。
これではジュニアレベルです。

こういったイメージクォリティを指摘するのは、実は指示の中で一番やっかいです。
イメージは人によって異なるため、具体的に指示を入れるとなると、ひたすら細かく、無駄に手数だけが増えてしまいます。
「もっと空間(景色)を広く見せて」 とだけ伝えても、なにをどうしたら良いか分からないでしょう。
おそらく当人は “そのつもり” で作っているのですから。

元より建築ビジュアルのCG制作者は、クライアントが言った事、指示で書かれたことしかしない傾向があります。創造性より堅実性に注力する図面ありきの仕事上の性質が、少なからず影響しています。その意味で、ある程度のデザイン性を求められる“お任せ”には不向きなところがあります。
とはいえ、“クォリティ” 抜きで昨今のビジュアルは語れるものではなく、建築CGジャンルにおいて、その点は課題となっていると感じています。

思うに、VFXなど他ジャンルのCG制作現場で理解されている責任区分が、建築ビジュアルのCG制作ではまったくといっていいぐらい理解されていない問題が根本にあります。
イメージビジュアル中心のCG制作現場では、リアル → ライン → クール フェーズと、それによる責任区分があります。
お客様に提示する前段階の “リアル” フェーズは、制作プロセスの “ライン” で分かれたCG制作者(アーティスト)の持ち分であり、責任区分として認識されています。
リアル(クォリティ)フェーズでクライアントからの指示待ちなどありえないですし、そういった確認待ちなど、おそらくクライアントや関係者がストレスになるだけのものでしかありません。クライアントはあくまでイメージ(シチュエーション)を指示し、制作者が責任を持ってリアルに落とし込む必要があります。

こういった制作フェーズは、もはや建築CGのジャンルでも例外ではなく、実際にわたし自身が、そのようなVFX業界的なスーパーバイザーの立ち位置で技術的な指摘や落とし込み、あるいはリードとして実際にやって見せるケースが仕事上で多くあることからも、もはや同様の制作フェーズを建築ビジュアルのCG業界でも意識すべきだと思っています。
現代いまのビジュアル中心の社会では、依頼するクライアントもそれが当たり前のように “ビジュアルのプロにお任せ” する傾向が強くなっており、一般的にもVFX系の映画やゲームの影響も少なくないことから、今後、建築のCG制作においても他ジャンルの取り組みも認識した体制作りがより必要になってきます。

ご紹介しているこの事例は、特に“建築的”な制作ではないため尚更ですが、当然のように画作りのプロセスは建築CG制作者のやり方であり、イメージを作り上げるプロセスのリアルラインに辿り着かない段階でのデザイン性とクォリティの指摘が必要になっているのがお分かりいただけるかと思います。

そのために、クライアントが期待する画の “イメージ” を伝えて指示する必要があります。

この際、わたしは “イメージ” を事細かに書き込みや言葉で指摘するのではなく、AIに伝えてイメージを生成させてみることにしました。

画像生成AIで作ったイメージ

どうでしょう。
建物や船の大きさ、物量、遠近感、etc…
何をすべきか、これ以上ないぐらい具体的に分かると思います。

このようにざっくりしたイメージの共有にはスケッチ(画像)からの生成AIが役立ちます。
またそれは、建築ビジュアルのCG業界で最もあやふやになってきた ”お任せ”リアルフェーズを、AIで具体的にカバーできるといった事例でもあります。

次のような場合にも活用ができます。

ありもののCGデータを使って家具などはお任せで配置し、インテリアイメージだけをクライアントからの参考画像に合わせる制作の場合です。
家具は “ありもので” と言われるCG制作は意外と少なくありません。その分の予算を節約することにもつながるからです。
詳細に家具をモデリングしない分、作業としての聞こえは楽なようですが、実は、空間形状や床材などの素材の指定を踏まえて全体の空間イメージを良く見せるには、単に家具を置くだけではなく、“インテリア イメージ” 全体のカラースキームを整えなくてはなりません。

こういったケースの場合、必ずクライアントからインテリアイメージになるリファレンス画像をいただくようにします。しかし、建築パーサーの場合、お伝えしたように、“お任せ” 制作に慣れていない点があり、指示待ちの傾向が強く、デザインは基本的に仕事の範疇でもないため、誰かが具体的な指示を出さなければ何も進まない事が往々にしてあります。

そこで、このような“お任せ” 制作の一端に、生成AIが活用できないか試してみます。


生成AIを使ったイメージ反映の活用方法

仮に家具配置をしたCG画面のキャプチャを使い、インテリアイメージ画像がどのようにAIによって反映されるかテストしてみます。

3dsMaxでレイアウトしたリビング空間のモデル画像


インテリア イメージ画像 1

基本的に浴室の画像ですが、こちらのイメージがどれだけ反映されるかやってみます。

生成画像 1

グレーとアッシュブラックを基調にした都会的な色調空間に、バンブーナチュラルのアクセントがちゃんとデザインイメージに反映されています。


インテリア イメージ画像 2

日本ではなかなかないようなタイプのインテリアイメージですが、イメージ反映のテストとして見てみます。

生成画像 2

ホテルラウンジのようなインテリアイメージになりました。


インテリア イメージ画像 3

オフィスイメージのような画像ですが、このようなイメージが提供された場合の反映をテストしてみます。

生成画像 3

椅子がかなり破綻してしまいましたが、インテリアイメージは反映されています。


あくまで “アテ” として見るためのものなので、モデル形状の破綻などは無視します。
とにかく、時短、スムーズ、イメージ が大事です。
持ち出しにする参考画像がなかなかないので、やや強引な印象の画像をリビングイメージとして使用しましたが、それでもよくここまで反映ができたことと思います。

このように、クライアントからのリファレンスイメージを、事前にAIで画像生成させておけば、あやふやな “お任せ” を具体的な指示に変換して伝えることができます。
生成AIの建築ビジュアライズへの活用法の中でも、Sketch to Render(スケッチからイメージ生成)は、もっとも単純に業務に活かすことができる方法の一つです。

次回のコラムで、このような「スケッチからイメージ生成」にオススメのAIをご紹介します。


VFX役職名 参考
スーパーバイザー(Supervisor)
監督、管理者。クライアントのビジョンを理解し、アーティストがそれを実現できるように技術的な面からも指摘し、品質を守る役割
リードアーティスト(Lead)
指導、統制、指揮。編成チームを統括する役割を担うアーティストの事
ジュニア(Junior)
経験が浅い制作者。→対義語は「シニア(Senior)」上級職

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