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お前らは現実とゲームの区別がつかない

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現実を舞台にポイントを競うゲームにハマっていく少年たち。「こんなことになるなら、友だちなんて作らなければよかった……」
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#学園もの

1-13. ようするに一番と三番の謎を解かなければ、なにもわからないってことか。

 ようするに一番と三番の謎を解かなければ、なにもわからないってことか。

「なあ、ユウシ。アルミって、ネットで答えを調べたりしてもいいのか?」

「アルミには現実とゲームの境界線なんてないんだ。だから現実にあるものは、なにを使ってもかまわない。というか、もう自分はアルミの中にいると思っていい」

 背後でユウシが答えた。

 ゲームをダウンロードしたわけでも、どこかにユーザー登録したわけでもないの

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1-12. 気を取り直した俺はマウスを手に取ると、五分もしないうちにアルミの情報が書かれたページを探し出した。

 気を取り直した俺はマウスを手に取ると、五分もしないうちにアルミの情報が書かれたページを探し出した。リンクをクリックすると、すぐモニタに四つの情報が映し出される。

・“The White Rabbit is a fictional character—Queen of Hearts” 9 4 20 52 38 10 35 P 5 3

・(Finger+Finger)×Tap×Tap×Tap×T

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1-11.「アルミが始まった直後のことは知らないけれど、今はちゃんと情報がそろっているから大丈夫」

「アルミが始まった直後のことは知らないけれど、今はちゃんと情報がそろっているから大丈夫。もっとも、僕も初めはシイナ先生にいろいろと教えてもらったんだけどね」

 目にかかった前髪をユウシはかき上げる。

 それなら俺もシイナ先生に教えてもらえばいいじゃないか。たしかさっきまでイスに座って足を高く組む完璧な上から目線のポーズで、俺たちのやり取りを見ていたはず……。

「あれ? シイナ先生は?」

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1-10. いや、充分すごいと思います。ハッキング。遠隔操作。

 いや、充分すごいと思います。ハッキング。遠隔操作。ひとつまちがわなくても犯罪ですよ。

 こうして気がつくと、俺は四人の部員とひとりの教師に囲まれていた。

「ねえ、トシ。いつジュンペーのスマホに裏口を開けたんだい?」

「以前のミッションで、必要になったことがあったのだよ。で、そのままになっていたのだ」

「トシくん、あのあとに閉じたって言わなかったですか」

「いいか、ジュンペー。トシなんだ

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1-9.「勘弁してくれよ、ユウシ。そりゃ中坊までの話だ」

「勘弁してくれよ、ユウシ。そりゃ中坊までの話だ」

 ヤンキーネットワーク! この部、大丈夫なのか?

 俺は全力でこの居心地の悪い空間から逃げ出すタイミングを見計らった。でも、そんな計画は、次々と部室へやって来る部員によって打ち消されてしまう。

「あれ? みんな、どうしたのです?」

「ジュンペー、いいところに来たね。今ちょうど新入部員を紹介していたんだよ」

 ユウシの声に促されて、部室の入

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1-8.「新入部員を連れてきたよ」

「新入部員を連れてきたよ」

 対馬は部室の扉を開けてそう言うと俺を見た。新入部員というよりはドナドナの子牛だけどな。

「難波じゃないか。おまえ、パソコン部に入るのか? それはリベンジに好都合」

「し、シイナ先生?」

 学園で数少ない聞き覚えのある声につられて、俺は室内を見る。縦四列に配置されたパソコンはざっと五〇台。そんな広い教室の一角にひとりの男子生徒とシイナ先生が座っていた。

 対馬

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1-7.「しかたないな。ちょっといいかい?」

「しかたないな。ちょっといいかい?」

 対馬は窓から離れると、すっと俺に体を寄せて耳元でささやいた。

「ワンオアとかワルプルとかドルオタ初心者。ちな推しはみくりん、あっつん、ラブリーロットンっす♥」

 胃に強烈なボディブローを叩き込まれた気がした。マジか。

「四月九日、一日目のワンオアのチケット譲ってくれる人、いたらリプください。ナポリトゥーン」

「みくりん、マジ天使♥♥♥ ↑握手した手

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1-6.「いまどきパソコン部? お疲れさま」

「いまどきパソコン部? お疲れさま」

「それで、さっきの解答を見て思ったんだよ。きみはパソコン部に入部するべきだ」

 全身で会話を断ち切っているのに、対馬はまったく動じない。鉄の心臓かよ。

「アルティメット・ミッションのことは知っているよね?」

「クラスのみんながハマってるゲームだっけ。それしか知らない」

「アルミは現実をゲームの舞台にするんだ。『ルール』があるから詳しいことは説明できな

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1-5. 地味で平穏な日常生活と地下アイドルへの葛藤に極限まで追い込まれていた俺は、先生の声で我に返った。

 地味で平穏な日常生活と地下アイドルへの葛藤に極限まで追い込まれていた俺は、先生の声で我に返った。

 クラスメイト全員が俺を見ている。

 正確には一分間に一一〇回転の勢いで高速回転し続けるシャープペンシルを見ている。

「い、いや。これは―」

 やってしまった。クラスメイトの「なんだ、こいつ(笑)」的な視線が痛すぎる。

「まあいい。とにかく時間だ。だがな、わたしも鬼ではない。難波、おまえに

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1-4. シイナ先生の目線に、みんなが下を向く。

 シイナ先生の目線に、みんなが下を向く。誰も答えにたどり着けていないことは明らかだ。

 ……しかたない。保険をかけておくか。

 俺は、いつもの積極的な消極策に取りかかる。まず、ライブを逃すわけにはいかないので答えは考える。でも、無闇に答えて、今のいい感じに目立たないポジションを失うことは避けたい。だから、許される限りヒーローの登場を待つ。たいていはヒーローが現れて、なんとかしてくれる。

「残

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1-3. 一問目は「2A+30=50 A=?」。

 一問目は「2A+30=50 A=?」。

 これは悩むレベルの問題じゃない。すぐに名も知らぬクラスメイトが手を挙げた。学園の自由な校風を象徴したみたいな長い髪が、ふわりと揺れる。

「一問目の答え。Aは10ですね」

「対馬、正解だ。さあ、あと一問。残り時間は四分四七秒だ」

 教室にシイナ先生の声が響いた。

 俺はちらっと黒板を見て、次の問題を確認する。

 二問目は「(1-C)×(2-E)

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1-2.「……また『アルティメット・ミッション』か。楽しいのはわかるが、切り替えは大事だぞ」

「……また『アルティメット・ミッション』か。楽しいのはわかるが、切り替えは大事だぞ」

「えー。そもそもアルミを教えてくれたのは、シイナ先生じゃんか」

「そうだよ。物理の最初の授業なんて、全部アルミだったじゃん」

 どっと湧き上がった教室に、シイナ先生の口角がひきつる。

「たしかにそうだった。だが、この間の中間試験の結果を見て、わたしは深淵の底から反省した。このクラスは物理の成績が壊滅的に悪

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1-1. 六月の昼休み。俺の前にベーグルが詰め込まれた弁当箱があった。

 六月の昼休み。俺の前にベーグルが詰め込まれた弁当箱があった。

 もっと正確に言えば、毒々しいレインボーカラーに彩られたベーグルが、弁当箱をみっしりと埋めていた。母親からのメモには、ただひとこと「NYで大流行」と書かれている。普通ならネタキャラ扱いされてもおかしくない状況だが、幸か不幸か、俺はひとりだった。

 私立囲町学園一年C組。これが今、俺が所属しているコミュニティだ。各学年に五クラス、一

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0.手の震えを抑えるために、ひとつ息を吸った。

 手の震えを抑えるために、ひとつ息を吸った。

 水曜日の午後六時。ターミナル駅のホームは、帰宅する人たちでごった返していた。電車を待つ人たちはスマホの小さな画面に目を奪われて、隣に立つ他人の顔には見向きもしない。今、この場で「ゲームをしている人は手を挙げてください」と叫んだら、どのぐらいの人が手を挙げるだろう。

 少なくとも目の前で背を向けている男子高校生は、そのうちのひとりだ。さっきから左手

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